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【書籍紹介】頭のいい人の対人関係<前編> 犬塚壮志 著

著者は、教育コンテンツプロデューサーの犬塚壮志氏。駿台予備学校の人気講師を務めた後に独立。独立後は、安く買い叩かれることは日常茶飯事で、謝礼金の未払いや不当な契約解除、金融商品詐欺などを経験。貯金もすべて尽き、華やかなカリスマ予備校講師時代から一転、仕事だけでなく、お金や人間関係に悩む日々を送るようになる。認知科学や心理学などを専門に学びながら、交渉学で世界最高権威であるハーバード大学のロースクールで実際に行っている交渉学のプログラムを受講。すべての対人関係を自力でコントロールできるコミュニケーション術を身につけ、それまで抱えていた悩みを一掃したとというご経歴です。

本書では、以下のような対人関係に悩む人に対し、対人関係をを良好にするための交渉術を指南しています。

  • いつも言いくるめられてしまう。

  • あの人となかなか距離が縮められない。

  • すぐに人と衝突してしまう。

  • いつも完全に下に見られていると感じる。

  • 自分ばかり仕事を押しつけられる気がする。

一方で、頭の回転が速く、気の利いた言い回しができる。コミュニケーションがうまく、いつも冷静沈着。他人と言い争ったり、トラブルを起こしたりしない。周囲に忖度せず、自分の意見をはっきり主張できる。仕事もプライベートも順風満帆。という人間関係のストレスとは無縁に見える人たちがいます。

こうした人々は対人知能に優れています。対人知能とは、他人を理解して、口頭や文字でコミュニケーションを取る能力を指します。対人知能に優れた人は、他人と揉めずに良好な関係をつくり、仮にぶつかることがあってもしこりを残さず、自分は絶対に損しないよう物事を運び、無駄な争いは避けつつも、相手にナメられない関係性を構築することができます。

こうした関係性構築に優れた人々が共通して持っている能力が交渉術。本書では、交渉相手に対し有利な合意を得ながら、関係性も向上していく交渉術。相手をあなたの提案に乗りたい状態に促していくテクニックを頭のいい人の交渉術として解説しています。

本書の3つの特徴

本書の3つの特徴は、以下の通り。

  • 特徴1:網羅性。人間関係のあらゆる悩みに交渉術で対応できる。

  • 特徴2:再現性と即効性。どんな人でもすぐに再現できる。

  • 特徴3:防衛。自分の心身を守ることも視野に入れている。

頭のいい人の5つの交渉術

  1. 相手に交渉の開始と終了を気づかせない。

  2. 相手とぶつからない。

  3. 身を守ることを最優先にする。

  4. オール・ウィンを目指している。

  5. 目的にフォーカスして手段を選択する。

マインドセットから始める

交渉と聞くと、話し方や相手の心を読むテクニックに意識がいきがちです。しかし、最も重要なのは心構えです。実際のところ、交渉に対するマインドセットができているだけで、あなたの軸がしっかりと定まり、自信を持って相手と対峙することができます

特に日本人は、交渉に対して以下の苦手意識を持ちがちです。

  • 交渉になることで、周囲の人との間で波風を立てたくない。

  • 交渉術とは、ブラフなどで相手をだましたり欺いたりするような行いである。

  • 面倒な駆け引きをするくらいなら、交渉せずに済ませたい。

  • 交渉よりも、察し合って進めていくのがスマートな大人のやり方。

交渉前の5つの準備

著者は、交渉前に以下の5つの準備をしておくことを推奨しています。

  1. 自分の譲れないものは何であるかを明確にしておく。

  2. その交渉で手に入るものの重要度を明確にしておく。

  3. 敵は交渉相手ではなく、生じている問題である。

  4. 交渉の余地や素材は、あると思えば必ず見つかる。

  5. 自分を、交渉の達人であると思い込む。

交渉相手は敵ではなく、その問題や悩みを一緒に解決するパートナーであると考える。相手を敵視しながら交渉しようとすると、どうしても感情が先に立ち、勝敗にこだわってしまったり、相手を陥れることに無駄なエネルギーを割くことになり、目指すゴールに辿りつけません。

