【イベントレポート】monopo session vol.23 「話題になる企画」- 電通 姉川伊織さん / テテマーチ ふくままさひろさん -
12月20日(火)に開催されたmonopo session vol.23の様子をお届けいたします。今回のSENPAIは、電通のコピーライター/CMプランナー姉川伊織さんと、テテマーチのCCO(Chief Communication Officer)ふくままさひろさん。お二人が生み出した企画の事例を元に、企画ができるまでの考え方を教えていただきました。
SENPAIのご紹介
姉川 伊織 電通|Copywriter / CM Planner
1987年佐賀県生まれ。九州大学芸術工学部卒業。言葉を軸に、マス広告や企業ビジョンの開発、PRやイベントまで幅広く担当。「広告のことばかり考えない/なるべく新しいやり方を試してみる/本当は思っていないようなうそをつかない」が今年の目標。2019年TCC新人賞。ACCフィルム部門ゴールド/企画賞。スパイクス/アドフェストグランプリなど多数受賞。
ふくままさひろ テテマーチ|CCO(Chief Communication Officer) / Planner
大学卒業後、2社を経て2017年にテテマーチにジョイン。企業のSNSコミュニケーションの企画、及び自社のマーケティング企画等を兼務。アドテック東京2019・2020公式スピーカー。
「まんじゅうボーイズ」という漫才コンビも組んでいる。
モデレーター紹介
宮川 涼 Creative Director/Engineer
ブランドとユーザーをつなぐコミュニケーションの企画から、クラフト、世の中にどう広げるかまで、横断的にディレクション・制作しています。 漫画・映画・音楽・テレビ・ラジオがめちゃくちゃ好き。
Case1 「23時の佐賀飯アニメ」(姉川さんの事例)
姉川さんは佐賀県出身で、地元の仕事を3年程手がけていたそうです。その中でこの「23時の佐賀飯アニメ」は、姉川さんが最初にCD(Creative Director)として担当したプロジェクトとのこと。
姉川:「2021年に行われた企画なんですが、当時はコロナ禍初期の頃で佐賀県の観光客が減少していて絶品グルメの売れ行きが危機的な状況でした。でもそれって佐賀に限ったことではなかったんですよね。既に他の地域でも同様の課題に対してクラファンなどの打ち手を行っていたので、後から佐賀も『かわいそう』の同情を買おうとしても状況を変えるのは難しそうでした。そしてコロナ禍が落ち着いても継続して買ってくれるお客さんを増やすには、変わらず残るイメージ資産を作る必要がありました。
そこで、『佐賀県かわいそう』ではなく、『佐賀県おいしそう』というイメージ訴求を図ることにしました」
ここで考えを終わらせない姉川さん。ただのグルメ広告にならないようにするためには、他にも競合となるおいしい特産物がたくさんある中で佐賀産のものを選んでもらうためには、というところまで考えて提案に至ります。
姉川:「この図は左が現状で右側に変える、つまり『入口を変える』闘い方をしましょうと提案しました。競合と横並びで闘うのではなく、最初に面白いコンテンツを持ってきてそれを通して佐賀に直接興味を持ってもらい選んでもらいましょう、ということです。
そこからどんな形にするかを考えていた時に、以前会社の後輩から食のアニメ(gif)を『実物よりもおいしそうでしょう』と送られてきていたことを思い出し、一緒に食欲をそそる究極の飯アニメを作ろうと彼を誘いました。」
しかし、ここで一度企画者としてこれでいいのか、と立ち止まったと話す姉川さん。
姉川:「欲望感丸出しの企画は行政がやらなさそうでギャップがあり方向性としてはよかったんですが、このまま進めるとアニメの制作会社や声優さんたちを集めて単にプロジェクトを回す…という流れになってしまいそうで、それって手法であって企画ではないんですよね。企画者として自分は何を企画したんだ?というのをここで一度立ち止まって考えました。
