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読書感想「さよならのあとで」
死はなんでもないものです。
私はただ となりの部屋にそっと移っただけ。
この最初の一文で、この本を買うことを決めた。
「さよならのあとで」は、島田潤一郎さんという方がこの本を出版するためにひとり出版社を立ち上げ、そして出版された本だ。
中にはヘンリー・スコット・ホランドさんの一編の詩と、高橋和枝さんの絵が収められている。
ヘンリー・スコット・ホランドさんは1848年生まれの神学者で、この詩は大切な人との別れをテーマとして書かれている。
本の感想
この本は毛布のように私をあたたかく包んでくれた。
人それぞれいろんな死生観があると思うけれど、私のそれは「死んだらその人は消えてしまう」というものだ。
だから身近な人の死にとても苦しんだ。
でも、ただ私には見えなくなっただけで、となりの部屋に移っただけなんだ。
みえなくても、近くにいてくれてるんだ。
今まで通りの感覚で、お話できるんだ。
そう思ったら心が安らいだ。
亡くなった母と生きている愛犬
私の母は2年前に亡くなった。
母は生前、私が生まれる前から統合失調症のような精神疾患を患っていた。
私の母への気持ちは簡単には言い表せないものがある。
大変なこともあったけれど、同時にとても優しい母でもあった。
もし今、母と話せたとしたら…。
亡くなった今、すべての病気から解放された母と話せたら、私たちはどんな会話をするだろうか。
母はきっと、これからも前向きに生きていくようにとエールを送ってくれるような気がしている。
私の愛犬ロッキーは15歳だ。
なかなかのご長寿さんになってくれた。
最近は足腰が弱く、よろよろと歩き、たびたび転んで、歩くたび赤べこのように顔が上下している。
そんな愛犬をみていると、ふともうこの子はそんなに長くないんじゃないかと不安に襲われる。
そんな気持ちの対処としてもこの本を買った。
この本をロッキーが書いてくれたと想像して読んでみるととてもしっくりきた。
動物は人間よりも死を恐れているイメージがないからかもしれない。
たとえいつかロッキーとのお別れが来たとしても、それはとなりの部屋に移っただけ。
直接触れ合えなくても、心のなかでこれからも一緒に生き続けられる。
心の中でいくらでも撫でてあげられるし、ペロペロとなめてもらえる。一緒に寝られる。
そう思うと、少しほっとした。
この詩は亡くなった人の視点から語りかけてくれるけれど、私はまだまだ、この詩に書いてあるように悲しまずに、いつも通り気軽に母に声をかけることはできていないように思う。
いつかできる日がくるだろうか。
そして、いつかその日が来た時、愛犬に対しても。
この本で得た安らぎを胸に、今までよりは少し軽やかに明日へ向かえそうだ。