また、交渉の際は、自分の譲れない条件に見合った最良の代替案を用意しておくこと。バトナと呼ぶ代替案を用意しておくことで、交渉が決裂しても自分はバトナを選択すれば良いので、自信満々に相手と対峙することができます。

事前に相手の情報を集める

事前に交渉相手の情報をどれだけ把握しているかが、交渉の結果に大きく影響します。プロファイリングと呼ぶ相手の情報収集を事前に行うことで、交渉に際し、相手の思考や言動もある程度、予測できるようになります。

プロファイリングに際しては、まず交渉相手に興味を持つことが重要です。その上で、以下のような情報を収集します。

  • 価値観や人生観、仕事に対するスタンス、生い立ち。

  • 相手が持つ交渉内容に関する知識やスキル。

  • 相手を取りまく環境。人間関係や所属組織の情報。

互いの利害に注目する

交渉で重要なことは、相手を打ち負かすことではありません。交渉中に最も重視すべきことは、お互いの立場よりも利害です。立場は英語で言うとポジション、利害はインタレストとなります。

交渉をうまく進めるコツは、交渉している者同士の共通の利害を見つけ、そこにお互いの意識が向かうよう促すこと。そして、お互いの利害をできる限り実現できる合意を目指し、話し合うことに尽きます。

水面に浮かぶ2つの氷で例えると、水面より上の顕在化した部分が、交渉に臨むそれぞれの立場。水面下にある潜在化した部分が互いの利害です。交渉がスムーズに運ぶかどうかは、水面下で重なり合っている共通の利害がカギを握ります。

交渉における5大セオリー

1.人はコストをかけたものを選ぶというサンクコスト理論

これまで費やしたコストを重視するばかりに、非合理的な判断をしてしまうことがあります。これだけの時間をかけて交渉してきたのだから、わざわざ遠くから足を運んだのだからなどといった考えに引っ張られないようにしつつ、相手にはサンクコストを強調し、交渉を有利に進めることを推奨しています。

サンクコストの呪縛から身を守る方法としては、損切ラインを予め決めておく、将来的な機会損失またはコストを洗い出しておく、バトナと呼ばれる交渉が決裂した際の最良の選択肢を用意しておく等があります。

2.人はあたえてくれる人を選ぶという返報性の原理。

人間は、他人から恩恵を受けたら、似たような形でそのお返しをしなくてはならないと考える生き物です。早い段階で小さな譲歩をするなど、自分から率先して貸しをつくることで、有利に交渉を進めることができます。

3.人はリスクをコントロールしてくれる人を選ぶというプロスぺクト理論。

人間には、得する選択よりも損をしない行動を好むという習性があります。相手に条件を提示するときには、得られるメリットよりも避けられるデメリットをアピールすることで商談の成功率を上げることができます。

4.人はモヤモヤを解消してくれる人を選ぶという認知的不協和理論。

人間には、自分の決断に不安を抱き、自己正当化しようとする心理が働きます。交渉では、意図的に相手の中に認知的不協和を起こさせ、その解消をサポートできるような情報を提供すると効果的です。

5.人はやる気を引き出してくれる人を選ぶというモチベーション理論。

モチベーション理論には、さまざまなものがありますが、交渉を有利に進めることに役立つと思われるのは、以下の4つ。自己実現理論、期待と価値のギャップ理論、目標達成理論、自己決定理論

人間の動機づけの強さは、期待と価値の掛け合わせによって決まります。期待とは成功できそうかという見込みを指し、価値とは問題を解決しようとするその人の主観的な動機を指します。

交渉時には、以下の4つの価値に注目すると良いです。問題を解決することが面白いと感じられる興味価値。達成することに意義を感じられる達成価値。問題を解決することが将来に役立つと感じる利用価値。問題を解決しようとすることで損をしそうだと感じる損失価値

また、自分で決めたことに対してコミットメントが高まるという自己決定理論を応用し、交渉時には相手に自分が決めたと思わせる展開をつくると良い。

前編は、以上となります。

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マルセロ| 事業プロデューサー
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