ファンタスティックorテリブル!? Mr.フォックス
家にいると、2階の窓からテラスの前を流れる小川を眺めることが私の習慣となっている。春から初夏の季節は特に、楽しみにしていることがある。水鳥たちがヒナを連れて登場する時期なのだ。
2年前、水鳥のバンがうちの目の前に巣を作り、ヒナたちが誕生し、川に降りてきた。やがてヒナたちが巣立っていった後も、冬でもバンはこのあたりに現れていた。
去年はオシドリがヒナと一緒にやってきた。その時の様子は去年noteでも紹介させてもらった。
バンも去年もまたうちの前に巣作りをしたけれど、結局ヒナの姿を見ることはできなかった。雨が多く卵が流されてしまったのか、うまく産卵することができなかったのかはわからない。でもそれから後も、この2羽のバンはいつでもこのあたりを泳いでいた。
そして今年の春先から、オシドリたちが再びやってきた。またヒナが誕生するのだろうか、と期待していたのだが、ヒナの姿を見ることはなく、いつの間にかこの川からいなくなった。そして、去年から居着いていた2羽のバンは、たまに1羽の姿を見るだけになってしまった。今年は水鳥の親子にお目にかかることなく、バンもついに引っ越してしまったのか、とがっかりしていた。
そんな矢先、あれは6月半ば頃、朝お花に水をやり、ふとテラスから小川の方へ目をやると、こちらへ向かって泳いでくる2羽のバンの姿があった。いや、よく見ると小さなヒナが一緒だった。
バンの姿を1羽しか見かけなくなっていた理由は、メスのバンが巣にこもって卵を温めていたからなのだ。3羽の小さなヒナを連れて泳ぐ姿はなんとも微笑ましく、なんと温かかったことか。しばらくうちの前に止まり、水浴びをしたり、ヒナたちにご飯をあげたりしていた。
その後も毎日必ず彼らはうちの前にやってきた。
去年から日々このバンたちの姿を確認しながらパンをあげていたため、目の前にいるバンファミリーはなんだか親戚の子供たちのように身近に感じていた。どうかみんな元気に成長してくれますように、そう祈りながら見守っていた。
ある日、夫がとても言いづらいことを口にしなければいけないという口調で話しかけてきた。
「バンのチビ、2羽しかいないみたい」
えっ・・・。私はテラスに駆け寄り川沿いを確認した。パパとママと、チビが1羽、2羽。草のかげに隠れているのではないかとしばらく目を凝らしてみたが、やはり2羽しかいなかった。
どうして・・・。やっぱりアイツなのか・・・。
それからも相変わらずバンが日中を過ごす場所はうちの前だった。パンを投げると親バンが急いでパンをくわえ、チビのところへ運び食べさせる。そうしてチビも日々成長していった。暑い日には、チビたちも川の水の中に潜り泳げるようになっていた。
このバンは危険が近づくと大きな声で「クックッ」と鳴く。敵を近づけないようにしているのだろう。また、カラスが近づくと、親バンは果敢に立ち向かっていき、追い払う。子供を守る親バンの姿はたくましい。
そしてまた2週間くらい経った頃だろうか、再び夫が言った。
「チビが1羽しかいないみたい」
信じたくなかった。自分の目で確認するまでは。ちゃんといたよ、と言い返したかった。けれど、やっぱり1羽しかいない。
ヒドイ・・・あんなに必死で子供を守っていたのに。どうして。やっぱり、アイツの仕業なのか。
このあたりにはキツネがウロウロしている。日中バンファミリーが川辺でくつろいでいる時も、草の茂みを歩く姿は何度か目撃していた。
しかし、本当にキツネは鳥のヒナを食べるのか? このバンやオシドリの成鳥が泳いでいる姿だって、何度もみているはずだ。けれど、親鳥たちはいつも無事だ。本当に鳥のヒナを襲うのか。
こうなったら、キツネのことをよく知るしかない。そういう時は、英国の身近な動物たちを見事に描写している偉大な絵本作家、ベアトリクス・ポターに教えてもらおう。
ピーターラビットシリーズの絵本の中には、キツネも何度か登場している。まずは、『キツネどんのおはなし』をのぞいてみよう。
本を開くと、冒頭から嫌な文章を発見。
Nobody could call Mr.Tod "nice".
