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【書籍紹介】100円のコーラを1,000円で売る方法 永井孝尚著<前編>

動画版は、こちら。

先日、Perplexityに「マーケティング初学者向けお薦め本」を聞いた際に初めて本書を知りました。

著者の永井孝尚さんは、日本IBM社でマーケティングマネジャーとして活躍された後、独立。現在はマーケティングコンサルタントをされています。

本書は、物語仕立てになっていること。そして、キャッチ―なタイトルから、かなりライトな内容を想像していましたが、良い意味で裏切られました。

マーケティング理論としてのカバー範囲が広く、かつ、いわゆる教科書的な内容ではなく、極めて実践的。具体的には、以下の10の理論について物語形式で展開されます。

本書のもうひとつの特徴は、物語自体が面白い点。普通に、続きが気になって読み進められます。

物語は、会計ソフトを開発する駒沢商会を舞台に展開されます。主人公は、美人で気が強くバイタリティに溢れた宮前久美。宮前久美が営業で抜群の成績をあげ、商品開発部に栄転となり、意気揚々と乗り込んで来たところに、熟練マーケターである上司、与田誠が立ちはばかります。

マーケターとしては素人の久美が出して来る企画をことごとく却下。却下の理由を詳しく説明することはないが、必ずヒントを与える。久美は、感情的になりながらも、そのヒントについて考えていると、その答えとなる事象に遭遇。与田の意図が腹落ちし、次の企画に活かされ、一歩一歩成長していきます。

更に、久美の敵役として、競合会社バリューマックス社の内山明日香が登場。地味な外見で久美の様な華やかさはないが、クールで知的。商談では、あっさり久美を出し抜き、強烈なライバル心を抱かせます。

そして、明日香には、マーケターとして育ててくれた恩師が居て、実はそれが与田であったことが明かされる。

こんな具合に、物語としても良くできています。

1.事業の定義:アメリカの鉄道会社はなぜ衰退したのか?

ここでは、事業の定義の重要さについて語られます。「当社の事業は何ですか?」という与田の質問に対し「お客さんのお役に立てる会計ソフトを開発して、提供すること。何を当たり前なことを」と答えた久美。

それに対し「思った通り退屈な答え。ゼロ点です」とバッサリ切り捨てる与田。そこで、アメリカの鉄道会社はなぜ衰退したのか?という話が出てきます。

アメリカの鉄道会社も、宮前さんのように「ウチの事業は、お客さんの役に立つ鉄道サービスを提供すること」だと考えたんです。だから、自分たちの顧客がバスや飛行機を使うようになっても、それは自分たちの問題じゃないと考えた。その結果、鉄道会社は衰退していったんです。

更に、化粧品会社の事例を用いて「市場志向」と「製品志向」について解説します。

自社の事業を「化粧品の製造販売」と考えるのは製品志向の考え方です。一方で、「ライフスタイルと自己表現、そして夢を売ること」と考えるのが市場志向、つまり顧客中心の考え方です。

商品企画部の仕事は、現場のセールス目線だけではなく、全社的で長期的な視点を持たなければならないと久美を諭します。

2.顧客絶対主義の落とし穴:お客さんの言いなりの商品は売れない?

久美が、自信満々で出した新商品企画が「お客様の100の改善要望をすべて網羅した新商品。すべてのお客様がターゲット」というもの。

残念ながら、この商品は売れませんね。賭けてもいいですが、お客さんのことを何も考えずに企画した商品は、間違いなく売れません。

と与田から一蹴されてしまいます。

3.顧客満足のメカニズム:顧客の要望に100%応えてもゼロ点

顧客である帝国建設に対し、先方の要望を全部解決し、更に9割引きという破格の価格を提示し、必勝で臨んだ久美であったが、結果はまさかの失注。受注したのはライバルの内山明日香が率いるバリューマックス社。

バリューマックス社は、私たちが言ったことを鵜呑みにしないんです。私たちの要望が100%正しいとはかぎらない。むしろ的外れな要望や思い込みもあります。内山さんは、会計システムが本来あるべき姿を提案してきたんです。そして、私たちが見過ごしていた弊社の問題点を指摘して、それらをいかに解決するか、具体的な解決策も提案してきたんですよ。

というのが、帝国建設から受けた説明。

ここで、単に顧客の要望に応えるだけではダメ。その裏に潜む、真の課題の解決が求められているということ久美は学びました。

4.チャレンジャーとリーダーの戦略:値引きの作法

ADSLが初期の頃に圧倒的安値で市場シェアを奪い、成功した記事にヒントを得て、久美は価格を半額にして一気に市場シェアを奪う企画を提案。

これも、与田に一瞬で却下されてしまいます。

スケールメリットが効き、コスト優位性を有するリーダーであるバリューマックス社に対し、チャレンジャーである駒沢商会が価格勝負を挑むのは自殺行為であると。

5.バリュープロポジションとブルーオーシャン戦略:キシリトールガムがヒットした理由

与田が久美に「なぜ、大型家電量販店が普及した後も、街の電気屋は生き残れているのか」を例にバリュープロポジションのレクチャーをします。

圧倒的な品揃えと低価格を武器にプレゼンスを拡大して来た大型家電量販店。一方、街の電気屋は、修理や使い方の説明等、価格以外の付加価値を主にシニア層に対して提供することで生き残っている。

そう、バリュープロポジション。顧客が望んでいて、競合他社が提供できない、自社が提供できる価値のことです。

与田はさらに続けます。

このバリュープロポジションの出発点は顧客です。ただし、顧客の言うことを全部受け入れればいいわけではありません。むしろ、顧客本人も気づいていないような価値を見つけられるかどうかです。顧客が何に価値を感じるのか、まずは自分の頭で徹底的に考えることです。

続けて、キシリトールガムの成功事例を用いて、ブルーオーシャン戦略について説明します。

虫歯予防に効くキシリトール入りのガムを日本に普及させるにあたり、歯医者さん経由で売るというモデルを考え出した。人口の1割の既に虫歯になっている人を相手にするのではなく、9割の虫歯になっていない人が予防の為に歯医者に行く。という習慣を定着させることで新しい市場を作り出した。

  • レッドオーシャン:競合がひしめき激しい価格競争が起こる市場

  • ブルーオーシャン:競合がいない新しい市場。自ら価格の主導権が握れる

※後編につづく

■永井さんがバリュープロポジションについて書かれた書籍












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マルセロ| 事業プロデューサー
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