十色
とある理由で漫画専門の編集プロダクションを辞め、自暴自棄になり、自堕落な生活を送っていた響政宗。 27才になった彼は、フリーター時代の友人と一緒にファミリーレストランにいた。 響とその友人の話題は、『どうして編プロを辞めてしまったのか』について。 響は漫画の編集は大好きだった、天職だと感じる程に。 しかし、彼は辞めざるを得なかった。 ひとつのケジメをつけるために。 と、そこに。響とその友人の会話に、突然割り込んできた人物。 その人物はブレザーの制服をまとった、一人の女子高生だった。 その彼女が、むさ苦しい男二人の会話に突然割り込んできた。 青春をスタートする者と、青春を取り戻す者。 27才のダメ社会人と、漫画家を夢見る17才の女子高生。 そんな二人の物語。
僕が罹患した遅発性ジスキネジアの体験談を綴っていこうと思っています。僕の頭の中の整理も兼ねているけれど、もし僕と同じ病気で苦しんでいる人がいたら、そして、それが僕の体験談で少しでもお役に立てることができたら。そういう思いで、このエッセイを始めてみました。
女の子が苦手な但木勇気(ただきゆうき)。 彼は女性恐怖症を克服するために、隣の席に座る心野雫(こころのしずく)と友達になることを決意する。 心野さんはとても大人しくて妄想大好きな女の子。但木勇気が勇気を出して心野さんに話しかけたことがきっかけで、最初はぎこちなかった二人の関係は徐々に変わっていく。 だけど、それが発端となり、但木勇気は不思議な体験をすることになる。 果たして但木勇気は女性恐怖症を克服することができるのか。 そして、心野さんが抱えていた『とある悩み』はどう変化していくのか――。 そんな、一風変わった不思議なラブコメです。
僕が住んでいる、築十年の賃貸マンション。間取りは1LDK。家賃は7万8千円で、この辺りだとまあまあ高い方らしい。 でも年収が下がってしまった今、本当は引っ越した方がいいんだけどね。だけど大学を卒業して漫画専門の編集プロダクションに入社してから、ずっとここに住んでいて。なんというか、住み慣れてしまったし、正直、引っ越しが面倒くさいというのが実のところだったり。 そして今日も一日の仕事を終え、ようやく自宅へと帰ってきた。 一人の可憐な女子高生を連れて。 「白雪さん、
――僕が白雪さんとファミリーレストランで出会ったのが数日前。もっと細かく言えば三日前。彼女の原稿を読んで感じた問題点、そしてその解消法を全て伝えたあと、少しの雑談タイムを取った。 原稿に集中していた時はあまり気にしなかったのだけれど、その時に改めて思った。本当に可愛いなこの子は――と。ひとつひとつの仕草もとても愛らしく、そして結構よく話す子でもあり、明るく素直な子。魅力的な子。よく笑い、笑顔が素敵な子。そんな子だということをよくよく感じた。 携帯番号の交換を望まれた
更新が遅くなってしまい、いや、遅くなりすぎて申し訳ございませんでした。 約三年前のとこを思い出すのにかなり苦労をしていたという理由もありますが、しかし、物語を書くことに夢中になりすぎてこちらの手を止めてしまったというのが実なところかもしれません。 更新はこれからも続けていきます。でも、また停滞することもあるでしょう。だけどこの闘病エッセイは同じ病気を罹患した人、罹患する可能性がある人にとって、少しでもお役に立てれば、病気を克服することを諦めることを防ぐことができれば
「――え?」 白雪さんは僕の率直な感想を聞いて、信じられないといった、そんな顔をしたまま固まってしまった。でも、これは伝えておかないと。嘘を言っても、オブラートに包んでも、意味がない。辛い現実かもしれないけれど、受け止めてもらいたい。 そうしないと、前には進めない。 「ごめんね白雪さん。でもさ、こればっかりは濁して言っても仕方がないんだ。どう? 続けても平気?」 「はい、大丈夫です。ちょっとビックリしちゃいましたけど、私なりに覚悟はしていましたので。ぜひ、続けてほ
「もちろん、編集者としての目で読んでほしいです」 白雪さんはそう言った。まあ、それはそうか。編集者としての目で読んでほしいから僕に声をかけてきたわけだし。 それに、たとえ僕が厳しい意見を言ったとしても、たぶんこの子は耐えられる。今後の糧にできる。それは彼女の目を見れば分かる。 瞳の奥に宿る、覚悟。僕はそれを強く感じた。あとこの子、生半可な気持ちで漫画を描いているわけではなさそうだ。 白雪さんは夢を、そして未来を見ている。前に進むことしか考えていない。 そう
少女の声は、まるで秋の爽やかな風のように。 そして鈴の音のように透き通った、凛として響く、そんな心地の良い声音だった。 「よ、よろしければ私が描いた漫画、読んでもらえませんか」 少し緊張した面持ちで、少女は僕を見つめる。そして願いを言葉にした。 それにしても不思議な感覚だ。眼前に立つこの少女に見つめられていると、その瞳の中に吸い込まれてしまいそうになる。それ程に、彼女の瞳は魅力に溢れ、純粋な光を放ち、希望に満ち溢れていた。 まるで万華鏡のような、そんな瞳。