「キツネどんを良い人だという人はどこにもいません」
なんと、やっぱりキツネは悪者なのか。
この本の中では、動物たちから嫌われているキツネとアナグマがお互いに意地の悪さから対立する。そして、アナグマがご馳走にしようと盗んでいたウサギの子供たちを、ピーターラビットといとこのベンジャミンが助けに行くというお話。
ここではアナグマとキツネがウサギの子供を食べようとしていた。
むむっ。やっぱり子供は柔らかくて美味しいのか。キツネへの憎しみが募ってきた。
次はこちら。『アヒルのジマイマのおはなし』にもキツネが登場する。
農家のアヒルであるジマイマは、自分の卵を農夫に取られてしまうことが嫌になり、森の中で自分で卵を育てようとして場所を探しに行くと、キツネに出会う。
キツネはいかにも親切な紳士を装い、ジマイマに自分の家を提供する。そこには鳥の羽でできたフカフカのベッドがある。ジマイマがいよいよ抱卵に入ろうとすると、その前に一緒にディナーパーティーをしようとキツネが誘う。キツネはジマイマが産んだ卵とジマイマも一緒に食べてしまおうとしたのだ。
なんと、やはりキツネは鳥を食べるのだ。しかも卵も好物のようだ。恐ろしい動物だ。どうしてキツネがうちの近くをウロウロしているのか。私の中でキツネへの憎しみが増していく。
そんな中、また別の本を見つけた。『チャーリーとチョコレート工場』や『マチルダ』などを書いた英国の作家、ロアルド・ダールの作品の中に、『ファンタスティック Mr.フォックス』という児童小説がある。ここではキツネはどのように描かれているのかとても気になる。私は早速本を入手した。
そこには3人の農夫が登場する。それぞれ、ニワトリ、カモ、ターキーとリンゴの農家を経営していた。そこへ、毎晩Mr.フォックスが鳥たちを盗みに入るのだ。
これは決定的だ! キツネは鳥を盗んで食べることがここではっきりと証明された。
怒った農夫たちは、キツネの住処である木の下の穴の前で見張り、キツネが出てきたところを待ち構えて銃で打つ。Mr.フォックスはそれにより、尻尾を失ってしまう。キツネを取り逃した農夫たちはさらに怒りを増長させ、なんとしてでもキツネを捕まえるべく、シャベルで穴を掘っていく。驚いたキツネたちは地下からさらにぐんぐん穴を掘って逃げだす。
すると、3人の農夫は今度はキャタピラーやトラクターで地面をどんどん切り崩していく。キツネが2度と地上に上がれないようにして、餓死させようという作戦に出た。
よし、いいぞ、がんばれ人間! と、言いたかったはずだった。
けれど、なぜかページをめくるうちに、キツネを応援している自分がいた・・・
Mr.フォックスは、Mrs.フォックスと4人の子供たちのために必死なのだ。さらには、地下で出会ったアナグマ、モグラ、ウサギ、イタチみんながMr.フォックスのせいで住む場所を荒らされ、食料を入手できずに困っていることを知ると、彼らの家族もみんな一緒に助けようとするのだった。
自然界は、食物連鎖の仕組みから成り立っており、それが壊されることはない。その厳しい現実に、人間が勝手に感情移入したところで、どうにもならない。
窓から外を見れば、今日も親バンたちに見守られながらすくすくと成長している1羽の子供バンの姿が見える。パンを投げると、真っ先にパンに駆け寄って自分でしっかり食べられるようになっている。
がんばれ、チビバン。がんばれ、親バン。私にはこうしてエールを送ることしかできないけれど、元気に巣立っていく姿を見届けたい。
*『ファンタスティック Mr.フォックス』は映画化もされています。しかし、映画版は原作から話が足されており、今回の私のキツネの話は本のストーリーを元にしております。
本日も長文記事にお付き合いいただきありがとうございました。
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