行き止まりなんてない
本日紹介する映画は、『行き止まりの世界に生まれて』。原題は『Minding the Gap』、本来は「段差に気を付けて」という意味だが、人生における男女間の亀裂や子供から大人からへの段差(gap)を意識する(mind)、という監督の思いが込められているそう。
U-NEXTにて鑑賞。『mid90s』を映画館で観たときの予告でやっていて、ずっと気になっていた。『mid90s』好きだけど、こちらもよかった。
あらすじは、キアー、ザック、ビンの三人の少年が、成長していく様子を12年間追ったドキュメンタリー。彼らは、それぞれに家庭の問題を抱えていたが、スケートボードだけがそんな日常から解放してくれる居場所だった。彼らにとってストリートがホームで、仲間が家族だった。
三人の主要な登場人物の内の一人、ビン自身が彼らの姿をビデオカメラで撮り続けていた。彼らはロックフォードというイリノイ州の都市に暮らしており、映画の公式サイトによると、この街は、
・全米で最も惨めな都市ランキング20 3位
・全米で最も危険な都市ランキング25 8位
・全米で最も劣悪な都市ランキング50 16位
という数々の不名誉なタイトルを手にしている。劇中でも、ラジオかテレビのニュースの音声が引用されており、「ロックフォードの労働者6万の内47%が、時給15ドル未満で働いている。」、「2010年以降、イリノイ州では最大の人口流出がロックフォードで起こっている。」という情報が伝えられていた。
ロックフォードも1970年代頃までは、アメリカの工場ベルトの街として製造業を支え、繁栄していた。しかし、現在では産業の移り変わりにより廃れた街になってしまったのだ。
ここに居ては「何も掴めない、何者にもなれない」と感じる若者たちは、成長するとすぐに別の州や都市に移り住むのだろう。
そんな廃れた街をスケボーで走り回る彼らの姿は、街とは対照的でキラキラしており、エネルギーに満ち溢れていた。スケートパークや街の障害物でトリックを挑み続ける姿は、青春そのままだった。
無人の立体駐車場をスケートボードで、疾走する映像、車の中で花火をつけて、バカ騒ぎする映像。どれもが、美しかった。
キアー、ザック、ビン、彼ら3人自身や周りの人物、母親や兄弟、妻へのインタビューによって浮き彫りとなるリアルな家庭問題、貧困、人種差別が、このドキュメンタリーの中核を担っているのは間違いないのだが、所々にカットインされる街中の景色がとても愛おしかった。街のベンチや階段、手すりには、なにか擦れたような跡が付いている。彼らが、スケボーのトリックをして付いた傷なのだ。彼らがこの街で、必死にもがいていた証じゃないかと感じた。
キアーはまじめに働き、お金を貯め、映画のラストにはデンバーに移り住むことができた。そこでもスケボーを続け、スポンサーがついたようだ。
対照的に、ザックは腐ってしまっていた。映画のエピローグでは、彼は立ち直っていたようだったが、どん底のときにこんなことを言っていた。
認めたくないんだ。人生が苦しいのは俺が最低だからなんだって。
フリーターには刺さるよおて!笑
邦題でいう、行き止まりの最低な環境の世界、街に生まれて、家庭では暴力などの問題に苦しんでいた彼らが、最終的には自分の力で這い上がる様を見て、奮い立たされた。彼らよりも幾分ましな環境にいる自分が立ち止まる理由はないと思える作品だった。この世界に行き止まりなんてないんだよ。
余談だが、『mid90s』を映画館に観に行ったときの出来事が衝撃的だった。
私は単館のよく行く映画館に観に行ったのだが、おそらく名古屋では、上映している場所が少なかったのかそこだけだったのか、ストリートファッションに身を包んだ若者たちで、スクリーンは溢れかえっていた。扉をくぐって席を探そうと暗い中、目を凝らすとイケイケの若者ばかりだった。スケートボードを抱えている者さえいた。
その単館の劇場はいつもは、時間を持て余した老人、映画好きな若者が50:50ぐらいでしか入っていないから驚いた。
『mid90s』だけじゃなくて、『A GHOST STORY』ぐらい見ろよ!と心の中でB-boyたちに叫んだ私であった。もっと単館に来る若者が増えてくれるといいな。
それではこのへんで。