
【書籍紹介】100円のコーラを1,000円で売る方法 永井孝尚著<後編>
動画版は、こちら。
前編では、本書で紹介されている10の理論の内、1~5について紹介しました。

後編では、6~10についてご紹介します。
6.競争優位に立つためのポジショニング:スキンケア商品を売り込まないエステサロン
久美は、過去、得意先の社長から「会計で、会社の経営状況の見える化ができるといいんだけどね」と何度も言われていたことを思い出しました。
そんなことを考えながら休日にエステの施術を受けていた際に「無料のスキンケアカウンセリングを受けないか?」と誘われます。
カウンセリング後に高価なスキンケア商品を売りつけられるのではと警戒していた久美に対し、
当社は、スキンケア商品をお売りすることはありません。お客様のお肌をもっと美しくすることが私たちの仕事です。スキンケア商品はそのための一つの方法にすぎません。使わないほうがいいこともあるんですよ
とカウンセラーから説明がありました。ここで、久美はヒントを得ます。
これって、お客さんの言うとおりにしていたら、お客さんのためにならない。お客さんに本当の価値を提供するためにどうすべきか、徹底的に考えろということかな?
そこに着想を得て久美が提案したのは新サービス「社長の会計」。
経営者が本当にやりたいことは、会計システムで集まった情報を活用して、会社の財務状況を改善し、経営変革をすること。それをサポートすべく、会計システムとデータ管理をクラウド化し、会計と経営の見える化を実現する新サービス。
新サービス:会計サービスのクラウド化
対象:従業員1,000人以下の企業
売り込み先:経営者
更に、そこに独自価値である「山倉メソッド」を追加。山倉メソッドとは、社内コンサルタントである山倉氏が、これまで顧客向けに提供して来た会計を軸に経営変革のアドバイスをするという手法。
山倉さんのスキルを活用して、お客様に経営視点で会計業務を行えるシステムを販売します。そのうえで、現場の会計担当者の負担を減らすために、会計ソフトとコンピューターをセットで売るのではなくて、ネット経由で会計業務が使えるクラウドサービスを、従量課金制で提供します。
競合のバリューマックス社は、会計ソフトの販売にとどまっているので、明確な差別化が可能。
この提案に対し、与田から初めてゴーサインが出ました。ただし、手放しでということではなく、しっかりと以下の通り釘を刺されながら。
残念ながら、これは戦略ではありません。コンセプトです。マーケティング戦略では、コンセプトを受けてさまざまな活動につなげて展開していく必要があります。
7.チャネル戦略とWin-Winの実現:商品を自社で売る必要はない
新サービス「社長の会計」の実現に向けて核となるのは山倉メソッドの張本人である山倉氏。久美は、必死に山倉を口説くも、話は平行線で解決の糸口が見つかりません。
山倉の論点は、以下の2点。
山倉メソッドは一朝一夕でセールスに伝授できるものではない。
セールスに伝授しても自身のコンサルティング事業として評価されない。
久美から報告を聞いた与田は、「既に何度も無理だと言われていることに対し、これならOKと言わせる提案がないと先に進まない」と久美を叱責すると同時に、「自社セールスで社長の会計を売らない方法を考えれば良いのでは?」とヒントを与えます。
ここで、再びキシリトールの成功事例に学びます。菓子メーカーに直接売るのではなく、反応の良い流通を先に巻き込み、そこから菓子メーカーに落としていったという事例。
そこからヒントを得て、久美は自社セールスを使った直販ではなく、会計事務所を代理店として起用する案を考え出しました。
そして、「会計の力で日本の会社に革命を起こしたい」と考えている山倉を、こう口説きます。
山倉さんが「社長の会計」とセットで、山倉メソッドを会計事務所に教えるんですよ。そして会計事務所は自分たちの顧客に山倉メソッドを取り入れた経営変革の提案をする。まさに、日本企業を会計視点で経営変革するんです。もちろん「社長の会計」も売れますし、山倉さんの知見も日本中に広がりますよ。
こうして、久美は無事山倉の協力を取りつけることに成功しました。
8.値引きの怖さとバリューセリング:100円のコーラを1,000円で売る方法
久美は「社長の会計」の価格戦略を与田に提案するも玉砕します。
久美が提案した内容は、値引きを要求する顧客には値引きに応じて受注し、定価で購入してくれる顧客には定価で販売することで、一定の価格を保って売上を最大化するというもの。
与田は「最悪の戦略である」と一蹴します。
納得のいかない久美は腹いせにショッピングに行きます。そこで、会社の近くのブランドショップでお気に入りのワンピースを購入。気分よく、帰宅の途中に同じブランドショップを見つけたので、ふらっと立ち寄りました。なんと、そこで自分が購入したのと同じワンピースが半額で売られているのを目撃。裏切られた気持ちになり、そのブランドに反感を持つに至ります。
そして、自分が提案した戦略は、まさに同じことやろうとしていたことに気づきます。
久美がその話をすると、与田が値引きをしないどころか、100円のコーラを1,000円で売る方法があるという話をします。自らの実体験として。
それは、リッツカールトン宿泊時のルームサービスでの話。
最適な温度に冷やされ、ライムと氷がついた、この上なく美味しい状態で、シルバーの盆に載ったコーラがグラスで運ばれて来た。
このコーラの価格は1,035円。与田は喜んでその価格を払ったそうです。
これは、コーラという商品を売るプロダクトセリングではなく、リッツカールトンでくつろいだ優雅な時を提供するというバリューセリング。
与田は、このバリューセリングの視点で価格戦略を考えなさいと久美に宿題を出します。
9.コミュニケーション戦略の一貫性:なぜ省エネルックは失敗してクールビズは成功したのか?
久美の「キムタクを起用した一大広告キャンペーンを展開する」という提案に対し、与田があきれながらコミュニケーション戦略における一貫性がいかに重要かについて説きます。
さすがに、to B向けのクラウド会計サービスにキムタクを起用してテレビ広告を大量に流しても、効果がないとは言わないが、「割に合わない」というのは少し考えればわかることと思います。
少しだけツッコミを入れさせて頂くと、キムタク級のトップタレントを起用し大量のテレビ広告投下というのは無謀ですが、そこそこ有名なタレントをオンライン広告に限定して起用するというのはアリと思います。
実際、タクシーに乗ると、その手の業務支援ソフトの広告を良く目にします。著名タレントを起用することで「何だろう?」と興味を持つきっかけにはなります。そこから先は、サービス自体に価値があり、それを的確に伝えられているかの勝負になる訳ですが。
与田は久美に対し、同じように「夏場に軽装にすることで冷房に使う消費電力を節約しよう」という提案であるが、全く支持されなかった「省エネルック」と大成功した「クールビズ」。明暗を分けたのは、コミュニケーションの一貫性にありという説明をします。
ちなみに、「省エネルック」という言葉自体久しぶりに聞きましたが、改めて写真を見ると、中々のインパクトです。

