水出しコーヒー商品の開発
お客様からの要望もあり、お水に浸けるだけで手軽にアイスコーヒーがのむことができる「水出しコーヒー」の商品開発に取り組むこととなりました。今回は水出しコーヒー商品を作成するにあたり、苦戦した話をさせていただきます。
求められるもの
水出しコーヒーに求められるものをまず考えました。簡単にアイスコーヒーを楽しめる「手軽さ」、本格的な味わいが楽しめる「風味」、手に取りやすい「価格」この3つが消費者様から求められることになると思い、開発に取り組みました。
使用する原料
「水出し」ということは常温で抽出することとなるのですが、コーヒーのコクや苦味といった風味要素の内最も重要な成分が「カフェイン」です。このカフェインは熱と反応して初めてコクや苦味といった成分を出すため、カフェイン無しで濃厚感のある水出しコーヒーを抽出するのは難易度が高いのです。数社試飲しましたが、大手メーカー様の販売する水出し商品でも、熱湯で抽出して急冷したアイスコーヒーほどの濃厚感のある商品はありません。※カフェインが全く抽出されないというわけではないです。
アイスコーヒー向けのコーヒー原料としてよく使用されるのが「カネフォラ種」といわれる品種です。コーヒーの品種はこのカネフォラ種と「アラビカ種」の2つに大別され、カネフォラ種は濃厚感とコクは強いが、酸味や甘みは弱く独特の香りがする、価格がアラビカ種より安いという特徴があり、「アラビカ種」はカネフォラ種ほどの濃厚感はないものの、酸味や甘み香りに優れ、価格が高いという特徴があります。品種別の特徴はまた別の機会にお話しするとして、なぜカネフォラ種がアイスコーヒー向けに多用されるのかというと、アラビカの約2倍のカフェインを含有しているからです。このカネフォラ種を使用することでガツんと濃厚感のある味わいのアイスコーヒーを抽出することができます。「価格が安い=美味しくない」というワケではないのです。
ただし、他メーカー様と同じでは差別化はできないので、「アラビカ種100%」にこだわった水出しコーヒー商品を営業担当と開発担当と共に作成することと致しました。
薄すぎる・・・どうなってんだ?
第一段階の商品試作は営業担当と開発担当に任せることとしました。初回のテストでは「水洗式アラビカ種100%」でやってみよう!ということで通常焙煎、深煎り、粒度は中挽き、使用する不織布は一般的なもので試作してもらいましたが、「お茶・・・?」と思うぐらい薄味のものが完成しました。なんとなく想定はしていましたが、水洗式100%では味わいはクリアーすぎて、濃厚感が抽出されないこと、通常の焙煎では濃厚感と苦味が出ずキレがありすぎる後口になること、エージング期間(ガス抜き)が不十分で抽出が十分に行えていなかったこと、粒度を細かめにしていないことが薄味の原因となっていたのは明らかでした。これらの要因を踏まえて、試作&テストを幾度となく繰り返し、以下のような商品設計を行いました。
完成品のコンセプトと設計
コンセプトの「アラビカ100%」は変わらないのですが、さらなる風味の強さと差別化を図るためタンザニア産のスペシャルティコーヒー(水洗式)を60%配合に使用することとし、残る40%はブラジル(非水洗式)を使用することとしました。各コーヒー生豆の味わいを活かすため生豆の段階でブレンドする「プレミックス」ではなく、焙煎してからブレンドする「アフターミックス」にてブレンドすることとしました。
タンザニアはパワフルな味わいとキレのある質感を出すために高温短時間で焙煎し、ブラジルはマイルドな味わいと非水洗式の後口に残る質感をだすため、低温長時間焙煎を行いました。
焙煎後の豆はガスを放出し続けるため、この状態で抽出しても十分な抽出が行えないことから、エージング期間を3日以上に設定しました。
粒度は中挽きから中細挽きに変更することで、より収率の高い抽出が行えるようになり、また中細挽きにすることで微粉の発生率が高くなることで、この微粉の存在が濃厚感に一役かっています。(ただし、微粉が多すぎると不織布に目詰まりしてしまい抽出不足が発生するので、この調整には時間を要しました)
これらの試行錯誤を経て、ようやく満足できる味わいの水出しコーヒーが完成しました。とはいえやはりお湯を使用して抽出するアイスコーヒーの味わいに比べるとまだまだ味わいは弱いのですが、濃く抽出していただくために「水出しを行う前に、熱湯をかけることでより濃く抽出ができますよ」という一文を商品パッケージに記載しました。
終わりに
コーヒーの商品設計を行うときにはまず「コンセプト」から取り掛かり、他にどういった謳い文句(お客様に分かり易い特徴)が使えるのかを考えなければいけないと考えています。この商品では「アラビカ種100%使用」、「特徴を活かすため、アフターミックスを採用」、「スペシャルティコーヒー60%使用」という3つの謳い文句を使用した商品となりました。今週末から店舗で販売されるので、お客様の評価に戦々恐々としています・・・。