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【書籍紹介】自分の会社をつくるということ 経沢香保子 著

動画版は、こちら。

著者の経沢さんは26歳の時に女性の強みを活かしたマーケティング会社トレンダーズを設立し、上場まで育て上げ、若手女性起業家として注目を集めました。その後、トレンダーズからは手を引き、ベビーシッター派遣サービスを提供するキッズラインを設立。現在は、同社の代表をされています。

本書は2005年発売と20年前の本となりますが、現在でもバリバリに通用する経営の手法や心構えが満載です。

著者は、当時、女性起業家を養成する起業塾も運営されていたことから、女性起業家向けの本と捉えられがちですが、全くそんなことはありません。起業を目指しているすべての人に有益な内容となっています。

女性経営者、かつ、年齢も若いということで、当時のビジネス界においては超マイノリティー。そのハンデに苦しみつつ、一方で、若い女性であることを強みに変えた戦略などは、弱みを強みに転化した成功事例としてすべての起業家に参考になる内容と思います。

更に、女性で起業を目指している方にとっては、女性ならではの強みの活かし方や、注意すべき点も詳細に書かれているので、必読書といって良いかと思います。

例えば、女性に向けたメッセージとしては、以下のようなアドバイスが書かれています。

女性にとって自分の会社を持つことは、人生を自分で創り出していく生き方なんだ。女性は出世や権力より、自分のちからで人生の自由を獲得することに価値を見出す。

女性の場合、あまり行け行けドンドンというよりも、お客様といい関係を長く誠実に続け、従業員とも、むしろ家族のような感じでやっていく形を好みます。それが女性の特性に合っているんです。

それから女社長はもてなきゃダメだと思っています。男の人でも、仕事のできる男性はやはりもてます。それはとても大事なこと。やはり、相手のことをよく見ているからでしょう。相手のニーズを満たすとか、相手の求めているものを言われなくても差し出せるとか、自分の資源をどう相手に見せるとか、そういう気配りはビジネスの能力に直結していきます。

女性経営者が陥りやすい落とし穴に気をつけてください。あなたは女性スタッフと単なるお友達になってしまったらいけないのです。いったんお友達モードになったら、元に戻せなくなります。言いたいこともだんだん言えなくなったり、狭い視野のなかで解釈されても説明が難しいことが出てきたりします。

本書は、隅から隅までお読みいただきたいのですが、特にお伝えしたい部分にフォーカスして、以下、紹介します。

■目指すべき事業の規模

最初は、以下の規模と事業形態を目指すと良いとアドバイスします。

  • 年商1億円。

  • 従業員3~4名。

  • 社長の年収は2,000~3,000万円。

  • 利益率が高く、在庫を持たないビジネス。

  • オンリーワンのビジネス。

  • 今いる会社で成果を出し、認められる。

  • いきなり起業しないで、一度、ベンチャーで働き経験を積む。

■事業計画について

どんなサービスを、誰に、どのように売るのか、そして、どうすれば実現可能なのか。自分のやろうとしている事業がどういう意味があるのか、社会的にどんな位置づけか、どういうふうに説明したらわかりやすいのか、どうやってお客様をとるのか等を事業計画書としてまとめる。

自営業モデルでやるのか、経営型でやるのかを決める。最初から経営型で人を雇って、新しい事業をやるという方法もあるが、著者の場合は、近い将来経営型に移ることを前提に、自営業モデル型で軍資金を作るという選択をした。

また、起業の際にすべてリセットするのではなく、サラリーマン時代の信用や人脈活かすことが成功への近道と説きます。

起業の時点で、お客様になってくれる可能性の高い人が多ければそれだけで安心ということです。何度もお話ししているように、あなたが会社にいる間にできる限りのことをやっておいて、もう自分に合格点をあげよう、だから辞める、そういう状態にしておくのが一番なんです。きちんと筋を通して辞めるなら、勤めていた会社から逆に仕事を発注されることになるかも知れません。もともとお仕事していたお客様と強固な信頼関係があれば、違うサービスをやったときに、最初のお客様になってくださることも現実的にあります。まず信頼という形を作っていってください。

