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蛇と轍を踏む(上)





空気ははっとする程どよんでおり

静寂さえ満ちていた

わたしは聴覚をチューニングしなおした

心も魂もことごとく寒天に固められ

不思議にも透き通ってしまって



向こう側の国が見えていた


真白い蛇が恍惚に舞う

わたしの脚にしがみつく



ひとりぼっち。だそうだ




この蛇もまた
言わなくていい事ばかりが溢れ出し
軽蔑と憧れをごらんよとばかりに
いつまでも死を告げ
冷たいアスファルトの上を廃ながら
誰も聞こえない声でやってきたのだろう。



しがみつくようにわたしの右脚に巻きつく

そして離れない

何年経っても

体の芯がぼんやり光るように甘美にうずく

怒りや哀しみという名の感情は月に帰り

わたしは幸福感で満たされていた

心が踊るというより弾むというより

伸びる。

右脚に住む蛇は私をどこまでも伸ばした



とろかしてわするる
とろかしてわするる


身に纏うの ぼろと蛇
何度だって 轍を踏む


むくげの花がしたたり
わたしを濡らすのだ


とどく ひびく つづく
きれる めぐる ひとつ


そこの蛇、真白いの、





「あなたのお国はどちら?」







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