BtoB SaaS のパートナー / 代理店セールスの肝
今回は BtoB SaaS の営業ルートの一つである パートナー / 代理店経由でのセールスについて、そのメリットやどのような方針で進めるべきかを記載します。
前提
パートナー / 代理店セールスは 自社の SaaS プロダクトを外部の企業経由で販売することと捉えます。
販売だけではなく、CSやCXといったプロダクト導入後の対応もパートナー / 代理店にて実施する座組を想定します。
ハイリターン。しかし難しい
まずパートナー / 代理店セールスにどのようなメリットがあるかを考えてみます。
パートナー / 代理店の販売網や既存顧客とのコネクションを活用できる。これは特に創業間もないスタートアップとしては非常に魅力的です。初期フェーズではリード獲得から難しく、すでにアプローチするターゲット顧客を多く持つ企業のアセットはプロダクトの成長の大きなブーストになります。
パートナー / 代理店の営業リソースを活用できる。上記と同様ですが、セールス活動を担ってくれる営業担当者や営業部隊があればそういった外部のリソースでプロダクトの拡販を実現できます。
導入後のサポート工数を下げられる可能性がある。CSやCX対応もパートナー企業にて実施可能であれば、エンドクライアントをサポートする工数が大きく削減できます。もちろんパートナー企業へのヘルプは都度発生しますが、その工数のみで複数のエンドクライアントの保守運用サポートを実現できることになります。
と、パートナー / 代理店セールスでは基本的に自社の少ないリソースで多くのエンドクライアントを持つことができるため、非常にメリットが大きいです。
しかし言うは易しで、そのような関係を構築するのは非常に難しく、かつ時間がかかるものです。イメージ的には足掛け数ヶ月 ~ 数年に及ぶエンタープライズセールスに近いと考えています。以下に難しさとそれに対する考え方を紹介します。
1. マージン以上のメリットを提供できるか?
パートナー / 代理店セールスのメリットは前述のとおりですが、同様にパートナー企業にとってその協業がどのようなメリットにつながるのかを設計する必要があります。
アライアンスでは通常、卸値を設定してパートナー / 代理店は彼らの販売価格と卸値のマージンを利益とする という設計になります。もちろんその値段次第ではありますが、実際はパートナー / 代理店はそのマージンだけではなかなか動いてくれないのが現実です。
ではどのようなメリット(利益)の出し方を設計するかというと、その協業がパートナー / 代理店の本業にどう貢献するかを意識すると良いです。
例えば BtoB SaaS の企業がまずイメージしがちなのが、システムの理解が深く、かつ多くの企業とのコネクションがある SIer や コンサルティングファームとのアライアンスかと思います。その場合彼らがどれだけのマージンを得られるか だけでなく、彼らの本業であるシステム開発やプロジェクト支援の仕事にどれだけつながるかを意識する、といった具合です。
上記ではSIer や コンサルティングファームを例に挙げましたが、実際はその SaaS プロダクトが主戦場としているマーケットの中のプレイヤーでうまく利益設計ができる主体を探すのがよいでしょう。
僕が以前作っていた「試験をオンライン化する SaaS」では、試験運営(会場準備や試験当日の運営)を受託する企業とのアライアンスがうまくいったことがありました。一見試験がオンライン化すると彼らの仕事がなくなるように見えますが、試験がオンライン化しても運営に関する受託業務は形を変えて残るので、パートナー企業とは両者が繁栄する良い関係を築くことができました。
2. パートナー企業の中が見えているか?
ダイレクトセールスでは通常窓口の担当者とその上の決裁者を意識するくらいかと思います(エンタープライズセールスは除きます)が、パートナー企業の開拓においてはもっと深く広くその企業の内部構造や状況を把握する必要があります。
前述のようにその企業が今どんな事業からどうやって利益を生み出しているか、今後どの方向性に進むのかによってアライアンスの見せ方は変わります。
それだけではなく、実際に SaaS プロダクトのセールスや導入、その後のサポート対応まで担ってくれる現場の方々についても理解したいところです。
彼らも人間なので、どうすればうまく協業の座組が回るかを考える上での視点をいくつか紹介します。
商材(SaaS プロダクト)は売りやすい状態か? SaaS のセールスでは製品の知識を当然求められます。特に協業初期のうちは勉強会などを実施して彼らの製品理解度を上げる .. といったことが検討されます。またもし彼らが複数の商材を扱っている場合、その複数の中で「1番売りたい」プロダクトであると認知してもらえるとさらに良いです。
IT への理解(リテラシー)度合いはどの程度か? 特に古くからある業界向けのプロダクトの場合、パートナー企業の中の皆さん含め IT リテラシーがそこまで高くないことも想定されます。場合によっては直接エンドクライアントのサポートを実施するなど、助けられるようにしておくことも場合によっては必要です。
3. パワーバランスを意識できているか?
これは1社でもパートナー / 代理店企業を獲得できている前提の話ですが、そのパートナーと自社の関係性は常に意識しておく必要があります。
というのも、もし1社もしくは2社の強力なパートナーが SaaS プロダクトの売上の大半を占める状況になると、別のリスクが発生してくるためです。
このような状況ではダイレクトセールス経由のクライアントと当該パートナー経由を合わせた全クライアントの多くの割合をそのパートナーが抱えていることになるため、具体的には以下のようなリスクを負うことになってしまいます。
卸価格や条件の強気な交渉を受ける
そのパートナーに有事の際は大半の売上を失う
これに対する対策としては以下が考えられます。
パートナーは複数社開拓する
ダイレクトセールス経由の割合のクライアントもある程度まで高めておく
そのため、たまにダイレクトセールスとパートナーセールスのどちらを強化するべきかといった議論がありますが、どっちもしっかりやるべきです。
この 2 つは活動内容やそのための必要なスキルセットも変わってくるため、規模がある程度大きくなった組織では明確に役割をわけることを含めて検討するべきと考えています。