映画『シェフ』~フォンダンショコラを潰そう~
先日、アマプラで映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』を観た。
内容は、
っていう話。本当にこの通りの映画でこれ以上のことは起こらないんだけど、この説明だけだとめっちゃつまらなそうだな。
有名な映画だし、存在は前から知ってたけど今まで観れていなかった。唐突に時間が出来たので観た。
めちゃめちゃ面白い。序盤以外は基本的にハッピーな内容で主人公のカールが成功していく過程を描いているからこっちもハッピーになる。
でも、それだけじゃない。色々印象的なシーンがあるからこんなに評価されてるんだと思う。
以下、この映画のネタバレ含みます。
まだ観たことない人はマジで面白い映画だから観よう。
主人公のカールがレストランを辞めるきっかけになってしまった出来事。映画序盤で嫌な美食評論家みたいな奴がカールのことをボロクソに評価してTwitterでめちゃめちゃ拡散される。
この映画の魅力的なところは主人公の成功と同時にSNSの影響力も描いていることだと思う。カールの勤めてたレストランに来た美食評論家は、ネット上でかなり名が通っていて、「この人に評価されれば一流!」みたいな感じ。現実でもそういう評論家っているわーって感じの人。カールはこの評論家に評価されるために腕を振るって今までとは違う独創的な料理を開発するんだけど、オーナーからは「いつも出してる料理を出せ」と言われて大揉め、カールはオーナーには逆らえずにいつも通りの平凡な料理を出すと評論家には「期待してたのに、こんな客に媚びを売るようなシェフだったのか、カール。☆2です」みたいな評価を下されてそれがTwitterでめちゃくちゃ拡散される。カール可哀想。
話の肝になるのはここから。おじさんのカールはこの時点でネットを知らずにTwitterを使ったことが無い。すぐにTwitterに登録したカールは評論家に対してめちゃめちゃな暴言を交えた返信をして、それも拡散されちゃう。
このシーンめっちゃ好きなんですよね、実際こういう人いるだろうな~とも思うし、ネット上でこんなにストレートな暴言を投稿出来たらどれだけ気持ちいいことだろうか、とも思う。この暴言が原因でカールは色々大変な目に遭うんだけど。
この後にカールが評論家の前で
「このフォンダンショコラはトロトロだ! これもトロトロ! これもトロトロだ!!」
って言ってフォンダンショコラをひたすら握り潰していくシーンも好き。
フォンダンショコラを握りつぶしていく動画も拡散されてカールのSNSでの評価は最悪、職も失ってどうしよーってなったカールは同僚と息子と共にフードトラックでキューバサンドを売る仕事をする。
ここからはとにかくキューバサンドが爆売れしてカールが成功していくだけ。それ以上のことはあまり起こらない。一応息子との関係がギクシャクしたりみたいなパートもあるけど、基本的に全部成功する。後半は成功していく人間と美味しそうなサンドイッチに癒される映画。
でも、この映画のメッセージ性って前半部分に集約されていると思う。
この映画でずっと描かれてるSNSの動き。最初は評論家の投稿(カールへの批判)が拡散され、カールの評価がガタ落ち。そこへカールのリテラシー皆無の暴言リプライ、それに汚い言葉で対抗する評論家。この一連の流れも拡散されてカールの評価がさらに落ちる。そしてその後、「カールのサンドイッチが美味い!!」っていう情報が拡散されてフードトラックへの客が爆増。どのシーンでもSNSの拡散力・影響力の絶大さが分かる。
流石にカールほどネットリテラシーが無い人がネットを使うのは中々見ないけど、『自称批評家の情報・印象操作』であったり、『人の不幸やスキャンダルに対する人々の興味』、『評価の掌返し』、そして、『美味いものに魅了される人』こういう今のSNSでも変わらないことを、良い面も負の面も問わずに話の中で描いているのは素晴らしいと思う。やっぱりネットは慎重に使おうと改めて思った。カールの
「この料理もこの料理もみんな伝統があってここの客は喜んで食べに来てくれる! これを必死に作ってる奴らもいる! お前はそういうことを少しでも考えたことがあるのか!! フォンダンショコラはトロトロだよ!」
って評論家に怒るシーン、痺れたね。インターネットの先には誰がいるのかということを想像できる人間じゃなきゃインターネットには向いてないと思わされる。
そして、『社会の中での自己表現の難しさ』というのもこの映画で描かれてると思う。カールは独創的な料理をしたい、でも、店のオーナーは今まで通りの同じメニューを出せと言う。それを出した結果、評価は散々。フードトラックで自己表現した結果、評価は最高。自己表現ってめちゃめちゃ難しいんだなって思わされる。
社会で生きるには必ず、集団の中で生きなきゃならない。でも、集団となると他の人や環境に合わせなきゃいけない状況が必ず出てくる。自己表現をしたいっていうのは万人が持ってる欲だけど、集団っていうのはそれを叶えるのに向いてなさすぎる。その中で自分を殺して安定した職に就くのか、不安定でも自己表現を最優先させるのか、その結果上手くいくのか。クリエイターや会社員、どの職業であってもこの壁には衝突するし、どちらかの選択をしなければならない。そういう万人に共通した欲だったり障害というもの、それの重大さを考えさせられる。
カールは自己表現の道を選んで成功したけど、必ずしもそれが正解とは限らないと思う。フードトラックなんてすぐ潰れるかもしれないし、雇われシェフでも続ければいつかはオーナーシェフになってみんなから評価されるかもしれない。その選択は誰にとっても難しくて、正解が分からないもの。これに着目してこの問題を考えさせれるのがこの映画の面白いポイントだと思う。
最後に、この映画でフォンダンショコラを潰すシーンに匹敵するほど僕が好きなシーンがある。それは『キンタマにコーンスターチを塗るシーン』
映画を観てない人は分からないと思うけど、観た人は共感してくれると思う。このシーンは意味が分からなすぎる。
長々と書いたけど、シェフはとにかくハッピーで面白い映画だからみんな観てねッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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