宇宙生命図鑑/小林めぐみ
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-9976189842
読了日 2019/12/13
「第二回センス・オブ・ジェンダー賞大賞受賞作」
女性しか生まれなくなった種族が棲む、惑星ジパス。
その星の古代遺跡を調査するために訪れた学芸員のトキ乃は、神父のアレクと猫にしか見えない異星人(ガラリア人)のセイジロと出会う。
彼らと打ち解けたトキ乃は、勤め先の博物館館長の指示で雑務に追われる日々に嫌気が差し、彼らに誘われるがまま古代遺跡へ向かう。
そこで遭遇したのがジパス原住民、ヒーラーだった。
異星のストーリーということで、非常にカタカナが多い。
整理しないと混乱する(した)。
まず、主人公のトキ乃や神父アレクはほぼ地球人なので「アーシス」と呼ばれる。
アレクは「アーシス」だけど出身は「アーシス」こと地球人が植民地化した別な惑星出身なので、出身惑星の名前を告げることもある。
舞台となる惑星は「ジパス」
原住民は「ヒーラー」
その「ヒーラー」にはメスしかいないのだけど、およそ2種類に分けられる。
力が強く、狩りや他部族(同じヒーラーだと思われるが、別なまとまり)と戦い、単為生殖によって子供を生む「クバシム」
一方、力が弱く愛らしい容姿の「ヒリ」
「ヒリ」はただのほほんと生きているだけでなにもしない。
ではなぜ「ヒリ」が存在するのか?
かつて「ヒーラー」にはオスも存在したのだが、なんらかの理由で消えてしまった。
その雌雄生殖を行っていた名残りで「ヒリ」が存在していると思われる。
なぜなら「ヒリ」は単為生殖は不可能だが、オスがいれば出産可能な器官が残っているからだ。
……ややこしかった。
覚えるまで一苦労だった。
だがおもしろいぞ。
主人公は学芸員のトキ乃、神父のアレク、ガラリア人のセイジロ。
だが主な人物(人ではないのだけど)として、
クバシムのディリ。
ヒリのウルマ、セツワ。
といった原住民ヒーラーが出てくる。
ディリはウルマの幼なじみで、彼女(及びヒリ全体的)のために狩りをして食料を得て部族を守っている。
気性が荒くて気も強いが、とても賢い。
ウルマはディリが大好き。
それだけ。
ヒリは知能もトロめなので、織物をする以外はヒリ同士集まってのほほんと過ごしている。
さらにセツワは輪をかけてトロく、同じヒリからも疎まれ、ウルマは仕方なく面倒を見ていた。
そんな二人をさらに守るのがディリなのだが、ディリはディリでウルマを好きだが、セツワはあまり好ましくない。
さて、そんなヒーラーからなぜオスが消えたのか。
そもそも環境が安定していれば、生物は単為生殖の方が非常に効率よく増えていける。
ヒーラーの惑星もそうだったのだろう。
そしてオスメスの産み分け方法も、先祖から伝わっていた。
母胎内での栄養と温度変化による、という(ウミガメみたい)。
だが時代は過ぎて、いわゆるアーシスのような異星人に植民地化されるおそれが出てきた。
つまり環境に異変が起こる可能性が生じた。
安定した環境なら同一種が増殖するだけでも数を増やして生活は続けられたが、環境が変わるともなれば、それに適応しなければならない。
環境に適応するためには、別種(種族としては同一種)同士を掛け合わせる必要がある。
だが単為生殖を行なう「クバシム」は別種(いわゆるヒーラーのオス)の子供を生むための器官がない。
そこで重要なのが実は「ヒリ」である、ということだった。
はたしてオスのヒーラーは存在するのか、はたまた産まれるのか。
思いがけず地球的な「アーシス」的な生物論で語れるヒーラーの特性に、人間はなぜ男女に分かれているのか思い出させてもらえる。