■経営を安定させるための5つのキーワード

  1. 事業ドメインを明確にする。

  2. 事業として確立する。

  3. リスクを分散し、顧客を創造し続ける。

  4. 組織を構築する。

  5. 社会に必要な存在となる。

具体的には、以下のようなアドバイスがなされています。

  • 小さなマーケットでオンリーワンのビジネスを目指す。

  • 多くのヒトが見逃しているニッチを探す。

  • 商品に強烈な個性があり、営業しなくてもクチコミで売れていくような商品を考える。

  • 顧客が喜んでくれる高いクオリティーの商品を提供する。

  • 単価が高く、確実に利益が出る商品設計にする。在庫を抱えないのが理想。

  • 1回提供して終わり。焼き畑農業の様に新規顧客を求め続けなければいけないビジネスはダメ。

  • サービスの流れを作り、リピート客で自然に回るような仕組みを作る。

  • 既存顧客を大切にし、購入単価をあげていける工夫を行う。

  • 社長の個人技からの脱却。意識して組織化に取り組む。

  • 薄皮を積み重ねるように信用を積み上げる。

  • 単に売れて儲かるではなく、社会に必要な存在となる。

■顧客開拓と営業について

顧客開拓フローは、以下の通り。
1.認知獲得
2.理解促進と顧客化
3.商品購入後の顧客のアフターケアー
4.リピート客のおもてなし

トレンダーズの場合、認知獲得の三本柱は、
1.クチコミ
2.インターネット
3.マスコミ戦略

営業は企画職。相手を喜ばせることに本質がある。モノを売るという発想ではなく、相手の状況を改善する提案を考える。

自分の商品やサービスを欲しがっている人を見極めることが大切。欲しがっていないお客を訪問するから嫌われる。

著者は営業の重要性について、以下の通り力説します。

営業力って血液みたいなものです。会社をやっていくためには絶対必要なものです。それも稼ぐ力とか売る力と、心理学みたいなものとを、全部含めて営業力と呼んでいいと思います。直接物を売るということだけではなくて、インターネット上でどのように表現したらお客様が欲しがるかが、ちゃんとわかっていることも営業力があるということです。

起業するときに、営業の経験があったほうが絶対にいいんです。さらに言えば、人間としても絶対その経験が役に立ちます。経営者にとっては、営業力があるというのは会社の底力になるということだけではなく、人間として魅力のあることです。

■リクルート式営業手法を反面教師に

著者は、新卒でリクルートに入社。そこで営業に配属され、1年でトップセールスの座を勝ち取りました。そのノウハウを、トレンダーズに活かしたのかと思いきや。逆に、中小企業がこのやり方をしてはダメだということを学んだそうです。

人海戦術はすでに高収益を上げられるような仕組みのある大会社しかできないことで、小さい会社で同じことをやればすぐに赤字になるということです。だから、人が新規開拓しなくてもできる方法、つまりインターネットとかマスコミ戦略を駆使してやらなければならないと、痛切に感じたんです。

ちなみにリクルート流とは、こんな感じであったそうです。20年前の話なので、今のリクルートの話ではないことをご認識ください。

1997年頃のリクルートは、メールも使わない、アナログ一色の時代でした。当時すごく嫌だったことが2つありました。1つは、営業の効率がすごく悪いこと。リクルートではアナログでお客様と接触する、つまり訪問が一番美しいと言われていたのです。しょっちゅう顔を見せに行く、つまり訪問しろと言われていました。あともう1つは、手紙を書いたりとか、そういうことも含めてフォローの方法も泥臭かったんです。

新規は100件に1件ぐらいしか受注できないという統計があるから、5件受注したかったら500件飛び込めとか、そういう風に言われるのです。たくさん接触しろと。人海戦術、ローラー作戦でつぶしていって、担当のテリトリーは他の業者に取られないように見張っていろということです。

リクルート時代、会社からは訪問することが美しいとずっと言われていたけど、訪問される側のノイズの話をされたことがあり、私たちが来ることがウザいんだというのを聞いて、すごくショックでした。

著者が行きついた答えは、以下の通り。

新規が勝手に来るような仕組みをつくること、それが中小企業にとっての営業力なんです。そしてなによりも大事なのは、つき合ったお客様を死ぬほど大事にすることだと思います。

■経沢流マスコミ活用術

雑誌の取材を受けインタビュー記事が掲載されたことが受注に繋がったという経験から、著者はマスコミ活用の可能性に気づきます。

女性社長のコーナーというのがその雑誌にあって、取材を受けたんです。雑誌が発行されると、その記事を見た人からお電話をいただいて、ぜひ会いたいと、興味を持ってもらったんです。今までいくらこっちから行っても、全然会ってくれませんでしたし、興味も持たれませんでした。見た目がいかにも若いお姉ちゃんで、なかなか信用されなかったのに、雑誌に載ったことによって、これまでとは違う流れができました。雑誌の信用度の上にうちの会社が乗っかって、結果として一気に信用度が上がったのです。

取材を重ねることで、時代が何を求めているのか、社会は何を必要としているのかということを学び、記者が求めていることを的確に話すことで露出拡大に成功したそうです。

経営者というのは結局、少し時代の先を読んで、ニュースになるような、世の中に必要とされていることをやらないといけないと思いますし、それができるのであれば、マスコミに取り上げてもらう価値があると思います。

