マガジンのカバー画像

書評エッセイ

4
運営しているクリエイター

#文学

『夢の浮橋』と谷崎の嘘

『夢の浮橋』と谷崎の嘘

 谷崎潤一郎の『夢の浮橋』を読んだ。
 読後感。シンプルに気持ち悪い。そしてやっぱり谷崎は素晴らしい。

第1 雑感

 小説の冒頭部分、作者は、読者を騙そうという明確な意図を持ち、語り手の幼少期を牧歌的に描写している。
 幼い頃の実母との思い出、日本家屋と庭園の精緻な描写、おまけに日本家屋の柔らかい挿絵がところどころに登場する。殊に、庭の添水の描写は、長閑で美しい幼少期の記憶の象徴であるかのよう

もっとみる
『もしも雪が赤だったら』 エリック・バテュ

『もしも雪が赤だったら』 エリック・バテュ

 この本のタイトルは、僕に購入を即決させるには十分すぎる程のイメージの奥行きを持っていた。

 今から4年程前の夏の頃である。
 地元の大分県に帰省中、友達との待ち合わせ時間までの残り15分程をクーラーの効いた空間で過ごそうと、「カモシカ書店」に立ち寄った。店の前に到着すると、屋外の古本コーナーには足を止めず、階段を登り2階の店内へと向かう。扉を開けると、クーラーでよく冷えた室内の空気が頬に向かっ

もっとみる