単にアニメの表現で『おいしそう』を表現するだけではなく、さらにいい意味で邪悪なやり方でお腹を空かせる方法がないかというのを考えた時に、Twitterでよく深夜に飯投稿が流れてくるのを思い出したんですよね。『一番効いてるグルメ広告は、たぶん深夜に流れてくる知らん人の飯投稿。』という気づきから、うまそうかどうかは時間で変わるんじゃないかというところを企画の真ん中に持ってきました。」
「23時の佐賀飯アニメ」はTwitterで話題になり、テレビやWebなどのメディア露出も計455件を達成し、結果的にECサイトのクリック数は約4万回、売上個数は130%に増えたそうです。このような成果を出すためにどんな工夫をしていたのかも教えていただきました。
姉川:「時間を指定して決めるとネットで祭が作りやすいんです。過去の経験や他の広告事例から言えることなんですが。さらに今回の企画はアニメだったので、アニメって毎週何時放送って決まってるものじゃないですか。それで投稿時刻は毎日23時にしようと決めて、企画名を『23時の佐賀飯アニメ』とネーミングしました。ただ、人は時間を忘れるのでちゃんと予告してあげることも大事で、当日にTwitterで予告していました。」
姉川:「話題になる企画をするために大切にしていることは、『"おもしろそう!"からの"なるほどね"』ということです。"おもしろそう"は、企業やブランドが何を始めたらニュースになるのか、そこからの"なるほどね"はなぜその企業が今それをやるのかの理由、パーパスなどに近いことだと思うんですけど、この2軸は自分の中で決めてから企画をします。
これはコピーやPRを考える時も使えるんですよね。コピーだとキャッチコピーとステートメント、PRだとリリースタイトルとリリース本文の関係と同じなんです。」
最後にふくまさんから、ボディコピーの作り方について質問が。
姉川:「キャンペーンや商材に対して良いところを角度を変えてキャッチコピーをたくさん書いて、そこからフォーカスをどこにするかを選んで順番を変えるなどしています。佐賀飯のステートメントはこれだけの量を読んでもらうからには1行1行にサービス精神が必要だと思っていて、一つ一つキャッチコピー並に発見があるように、読んでよかったなと思ってもらえるようにというのは意識しました。」
Case 2 「アースG劇場」(ふくまさんの事例)
奇想天外な企画ですが、そもそもクライアントからのオリエン自体が「Instagramで『アース製薬やりおったな』と思われたい」という突飛なものだったと説明するふくまさん。
ふくま:「通常Instagramの企画だとそのアルゴリズムに基づいて考えていきます。今だとコメント数、保存数、滞在数などが影響してくるので、その値が伸びるようにするにはどうすれば良いかを考えるんですが、そうすると大体How to系が伸びやすい傾向はあります。
ただ今回のお題は『アース製薬やりおったな』を実現することだったので、How to系だとそれは難しいかなと。さらに生活お役立ち関連の情報は既に飽和状態なので、後発で企業アカウントが同様のコンテンツを発信しても伸びなさそうだったので、別の路線で考えなければいけないなと思いました。
それで今回は第三者が発見してつい広めたくなってしまうものを作る、というのをコンセプトに企画を考えていきました。」
どうしたら第三者がシェアしたくなるのか。どんな思考プロセスでこの「アースG劇場」ができあがっていったのかをお話しいただきました。
ふくま:「人って自分が一番に発見したものをつい言いたくなる生き物なんです。過去の事例でも、公式アカウントが言うよりも第三者がシェアしたものの方が広がる、ということはよくあります。
これは広告を考える時もよくある考え方で、構造と表現の2軸で面白さを作っていくんですよ。今回で言うと、Instagramは普通人間が投稿するものですが、それをゴキブリが投稿していくというのがまず構造として面白いなと考えました。そこからどんな展開をしていけばさらに面白くなるだろうかということも考えていきました。」
最初の投稿は、ティーカップの写真。言われないとこれがGの目線だとは気づかなさそうです。
ふくま:「最初はミスリードを狙っているんです。ティーカップの写真にこのテキストだと、『ああ、アース製薬の中の人が自分の日常を見せていくスタイルのアカウントを始めたんだな』と思うじゃないですか。こういった人間の投稿にも見えるようなレトリックを散りばめた投稿を最初は続けていました。よく見ると全部目線は低いんですけどね。
