【読書記録】記憶喪失になったぼくが見た世界
本のこと
記憶喪失になったぼくが見た世界
坪倉優介
感想
漫画やドラマで設定として見覚えのある、記憶喪失。
その実体験は聞いたことがなく、この本に書かれている著者の言葉の一つ一つに驚かされました。
「ここはどこ?」
なんてもんじゃない。
食べるということ、寝るということ、人間は顔が皆違うということなど、赤ん坊とほとんど同じように世界を見ることになった著者の坪倉さん。
本人はもちろんですが、途中に記されているお母様の記録からも、その困難さがにじみ出ています。
そんな中でも、最後には染色の道で独立し、「記憶を失った後の12年間に得た新しい過去に励まされて生きている」と、坪倉さんは言います。
私にはこどもがいますので、もし我が子が記憶喪失になったら、と思いながら読みました。
坪倉さんのお父様のように毅然として、お母様のように受け入れて、そのように接することができるだろうか?
想像しようにもしきれませんでした。
記憶を失って間もないころ、坪倉さんはお母さんに「人間は何をするために生きているの?」と聞きます。
記憶をなくして別人のようになったという坪倉さん。
同一人物のはずなのに、それまでの人生で得てきた知識や経験が体から消え去ると、人は変わってしまう。
それでは、その人をその人たらしめるものは、物理的な体なんかではなくて、「その人が得てきたもので形成されて滲み出る何か」なのか?などと考えて読んでいました。
私の中にある記憶がなくなったら、私は私じゃないんだろうか?周りとの関係はどうなるだろう?そんなことを思います。
記憶をなくした坪倉さんは、とても純粋に世界を見るようになります。
本書の中で坪倉さんが、「心の色」と言う場面があります。
同じ景色でも、そのときの心のありようで、見え方が変わります。
当たり前のように過ぎる日々が、当たり前ではなく、尊いものなのだと、この本を読んで感じました。