10.イノベーション理論とキャズム理論:新商品は必ず売れない?
こうして、幾多の苦難を乗り越え、「社長の会計」は無事、発売の日を迎えることができました。新商品発表会を実施し、その様子がメディアで大々的に取り上げられました。
会計視点で御社の経営を見える化し、経営変革を推進。しかも面倒なシステム導入は一切不要で、コストも削減。
というわかりやすいメッセージが、ターゲットとしている中小企業経営者に刺さり、続々と引き合いが来ました。
ここでハッピーエンドかと思いきや。。
3か月後、引き続きメディアでは好意的な露出が続き、顧客からの引き合いも多いが、実はあまり採用に繋がっていないという状況に直面しました。
「引き合いは多いので、どこかのタイミングで売れ始めるはず」という久美の楽観的かつ根拠のない説明に対し、与田は「導入が決まった事例と苦労している事例をそれぞれ分析しなさい」と指示を出します。
その結果、わかったことは、「リスク歓迎型」「リスク回避型」の2タイプに分類できること。数としては圧倒的にリスク回避型が多いこと。
リスク回避型顧客の主な反応は、以下の通り。
コンセプトは魅力的であるが他社の成功事例がないと導入に踏み込めない
社内の関係部署の合意を取りつけるのに時間がかかる
クラウドという概念の実績がないのでリスクが評価できない
そもそも経営判断は経営者の仕事。数字に頼らず勘と経験と度胸で決める
一方、リスク歓迎型の顧客は、「他社はまだ導入していない?ならば当社でいち早く導入して他社に差をつけるチャンス」と即決。
久美からの、この報告に対し与田は「新商品とはそもそも売れないもの」と応え、イノベーター理論の解説をします。
新しいテクノロジーが普及していく様子を定量化したモデル。イノベーターとアーリーアダプターと呼ばれる層がリスク歓迎型。比率にすると人口の16%。この先のアーリーマジョリティーに浸透すると、マスで普及すると言われています。
逆に言うと、アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間に大きな断層があり、これをキャズムと呼びます。

従って、リスク回避型の顧客に初期の段階でいくらアプローチを行っても成約に繋がらないことの説明がつきます。
ここで重要なことは、いかに効率良くリスク歓迎型の顧客を見つけ出し、アプローチを行うか。
久美は、以下の2つの打ち手を編み出して、見事、リスク歓迎型の顧客にアプローチし、売上を軌道に載せることに成功しました。
リスク志向の高い経営者が興味を持ちそうなセミナーを継続的に開催
初年度半額プログラムを提供し、まずは実績を作る
と成功に酔いしれているのもつかの間、ライバルであるバリューマックス社から、ほぼ同じコンセプトのサービス「経営の達人」がリリースされたというところで本書は一旦、幕を閉じます。
<前編>でも書きましたが、実にリアリティに富んだ、学びの多い一冊です。
個人的には、イノベーター理論をto Bビジネスに応用し、リスク歓迎型顧客にフォーカスしてアプローチする。というのが今取り組んでいる課題解決に早速、役立ちそうです。
いいなと思ったら応援しよう!
