調べてから書け、そして、調べてから食え
野良柑橘に遭遇して、愛媛の里山の豊かさに感激した先日。
ここにはなんでもあるんじゃないか?
どんぐりも全種類あるし、ちょっと探せば山菜もたくさんあるだろう。
小さな山の探検は、楽しい!
関東平野の谷戸探検に匹敵する面白さだ。
ダンジョンでお宝を探すような気持ちで、いそいそと山へ行く。
探検を始めて数日過ぎた頃
「これは見たことがある!なんなら、昔食べたことがある!」
という木の実に遭遇した。
オレンジ寄りのベージュがかった、さくらんぼほどのサイズの実だ。
広がった全ての枝に、楕円形の実がそこそこの密度を保ってぶら下がっている。
手の届く枝から、いくつかもいでみる。
やっぱり知っている。
どこかで食べたぞ?
りんごっぽい味がするんじゃなかったっけ?
木の実の名前は全く思い出せないものの、食べた時の記憶がなんとなく浮かぶ。
ちょっと食べてみれば思い出すかもしれない、と皮を剥いてみる。
ねっとりした見た目の、白い果肉が顔を出す。
ほうら、美味しそうじゃないか。
絶対に食べたら美味しいやつだ。
よし、と耳かき一杯分ほど齧って噛んでみる。
甘い?……ような気がする。
気がする、というのは、私の舌が2年前から舌痛症に罹患していて、痛みを誤魔化すためにいつもガムを噛んでいるからだ。
正確な味がわからない。
ガムのスースーする感じのおかげで味覚がすみっこに押しやられているが、たぶん、これは甘味だ。
そして食感は、見た目通りねっとり。
つまり、美味しい。
よっしゃ、いける!と丸ごと一個食べたところで、なんだか渋柿を食べた時のようなえぐみを感じ慌てて吐き出したのだった。
記憶が、まるであてにならぬ。
なんだ?りんごっぽい味って。
帰宅後、さっき食べたのはなんだったのかが気になり、Googleフォトに木の実の写真を読み込ませて検索した。
樹形や実のなる時期も判断材料になるので、それらの情報を元に片端から当たっていくと、どうやらあれは「センダン」という木の実らしい。
園芸のサイトには、
と書いてある。
「いや、もう食べちゃったし、でも、毒だとしたら致死量はどれくらいなんだろう?」
と探すと、ある動物病院が「犬のセンダンの実中毒」について書いていたページを見つけてしまった。
食べた量が少ないので、死ぬことはなさそうだと思ったが、夫に何気なく
「さっき食べた実が毒だったみたい」
と告げると、顔色を変えて
「何時ごろ何を食べたんだ?どれくらい?」
と聞き取り調査を実施され、そのまま夫はネットでセンダンについて調べ始めた。
さてここからは、ちょっとだけネットリテラシーのお話。
恐怖を煽るような情報は拡散されやすい、といわれる。
実際に「センダンの実 毒」で検索して上位に上がってきたページは、どれも引用元が件の動物病院の「犬のセンダンの実中毒」であるらしく、
を、コピペしているところが多かった。
注意喚起したいのだろう。
優しい気持ちに基づく善意の行動であることは間違いない。
気持ちはよくわかる。
この「センダンの致死量について記載した人たち」は、まさか獣医師が、大学卒業までに6年も論文を読む訓練を受けてきたはずの獣医師が、エビデンスの乏しい情報を掲載するわけがないと信じて、ソースを自分で探すこともせずにコピペしたに違いない。
よくやっちゃうよね、そういうこと。
ネットあるあるだ。
ところが。
検索結果のずーっと下位の方に、この致死量の不正確さを徹底的に検証し、論破しているブログを発見してしまった。
要旨だけ抜き書くと、
「センダンの実は、サポニンが含まれるため苦い。人間は咀嚼をするので、飲み込む前に苦味やえぐみに耐えられずに吐き出してしまう。よって、ヒトが食した場合のセンダンの致死量は不明。犬は噛まずに飲み込むため、センダンによる中毒が起きる」
ということらしい。
なるほど。
私の体験とも一致する。
数字を出して解説しているところが、分かりやすくて納得できた。
読んだ夫も、筆者のエビデンス重視の姿勢とロジカルな思考を信頼し、どうやらうちの妻がすぐに死ぬことはなさそうだ、と安心したようだった。
よかった、よかった。
本日得られた教訓。
調べて書くことは、とても大事だ。
単なるコピペは、真実を埋もれさせる。
そして、もしかするとそれ以上に、調べてから食べることもとても大事だ。
何もなくて本当によかった。
**連続投稿777日目**