いずれにせよ時代の流れに合っていて、たくさんの人が見て面白いとおもうことを客観的にマスコミに伝えていくことが大切だと思います。伝え方の方法はプレスリリースが一番手っ取り早い方法だと思います。

マスコミ取材も営業をするのと同じでリピートを受けていくことが大切。そのためには、常に会社として、新鮮な情報を発信すること、自社の得意分野を明確にして情報収集に協力する姿勢を忘れないこと。そして、常にニュースになるような新しい動きが会社の中にあること。そうすることでマスコミと良い関係が構築されていると著者は解説します。

逆に、自社が掲載されることばかり躍起になっていると、記事にはなりません。客観的な視点で記事になる価値があるかどうか、そして、マスコミ側の利益になるかどうかを検証していくのが経営者の視点になりますと警鐘を鳴らします。

積極的にマスコミを活用したことで、以下のような効果に繋がったそうです。

若いということがマイナスだったのが、「若くても頑張っている」「若さ、女性ならではを活かしたサービスを展開している」というプラスの興味を引くことができました。その結果、会社のイメージがよくなると、今までこちらから営業をしかけなくてはいけなかったのに、逆にお客様のほうが「一度お会いしたい」と言ってくださり、お客様のほうからアポイントを入れてくださるという逆の流れが出来上がりました。もともと媒体、記事を通じて、信頼してくださっているので、仕事につながりやすい。

■友達と起業するときの注意点

友人との起業は一見楽しそう、また、一人で責任を負わなくて良いので、選ばれがちです。ところが、多くの場合、意見の衝突が起き、それが乗り越えられず、破綻してしまうと警鐘を鳴らします。

また、友人が手伝いたいと申し出た場合も要注意。単に楽しむことを目的としている友人と成功を目的にやっている経営者では視座が異なるので、友人なのに、なぜ、そんな厳しいこと言うのかと軋轢を生む結果になりかねません。

従って、友人とは一緒に起業するのではなく、外注先のパートナー会社として協業するのが良いと著者はアドバイスします。

■望ましい経営スタイル

経営というのは誰か1人が圧倒的なリーダーシップというか、最終の意思決定者がいて、基本的にみんなはその人を信じて尊敬していて、その意思に賛同して動くというスタイルが望ましいというのが著者の持論。

■起業後、最低3年は我慢して続けるべき

起業後、すぐにうまくいくことは稀。正しいやり方、つまり経営をしっかり学んで、メンターがいて、無謀な出費をしないという方法でやっても、順調になるまでには3年くらいはかかると筆者は言います。

逆に、3年目になると、不思議なことに今までつくってきたものと、まじめにやってきた信用で、いきなり人がどっと押し寄せるとのこと。

また、波は自然に起きるのではなくて、自分で起こせば起きる。同時にいい波が来るときまでしっかり足腰を鍛えておくから、波が来たときに最高の状態で乗れる。とコツコツと準備を進める重要性を説きます。

そして、起業に興味があるのですが、うまくいくんだったらやりたいですと相談してくる人が多いが「うまくいくんだったらやりたい」ではなく必ずうまくいかせる意気込みでやるものと釘を刺します。

■人が辞めるとき

自身の実体験も踏まえて、人が辞めるに至る状況と、その克服の仕方を以下のとおり語っています。

私は過去に2回、とても辛い思いをしています。スタッフが一度に辞めたことが2回くらいあったんです。設立当初と、会社が第二ステージに変化しようとしていたときでした。

人が入れ替わったときは、仕組みを変えるチャンスと思えば、その痛みもバネに変えられると思います。

人が辞める理由は1つしかないと思っています。会社についてこれないんです。それは、スピードと経営者の思考についてこれないというのがあると思いますが、変化を理解しきれない、受け入れられないままギャップが生まれる、お互いの目指しているものが違ってくるというギャップがほとんどの原因だと思います。

経営者の思考回路は早いですから、きちんと理解してキャッチアップしていかないといつしか宇宙人と会話しているようになってしまうのです。成長の早いベンチャーは人がどんどん入れ替わるものだと、ある程度そのように考えておいてもいいのではないかと思っています。

会社の方向性はこうだと明確に言うと、違うなと思った人は去っていくんですよね。私としては自分が否定されたような気持ちにはなりますから、いつも辛かったんです。でも、私はそのときにこう考えるようにしました。経沢香保子というトレンダーズの社長と、個人の経沢香保子は違うと。

メンタル強い人とは、しなやかで柔らかく、いろんな意見を吸収して消化できる力を持っている人のこと。

起業に限らずビジネスで成功する資質が凝縮された記事。












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マルセロ| 事業プロデューサー
いつもお読み頂きありがとうございます。サポート励みになります。皆さまとの交流をどんどん広げていければと思います。