「兄さん、どうして編プロ辞めちゃったんですか。余は悲しいですよ」 家族連れで賑わう真っ昼間のファミリーレストラン。テンションの上がった子供のキンキン声をBGMに、小林は開口一番そう言った。その言葉に、僕は沈黙で返す。今は理由を話したくないんだよ、突っ込むなよ。 「余はまだちゃんと空港で正社員として働いているというのに、兄さんはフリーターに逆戻りじゃないですか。今からでも戻った方がいいですって、編プロ。二十七才で今さらフリーターって、人生詰みますよ?」 ぐっ……小林の
僕はもう、希望だとか夢だとか幸せだとか。 そんなものを感じることは一生ないだろうと、そう思っていた。 味気ない、無味乾燥な毎日を送る人生。 待っているのは、それだけだと感じていた。 でも、それは違った。 あの少女との出逢いが、僕の全てを変えてくれた。 偶然? 必然? 運命? それは僕にも分からない。 だけど、ひとつだけ言えることがある。 奇跡。 彼女と過ごしたあの日々は、僕に訪れた奇跡であるということを――。
「ふうー、美味しかった。ごちそうさまでした」 心野さんが作ってくれたお弁当を、僕は見事完食した。でも、 大食漢の僕でもさすがに重箱二段分の白米は量が多すぎたね。お腹が膨れに膨れてちょっと苦しい。だけど、残すわけにはいかなかった。せっかく心野さんが作ってくれたお弁当なんだ。残すなどという、そんな選択肢は僕の中には存在しなかった。 「すごいですね、但木くんって。あんなに大量の白米を完食するなんて。さすが男子ですね。正直、食べ切れないで残してしまうと思ってました」 「う、う
「はあー、午前の授業やっと終わった」 僕は両手を天井に掲げ、大きく伸びをした。お昼休みの時間だ。学生あるあるだけれど、僕は体が結構細い方なのに、これでも大食漢なのだ。お腹が空いた……。僕は即座にお弁当箱をリュックから取り出し、いつもの様に屋上で食べに向かおうと準備を始めた。やっぱり青空の下で食べるお弁当は格別なのだ。 「ね、ねえ但木くん? あの、その……お昼ご飯……」 僕のお隣の席に座る心野さん。最近にしてはちょっと珍しく、緊張気味というかなんというか、少しの申し訳
「ま、間に合った……」 悪夢を見たせいなのか、寝すぎてしまって遅刻しそうになったけど、なんとかギリギリセーフ。だけど、朝から疲れた……学校まで全力ダッシュだ、そりゃそうか。席に着いた今でもまだ息が荒い。完全に運動不足だな、こりゃ。 「但木くん、大丈夫? すごくハアハアしてるけど」 少し驚いた、心野さんから話しかけてくれるだなんて。たぶん初めてじゃないのかな? 今までは僕から話しかけないと喋ってくれなかったはず。 なんだか、嬉しいな。 「ううん、大丈夫。ちょっと
まるで悪夢のような日だった。 あれは中学一年生の時だった。その日は体育祭があって、僕はその運営委員会に有志として参加していた。まだ一年生ということと男子ということもあって、やることは基本的に力仕事だったけれど。 それで、僕は皆んなが帰った後もテントや飾り付けの後片付けに追われていた。もうだいぶ日も暮れ始めていて、ちょっとの気怠さと面倒くささを感じながら、ずっと「早く終わらないかなあ」などと考えながら作業をしていた。自分から有志したくせに、我ながら勝手な奴だなと思った
「そろそろ帰ろうか」 「そうですね、結構遅い時間になっちゃいましたし」 あれから僕達は時間を忘れてしまう程、色々な話をした。それでひとつ分かったこと。心野さんはずっと寂しい思いをしてきたんだ。心の痛みというか、それをずっと抱えてきたんだって。僕にはまだ友野という友達、いや、親友がいたから寂しいと感じたことがなかった。 だから、僕はこれからもずっと心野さんに寄り添っていこうと思う。もっと仲良くなって、信頼してもらえるくらいに。 「そ、それでですね、但木くん。これって
「すみません、ご迷惑をおかけしました……」 「ううん、気にしないでいいよ。それに、心野さんがムッツリスケベっていうことも分かったしね。大収穫ってやつだよ」 「ち、違いますって! あれは……そう、夢です! 但木くんは夢を見てたんです。もしくは幻! ほんと、不思議なこともあるもんですねえ」 心野さん、よっぽどムッツリスケベであることを認めなくないんだな。超必死に否定してるし。でもバレバレなんだよなあ、だって今も冷や汗ダラダラなんだもん。 「でもごめんね、結局こんな安いフ
前話でも書かせていただいた通り、大晦日は夕方辺りまでは割と楽だったんです。ですが、その夕方が近づくにつれ、どんどん悪くなっていったことを思い出しました。どのような状態になってしまったのかご説明します。 あの時は確か、首が完全に固まってしまい、その上喉の筋肉まで固まり、上手に発語はできないし首が固まってしまっていたので食事も上手く摂れず。食事って本来、食物を口に入れる際はちょっと前かがみになるじゃないですか。でも病気を罹患した僕は真逆で、首が勝手に後ろに反るわけですから、
メモに残したノートを読み返したのですが、やっぱり解読することが出来ませんでした。ミミズが這ったような字しか書けなくなっていたのは理解していたのですが、あまりにも酷くて。でも、いかにこの時の僕の体調が悪かったか、改めて再認識することはできたので良かったかなと。それと、途中からはメモを残すことを諦めたみたいで途切れていることも分かって。なのでここからは完全に僕の記憶力頼みの内容になります。時系列などが間違えるていることもあるかもしれませんが、そこはどうかお許しください。 僕