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宝石の国 妄想解説「シンシャ編」
2024年4月、「宝石の国」が完結しました。
連載中からいくつか細かいところが気になっていたので、全体を通して「こういうことだったのかな?」と思ったことを書いていこうと思います。
ネタバレを含みますので、これから「宝石の国」をお読みになる方は、読まずにおくことをおすすめします。
フォスの行動原理は、連載初期からずっと「役に立ちたい」でした。
役に立つことで、みんなに認められたかった。
能力もないのに戦争に出たいのも(「大好きな先生を助けたいから」も本心でしょうけれど)アクションが派手で、役に立っているのが誰にでもわかるから。
一方シンシャは高い能力を持ちながら、同室のベニトからも
「あいつの毒は呼吸と同じだし、あいつが迷惑かけないようにしてるのもわかってる。でも正直に言うと隣にいるだけで落ち着かないよ」
と言われてしまうほど、恐れられている存在。
花が大好きな優しい性格なのに、シンシャが触れるとすべての植物は枯れてしまうのです。
それどころか、シンシャが呼吸するだけで自然は破壊され、使い物にならなくなっていく。
宝石たちはシンシャとともに行動することを嫌がり、シンシャもそれを分かっているため、1人で夜の見張りをしています。
夜に月人が来ることはないのに。
生きているだけで、大好きなものを傷つけ続ける自分に心を痛め、シンシャは孤立を深めるのです。
金剛先生も
「生きているだけでよいと何度も諭したが、ただ息をしてやり過ごすには、あの子は優しく聡明すぎる」
と、打つ手なくシンシャの現状をただ見守るだけ。
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フォスは、最初
「生まれてから役立たずの僕の上を行くなんて やるじゃない」
と、自分より劣る存在としてのシンシャに興味を抱きます。
けれども、毒をまき散らし環境を破壊しながら戦いたくなどないのに、それでも月人と戦って自分を助けてくれたシンシャを「今度は僕が助けたい」と思ってしまったのでした。
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ところが、この「助けたい」という思いを、シンシャは素直に受け取れません。
自分を遠巻きに眺めるだけの宝石たちの中にあって、物おじせずに近づいてくるフォスは異色です。
好意も感じます。
毒を気にせず、崖から落ちそうなシンシャを助けようとためらいなく手を伸ばしてくれたのも知っています。
けれど「助ける」とは、ずいぶん上からな物言いです。
シンシャは、先生も認める聡明な子。
月人との闘いを見れば、戦闘力の高さもわかります。
フォスより充分役に立つ。
それが、自分より愚鈍で戦力としても役に立っていないフォスに「助ける」と言われたところで、信じられるはずもないのでしょう。
金剛先生すら、なんともできなかったのに。
未来を信じて傷つくのは、もう嫌なのです。
だから、半ば本気、半ばフォスを遠ざけようとこう言ったのでしょう。
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精神年齢が幼いフォスは、何もできなくても万能感にあふれています。
何もトライしたことがない故に、自分の可能性を信じているのですね。
自分がシンシャの境遇を何とか改善し幸せにするんだ、とアドミラビリスに食べられながらも、シンシャを思います。
この辺が、最後まで失われなかったフォス本来の純粋な部分なのでしょうか。
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ところが、フォスは「速い脚」「強い手」を手に入れ、戦闘で仲間を失う経験をしたことで、急速に幼児期を脱していきます。
万能感が消え、自分にできることで役に立てる存在になるべく、考え始めるのです。
その結果、見つけたのが「金剛先生と月人との関係を調べる」ことでした。
理不尽に仲間を月人にさらわれるばかりのこの戦闘状態を、なんとか止めたい。
そのために、何か秘密を握っている怪しい金剛先生のことを調べたい。
でも、先生を疑っているなんて、ほかの誰にも言えません。
この秘密の仕事なら、シンシャにうってつけだし、夜の見張りというむなしい仕事を止めることもできて、自己有用感を持てるでしょう。
「役に立つ存在であることを証明し、みんなに認められたい」が行動原理であるフォスは、シンシャも自分と同じように、みんなを助ける特別な存在であることに誇りを感じるはずだと思い、「君にしかできない仕事」にシンシャを誘います。
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ところが、シンシャに響いていたのは、「君にしかできない仕事」の部分ではなく「楽しい仕事」の部分でした。
「『夜の見回りよりずっとたのしくて、君にしかできない仕事をぼくが必ず見つけて見せるから』お前そう言ったろ?」
フォスの言葉を信じてみたかったのは、今より「楽しい」生活を送りたかったから。
役に立つとか、誰かを助けるとか、シンシャにとっては二の次で、みんなできゃっきゃわいわい楽しそうな昼の暮らしをしてみたかっただけなんです。
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だからこそ、シンシャはフォスが去った後に
「ただ組むだけなら別に……」
と言うのですが、その声はフォスには届いていませんでした。
フォスは、一人ぼっちのシンシャのところにやってきて、楽しくお友達をしてくれればそれでよかったのに、やってくるのは仕事の話を持ってくるときだけ。
それでも自分の思慮深さを評価し、頼ってくれる存在であるフォスがいることは、おそらくシンシャにとっては嬉しいことだったのでしょう。
次にやってきたフォスが「月に行って戻ってくる」という無謀な計画を打ち明け、それにシンシャを誘った時ーー
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シンシャの手はフォスの手を取ろうとしていました。
ところが、フォスは、また間違えます。
「行き方も危険だし、どんなところかわからないから、僕が様子を見てくるよ」
と出した手を引っ込めてしまうのです。
いったいフォスは、シンシャをどうしたかったのでしょう?