それで何枚か投稿した後に、人間では入れないような場所から撮影した写真や、得体の知れない大きいものが現れたなどのコメントで投稿をすることで、『あれ、これもしかしてGのことかも…!?』という驚きを作る、というのを投稿の中で表現していました。」
リアルなGらしさを感じる投稿は、アース製薬さんで行われているGの生態についての研究を参考にしているとのこと。その事実をクリエイティブで忠実に再現していき、投稿の中に商品も忍ばせてブランドと接着し「なぜアース製薬がやっているのか」を伝えていったそうです。
ふくま:「話題になるためには面白いコンテンツを作るだけではなく、知ってもらうためのきっかけ作りも大事です。今回はシンプルにInstagram上でキャンペーンを行ったりストーリーズで広告を出したりしました。あとはよくやることですがTwitterで毎日エゴサしていいねやRTをするのもやってました。」
Q&A
セッションの最後にはお決まりのQ&Aコーナー。たくさん出た質問の中から2つピックアップしてご紹介します。
Q1.日頃のインプットはどうしてますか?
ふくまさん:「最近よかったものやトレンドワード、普遍的なものなど見つけたものをスプレッドシートに溜めていってます。それを人と共有して一緒に編集していったり、そこから何か一緒に作ろうよという話にも繋がることもあります。バーグハンバーグバーグさんのDiscord『みんなであつまりま専科』も面白いですよ。
基本Twitterをよく見ていますが、自分の興味のないことのインプットもやっていかなきゃと思います。時間があったら週1日映画館に行って全然興味のない映画を観たいなと思います。」
姉川さん:「僕もTwitterの住民ですね。見つけたものの蓄積はしていないんですが、自分が面白いと思ったことが世の中の人々やクライアント、チームのCDも面白いと思うか、そこの判断の精度を上げていきたいと思っていて、よく人に面白いと思ったことをシェアして意見をもらうようにしています。同じネタを複数の人に見てもらってそれぞれの意見を聞いたりとか。そういう壁打ち相手はたくさんいますね。」
Q2.クライアントに刺さる企画にするためには?
姉川さん:「面白さには種類やレベルがさまざまなので、企業の人格を背負ったクライアントが何を面白いと思うかがとても大事なんですよね。そことずれてると通らない。最近の事例を見せてみてそもそも知っているか、どんな意見を持っているかを聞いて日頃から擦り合わせたりはします。
あとは提案の際に、『おもしろそう』(=話題になるニュースがあるか)と『なるほどね』(=その企業がやる理由があるか)を詰めて言語化する。それができないものは単に自分が面白いと思ってやりたいことなだけなので、提案しないようにしています。」
ふくまさん:「僕も企業の人格はすごく意識していますね。過去施策のトンマナを見て、こういう悪ふざけは経営層もOKするんだなとか。あとは担当者が成功イメージを持てるようにカンプをきちんと作るようにしています。例えばUGC(User Generated Content)が出るよねとか、メディアにはこういうタイトルで取り上げられるだろうとか、もカンプに書きます。」
「バズ」を生む企画はどう作ったら良いのか。姉川さん、ふくまさんも「読みきれない」と話されていて正解はなさそう…という中でも、参考になるエッセンスが盛り沢山だった今回のセッション。お二人の企画がきちんと話題になったのは、単にバズを目的として考えているのではなく、日頃から世の中の動きを見続け、クライアントや生活者などの幅広い視点を持ち、両者の接点を作っていくことが大事だということがわかりました。
姉川さん、ふくまさん、ありがとうございました!
執筆:石原 杏奈 freelance PR(@anna_ishr)
撮影:馬場雄介 Beyond the Lenz(@yusukebaba)
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