子どもたちは森に消えた/ロバート・カレン 訳:広瀬順弘

https://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000006731

読了日2019/12/01

1980年代のロシアのある日、少女は買い物のために村を出た。

彼女は二度と帰ってこなかった。

2週間ほど経過したある日、森に入った人物はあるものを発見する。
枯れ葉と土が被せられた、少女の遺体だった。
だがそれは失踪した少女とは別人だったのだ。

連続殺人鬼がいる、とわかって捜査に乗り出しても捕まる気配がない。
そこには当時のロシア(ソ連)の有り様が関係していたのだった。

初版が刷られたときの私の年齢が1桁年齢ってことに驚き、むしろ文中にさえ出生年が出ていて、
最近とは言えないにしても、
国家は違えど同じ時代を生きたのかと思うとなんともいえない。

最近といえば最近も、SNSを利用して子どもが誘拐された事件がありました。
年代的に家出をしたくなる年頃だろう、というのはわかるし、私たちはその年齢を超えて大人になってきたわけだ。
その年齢の子どもたちが何を考えているかはわからなくても、過去の自分なら同じようなことをしていたのではと思いを巡らせするくらいはしてもいいんじゃないかしら。
今回の事件では無事に戻ってきてくれたから良いものを、そうではない児童失踪は公になっていないだけできっと無数にあるんだろう。

まあね。
思春期ってどうしても反発しちゃうからね。
私は残念なことに思春期年齢に反発しなかったからこじらせて現在の状況に陥っている。
子どもが出来るレベルの反発としてある程度反抗するのはいいことなのかもしれないね。
まあ上と下の兄弟の反抗期を見ていると私は絶対相手出来ないなと思うから、
結婚して子育てしたい願望と、
自分なんかの人生に好きな人を巻き込ませたくないにくわえてこんな女の遺伝子をこの世に残していいのか、
今日もまた悩んでる。

やらなかった後悔はやった後悔より悔いが残るとはいうけど、
やった後悔を抱くのが私だけなら救われるよ。
でも自分の愛する子どもが「なんで生まれてきたんだろう」って泣いたらあんまりにもかわいそうで、
私のエゴで私の遺伝子を残して私とはまったくの別人の子どもをこの世に置いて先に死ぬなんて無責任きわめてるような気がしなくもないのよね。

「なんで生まれてきたんだろう」って大泣きした身分が言えるわけもないんだけどね!

本書は連続殺人鬼を追う警察官(当時のソ連の制度上、民警と呼ばれている)たちの目線で話が進む。
刑事ドラマにはつきものというか、罪は許さぬ精神の熱血刑事が国や制度のしきたりを越えても存在するんだなと感心。
他人のために熱くなれる人というのは最近は希少価値が高いと思う。
見つけたら大事にしてあげたいとは思うけど、熱い人間が得意じゃない私はどうしてあげるべきか……。
それはおいといて。

当時のロシアでは存在が許されていなかったゲイの人々から聴取をすべく、ブラコフ刑事はゲイのイヴァネンコといわゆる司法取引をする。
そのイヴァネンコの働きは捜査の進展には直接結びつかなかったのだけど、彼の暗躍する姿がものすごくかっこいい。
一時だけの登場ですぐに退場してしまうのだけど、情報提供者として彼はすごくブラコフ刑事の役に立っていたと思う。
少なくともゲイのあいだに連続殺人鬼はいない、という情報をブラコフ刑事に与えた(事実犯人はゲイではなかった)。

犯人の名前は、ラストで捕まる前に一度登場する。
しかもこのときは疑われはしても、微罪で訴追までされながらも逃げおおせている。
なぜだ!
と思わずにはいられないのだけれど、どうにもそこには当時のロシア(ソ連)の社会風土が一役買っていたらしい。
とにかく「事なかれ主義」。
記録はうやむやだし、あったことも上に報告するのが面倒だからなかったことにするし、やる気がない。
そのせいで、連続殺人鬼の凶行はだれも止められなかった。
殺人鬼本人は「止めてもらいたかった」ような発言を匂わせている。
そうすれば自分はもう誰も殺さなくて済んだから、だそう。
殺したくて殺していたわけではない。
ではなぜ五十人もの人を殺してしまったのか。

彼の過去についても詳細な説明がされているけれど、おそらく一端すらつかめないのでは。
なぜ殺したのか、彼は自分の言葉で語ったり精神異常を訴える(フリなのかどうかもあやふや)けれど、真相は闇の中。

彼の手によって多くの子どもたちは森の中に消えた。
死刑を求刑されてしまったので、彼がなぜこのような凶行を起こしたかも闇の中ということになる。

過去に読んだFBI心理捜査官で著者のロバート・レスラーが語った言葉が印象的で、こういう本を読んだり国内の事件を見ると思い出す。

「犯罪者は世相を写す鑑なんです」

いいなと思ったら応援しよう!

篝 麦秋
サポート代は新しい本の購入費として有効活用させてもらいます。よろしければお願いします。

この記事が参加している募集