自生の夢/飛浩隆
https://www.kawade.co.jp/sp/isbn/9784309417257/
読了日2019/12/26
タイトル作「自生の夢」に連なる短編及びその他。
とにかく「自生の夢」のあらすじが気になり過ぎて読みたくて仕方なかった。
だというのに近場のTSUTAYAではなんと売り切れ!
紙の本が売れない時代って世間ではよく言うけれど、この本の場合は売り切れ。
本当に紙の本は売れていないのか?
地元書店で取り寄せしてもらい(もともと品ぞろえの少ない店)、ようやく入手した。
待ちきれないのでタイトル作から読もうかな、と悩んだが、目次順に読むことにした。
目次順で正解。
「自生の夢」よりも、正直、いちばんはじめの「海の指」が切なさの極地で同作者の「グラン・ヴァカンス」を思い出した。
思い出させられた。
「海の指」
灰洋(うみ)に囲まれた島国。
かつては海があり陸地があり大陸があったが、すべて灰洋に飲み込まれた。
わずかに残る島で生きる志津子、和志夫妻。
和志は音の共鳴によって灰洋から物を引き上げる漁師だった。
灰洋からかつての人々が使用していた物を引き上げて人々は生活していたが、灰洋は時に人々を恐怖に落とす。
世界がこんなに壊滅しても、人のあり方は良い意味でも悪い意味でも普遍だった。
短編にもかかわらずラストシーンに落涙を禁じえない。
そしてなぜか彷彿とさせられる「グラン・ヴァカンス」。
その理由は後に判明する……「自生の夢」にて。
「星の窓」
星空を切り取った窓を買ったその日から、僕の前に姉が出現する。
僕には姉なんていないのに。
いないはずの姉と過ごす、一度きりの夏休み。
「#銀の匙」より「自生の夢」に連なる短編
天才詩人アリスは生まれたときより言葉使いの天才だった。
そんな彼女が目にした謎の存在により狂人となり、母を殺害し自分も死ぬ。
謎の存在「忌字禍(イマジカ)」を滅ぼすために選ばれたのは、言葉の力だけで73人の人間を殺害した殺人者、間宮潤堂。
だが彼はすでに故人であるため、彼の遺した数多の言葉から彼を再構築する。
完結しない物語のように思えた。
それもあとがきに代わるノートで解決する。
この作品はいわゆる「声援」なのだ。
作家先生なりの同業者への声援。
それが誰なのか、については解説の伴名練先生の言葉に綴ってある。
誰なのか、答えることは難しい(というか言っちゃダメだよね多分)ので、ここで答えられる名前を告げるとするならば、
間宮潤堂である。
言葉だけで73人もの人間を殺害した、間宮潤堂への声援なのである。
だから、なのか。
殺人者への声援は完璧なものに仕立て上げてはならないからか、同業者への声援だからか。
「自生の夢」自体は分かりやすいおしまい、とはならない。
私たちが毎夜見る夢が分かりやすいお話でもないように、単純に「自生の夢」は終わらない。
それとも「声援」は終わらない、ということか。
私たちが追う「夢」も終わらないように。
「はるかな響き」
あの響き。
私が思うさみしさとは、何か。さみしさとは思うものなのか。感じるものではなく? それとも読むもの? さみしさとは自己の内面から噴出するにもかかわらず、自らわき出たにもかかわらず解読しなければ自分の感情であることさえ理解できない。
では自分の感情であることを理解するまでの自分と自分の感情を隔てる距離とは何か。
アタマが足りない私……。
読んでいて不思議な心地と、分かったようなフンフンといった顔の角度を上向きにしたくなる気持ちがあるのに、読み終わったらすとんと抜け落ちていた。
何を思っているのか自分自身がわからない。
困った。
困らせられた。
私が困ったところで誰も得なんてしないのに。
困るのは自分自身なのに、分かったような自分と分からない自分の距離はものすごく遠い。
どちらも私自身なのに。
アタマが足りん。