対等な仲間として旅路を共にしてほしかったのか、それとも昔の約束を引きずっているだけなのか。
シンシャの方も、フォスを月に行かせることに大きな危険を感じていますが、強く引き留めることも、いっしょに行こうとすることもしません。
ここもよくわからないところ。
一瞬、フォスと行きたそうにも見えたのに、この時のシンシャはどう思っていたのでしょう?
たぶん、決めきれていなのだろうと思います。
信じるにたる判断材料がないから。
それが多分、次のシーンに現れているのではないでしょうか。
一度月に行き、うまく地球に戻ってくることができたフォスは、再びシンシャを誘いに来ます。
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ところが、シンシャは気づいてしまうんですね。
3コマ目と4コマ目の表情。
「おれは ONE OF THEM なのか?」と。
少なくとも、これまでのフォスはシンシャを特別扱いしてました。
誰にも打ち明けられない秘密を共有し、シンシャの意見を求め、その能力を高く評価していました。(と、シンシャは思っていました。実際にはフォスにはカンゴームという依存しまくりのパートナーがいたのですが)
「必要なのは頭数であって、おれじゃないんだ。おれが特別だったわけじゃないんだ」
賢いシンシャは、フォスが潜在意識下で自分を手駒として扱っていることを見抜いてしまったのです。
そこで、月行きを拒み、地球に残る選択をしたのです。
とはいえ、自分のことを長く気にかけてくれたフォスを、敵視しているわけではありません。
そこが、他の宝石たちと違うところです。
このあたり、おそらく、金剛先生の「愛の装甲」が効いてもいるのでしょうが、残った宝石たちはみな、先生が提案した「フォスについて月に行くこと」を拒み、これまで通り地球で暮らし、フォスと戦う意思を固めました。
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おそらく、ボルツの前に何か言いかけたシンシャは、自分が知っていたことを全部話したかったのではないでしょうか。
金剛先生に付加された制約のせいで、話の大事なところが皆には伝わっていなかった。
シンシャは、金剛先生の語る部分的な話が、フォスから聞いた内容と矛盾していないことを確認したうえで、先生の代わりに真実を伝えた方がいいと思ったのではないかと予想します。
その方が、みんなが冷静で公平な判断ができるだろうから。
しかし、実際にはシンシャが言いよどんでいる間に話し合いはどんどん進み、宝石たちはフォスという新たな敵を前に団結してしまうのです。
理由はどうあれ、初めてみんなの仲間に入れてもらえたシンシャ。
嬉しくないはずがありません。
ここから、シンシャはフォスの敵としてふるまうことになります。
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一向に祈る気配のない金剛先生に祈らせるため、再度月からやってきたフォス。
ボルツと戦闘になり、あと少しで倒せそうという時、シンシャが本気でフォスに挑んできます。
驚くフォスの表情。まさか、シンシャがぼくを?
おかげでフォスとボルツは、シンシャの水銀の毒を浴びてしまったのでした。
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これまで恥じてきた自分の戦い方があったからこそ、先生を守れたと仲間に認められ、毒を浴びせてしまったボルツにすら感謝されるシンシャ。
ああ、これが仲間です。これが青春で、きゃっきゃうふふです。
これが、もともとシンシャの望んだ「楽しい」世界です。
そりゃもう、冷静で公平な判断なんて、どこ吹く風、誰だって自分が一番かわいいものです。
判断を保留していたシンシャのフォスに対するあやふやな思いは、ここで決着がついたのでしょう。
「別にフォスが特別好きなわけじゃない」が、シンシャの本音だと思います。
ただ、やはり最初に気にかけて、近づいてきてくれたフォスのことは、気になっていたし、フォスが敵となってくれたおかげで、自分がみんなの輪に入れたことも感謝しています。
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それは、苦い後味となって月に行った後も残り続けてはいるものの、フォスでなくちゃだめだというほどの強い感情でもなく。
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シンシャはこの後、一万年かけてゆっくりとフォスを忘れ、楽しむことを覚えていくのでしょう。
もちろん、それでいいのだと思います。
過去の罪悪感で、目の前の自分の幸福を台無しにするほどばかばかしいことはないのですから。
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**連続投稿823日目**
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