あの子の日記 「水をふくんだ青い色」
あの部屋で拾ったきれいな指輪はわたしの指よりひとまわり小さい。細めの銀の輪っかに、雨あがりの空みたいにうつくしく透きとおった薄青色の石が乗っている。家主の友人の忘れものだろう、と特に気に留めず、指輪についたほこりを払って背の低い食器棚のうえに置いておいた。
この部屋は時間を知らない。目が覚めて、昼ごはんに何を食べるか思案していたら夜がくるし、夜がきたな、と濃紺に浸っていれば朝になる。すべての時間がさらさらと、半分に割った竹をすべるお素麺のように流れていく。気持ちがいいよ。あなたには教えられないけれど。
その部屋を出てから立ち寄った公園でひとりの子どもが泣いている。薄青色のふうせんがずいぶんと高い場所へのぼり、からからに晴れた空に溶けてしまったようだ。つなぎとめておくべきものに限って手の届かない場所にいってしまう。「わたしたちおんなじね」と離れた場所から視線を送る。子どもにかけ寄った母親は彼女をつよく抱きしめていた。
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あたまのネジが何個か抜けちゃったので、ホームセンターで調達したいです。