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「ピエールとリュス」戦時下の悲劇の恋物語。今日は神戸大空襲の日
今日、3月17日は、神戸大空襲があった日です。
78年前、神戸は米軍爆撃機による無差別攻撃を受け、焦土と化しました。
飛行機による爆撃。
それは第一次世界大戦から始まったのです。
1918年3月29日、フランスのパリ。
サン・ジェルヴェ教会が礼拝中にドイツ軍に爆撃され、アーチ天井が崩れ、91人が亡くなりました。しかもその大部分が、女性や子ども。つまり非戦闘員でした。
作家ロマン・ロランは、この悲劇を人々の記憶に永遠に刻みつけようと、戦争の犠牲にされる若者の悲劇を描いた作品を執筆しました。
それが「ピエールとリュス」です。
戦時下の悲劇的な恋物語
「ピエールとリュス」(ロマン・ロラン著)
この短編小説は、1918年の春から夏にかけてのほぼ3ヶ月間で書き上げられました。
1918年は第一次世界大戦の末期にあたる時期ですが、当時にあっては戦争はまだ当分続くだろうと思われていました。
当時の若者たちにとっては、いずれ戦争で死ぬ未来しか考えられない、夢も希望もない暗い時代だったのです。
主人公ピエール・オービエは18歳。
6歳年上の兄は戦争が始まるとすぐに志願して入隊していました。
自分も6ヶ月後には招集される予定でした。
「戦争。戦争が腰をすえてから4年経っていた。戦争は、ピエールの青春に重くのしかかっていた。」
「6ヶ月後には祖国がピエールの肉体を必要としていた。戦争がピエールの肉体を必要としていた。」
戦時下徴兵されて死ぬしかない現実を前に、ピエールは苦悩します。
「苦しむことは何でもない。死ぬことは何でもない、その意味がわかっている場合には。」
「角突き合わす愚かな雄牛のように敵対する諸国家の野卑な乱闘にどうして関心などもつことができようか?」
「人と人のあいだで殺戮があるのはどうしてなのか?」
国家の戦争に個人が否応なく巻き込まれる理不尽さにピエールは打ちのめされています。
そんなある日、地下鉄に乗っているときにドイツ軍に空爆され、暗闇の恐怖の中で、偶然傍らの女の子の手に触れ、その手を握りしめます。
その女の子がリュスでした。
工場で働いている母親をもつリュスは、家計を助けるために肖像画を描いてわずかの収入を得ていました。
「今素敵なこと、それは明日があるってこと」
「まず、生きたいんです。」「ほんのわずかでいいから幸福がほしいの。」
貧しい労働者の家庭の生まれのリュスは、毎日生きるための厳しい生活の合間にも幸せを求めていました。
戦争の影は、リュスの家庭にも入り込み、母親との関係も変わってしまいます。
リュスの仕事も、美術品の模写から出征兵士の顔立ちを残しておきたいという家族からの仕事に変わっていきます。
二人は急速に親しくなり、パリの公園などあちこちで出会って親しく語り合うようになります。
しかし、ピエールが入隊する日は刻一刻と近づいてきます。
「ただひとつの救いは忘れること。最後の瞬間まで、この最後の瞬間は永久に来ないだろうと心の底で願いながら忘れ去ることでした。その瞬間まで幸せでいることでした。」
「死の波がピエールをさらおうとしていた。だから、ピエールは前もって何も支払うつもりはなかった。」
その日のことは忘れて今を愛し合う二人でしたが、ドイツ軍のパリ空爆が激しくなります。
ふたりの愛のまわりに、死と闇がうずくまっていました。
「ただひとつ確かなこと、それは今現在。わたしたちの現在。ともかくもこのわたしたちの現在に、永遠なるもののわたしたちの持ち分全部を注ぎ込もう。」
「愛し合っている今それが何より素晴らしい」
ひたすら愛に没頭するピエールとリュス。
そしてピエールが入営する日の前日、1918年3月29日聖金曜日、礼拝中の教会の人影のない場所で二人が抱擁しながら別れを惜しんでいるとき、ドイツ軍の爆撃機が教会を攻撃し、教会の太い柱が二人の上に崩れ落ちます・・・
ロランは、戦争の犠牲にされる若者の運命に深い同情と憐れみを感じていました。
この小説は、第二次大戦後の日本で広く若い世代に愛読されました。
戦争中の日本には無数のピエールとリュスがいました。
1950年には今井正監督で「また逢う日まで」という題名で映画化。
ガラス越しの美しいキスシーンで有名ですが、原作にも同じ場面があり絵画のように美しい描写です。
ピエールとリュスの悲劇は過去のものではなく、召集兵が前線に送られているウクライナでは日常の風景でしょう。
国家の都合で個人の運命が翻弄されてしまう悲劇は一日も早く地上からなくなってほしいものです。
執筆者、ゆこりん