見出し画像

ざぶんと、思考の海に潜る。

思考の中に入る時、水の中にざぶんと入るような感覚になる。その時間は読書や勉強で培った分だけ、つまり年々長くなっている。さらにより深く、深く、思考も深くなっていく。浅瀬の中に潜るところから、深くて暗い海の中に潜るような感覚に変わっていった。

一人で潜るのにはもう随分慣れている。と言うよりもそんなことは独りでばかりしていたのだから、独り以外の選択は知る由もなくなっていた。だから今までも、そしてこれからも、私は独りでざぶんと思考の波に入っていく。

自ら潜るのならまだ良い。
自分で選択して潜るのならちゃんと上がってこれる。

ただ時々、うっかり波に飲まれるように、思考の中へ溺れてゆく。そんなことが日常といえば日常のような日々もあった。学生時代はそんなものばかりだったような気もする。うっかり飲み込まれる波の多くは夜の、先の見えない真っ暗闇の大きな大きな大荒れの波ばかりだ。そんな中に溺れては独り助けを求め、助けてくれる人なんていなくて、「誰か…」とすがる他力本願と、独りで溺れて学ばない自分がそこにはいた。それでも辛くも寂しくも悲しくもなかった。ただ事実として今日もまた私は独り、真っ暗闇の海の中に溺れるだけだ。

自ら潜ろうと思わなくても、気がついたら深いところまで潜ってしまう。そんな夜ばかりやってきたから私はそれが永遠だと信じて疑わなかった。ただ怖さだけはいつまでも生々しく感触として残っている。

それでも潜ることを続けた。毎日のように潜りにいった。海の中はいつだって孤独だった。


でも海はずっと、ずーっと広かった。

独りじゃない潜り方を知った。
夜、目を閉じる。安心する声が聞こえる。「ここは怖くないよ」と言うようなぬくもりを感じる。夜、真っ暗闇の海なはずなのに、あたたかくてきらきらしている。そこに飲み込まれるようにまた私はざぶんと潜る。でも、独りじゃない。一緒に深く深く、潜っていく。海の中は孤独だから、誰のことも、なんのことも気にする必要なんて無い。ただまっすぐに心の在るところを探し向かう。そこでいつもと違うのは、見つけた心を少しだけ言葉にすること。

そこではじめて、本当の私の破片を見つけた。一緒に潜って教えてくれた。それは確かに私だと直感でわかった。だってそれは最初から、私のものだったから。次第に自ら潜って、その破片を集められるようになった。怖いものは無かった。私の大事なものがあるだけだった。

独りじゃない海はあたたかくて安心できて、今までの海とは違う色を見せてくれた。真っ暗闇の夜の海、危険がすぐそこに居る危険な場所だと思っていたそこに、まっすぐな光を何度も見た気がした。「ここは大丈夫。怖いものはなんにもないよ」そう何度も一緒に潜って教えてくれたからだろうか。海の中であれば、弱くて怖がりで不安ばかり抱える私にも、声にできるものがあった。それは誰でも一緒なのだろうか。共に深く潜れば潜るだけ、私が声に出せるようになった。そして同じように聴くこともできた。そうして二人だけの世界で、私だけの大切な秘密を話し、何度も教えてくれるのだろう。

一人の海はもう、独りの海じゃなかった。

真っ暗闇の海を私はもう忘れかけている。
波に飲まれることを恐れていた私はどこへ行ってしまったのだろうか。

海はあたたかくてきらきらしていて、鮮やかな色で満ちていて、闇みたいに暗い深いところもあるけれど、全部そこに在るべきものなんだ。在って当たり前のものなのだ。暗くて怖いものがあっても大丈夫。そこは安全な安心できる海だよ。だから私はまた一人でも潜る。だってここは独りじゃない。



海はとことん独りになる場所だ。
それは誰でもそうなるものだ。

独りを極める場所だから、
どの場所よりも他者と近くなれる場所でもあるのだろ。

独りであってもそこは海なのだ。
それは遥か彼方まで続く。

だから独りであっても、どこかで誰かに出会ってしまう
独りにはなれない場所なのかもしれない。

独りで潜ること。それが例えばどんなに深くて暗いところであっても、誰かと繋がる。遥か彼方まで続く海だから、繋がれる。

思考すること。話を聴くこと。
それは海に潜ること。

人との繋がりは思考が“海に潜る”からではないだろうか。


今、一人で潜っていても大丈夫。
そこがどんなに深くて、どんなに暗くて、
光も何も無いように見える場所でも大丈夫。
だってそこは想像もできないような
遠い場所まで繋がる海の中にいるだけだから。

あ、そっか。考えてばかりの私だから
とてつもなく海に惹かれるのかもしれないね。

いいなと思ったら応援しよう!

葵月みず
ここまで読んでいただきありがとうございます🌷︎⸝‍ スキやコメント、サポートが続ける励みになっています!もしサポートいただけたら、自分へのご褒美や彼くんとの美味しいご飯に使います🍽✨️

この記事が参加している募集