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「人権」の誤訳

昨年は世界人権宣言が採択されて75周年だったらしい。国内にはまだまだ因習として残ってる差別問題があったりもして、「人権」を軽視する気にはもちろんなれないものの、「人権」は歴史の中で極めて恣意的に用いられてきた面もある。

現在の「人権」概念の祖とされるのはフランス革命後に出されたフランス人権宣言であり、自由平等国民主権表現の自由などが謳われている。これが原文では Déclaration des Droits de l'Homme et du Citoyen(人および市民の権利宣言) となっており、Homme「人」と訳しているから Droits de l'Homme「人権」とされているわけだが、これは誤訳である可能性がある。

フランス語というのは名詞にいちいち男女があり、Homme は単に「人」でなく「男性」を指しており、女性の場合は femme になる。つまりあくまで男性のための権利でこの時点では女性を権利の対象には入れていない。アダムの肋からイヴが生まれたみたいな男性優位のミソジニーもあったかもしれない。これは当然女性の反発を買うことになるが、人権宣言に対抗し「女性の権利宣言」を出した女性運動家オランプ=ド=グージュは革命を主導したジャコバン派によってギロチンされている。

Citoyen は確かに「市民」だが、フランス革命に強い影響を与えたとされる社会契約論のルソーは「国家に死ねと言われたら死なねばならない」と言っていて、当時の市民権というのは国家に対する忠節によって得られる権利と考えられていた可能性がある。そうなると今日的な意味合いでは「市民」というより「兵士」「軍人」というニュアンスに近いのかもしれない。

そう考えると人権宣言というのも王政を打倒し国軍による近代国家をつくるという思想がまず背景としてあったんだろうと考えられ、人間誰もが平等~♪ みたいな理想論を謳った意味合いではない事が見えてくる。アメリカが建前として「自由平等の国」を謳ってて、実際はそこに黒人や先住民族を含んでないのも近いものを感じる。


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