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大きなオフホワイトのパラソルの下で

よく晴れて、強い日差しが濃い影を浮き上がらせる午前も半ば、散歩がてら待ち合わせ場所に出向く。

それぞれ別々の国の女性たちが集まるモーニングミーティング。

広場に出された大きなオフホワイトのパラソルの下、小ぶりのラウンドテーブルを囲みながら、ひとりひとり好きな飲み物で喉を潤す。

真っ白なコットンワンピースに、夏にポッと咲いている花のような真っ赤な口紅をつけた彼女。ストンとしたデニムワンピースを纏った彼女。カーキのフレンチスリーブTシャツにジーンズのショートパンツ姿の彼女。白地にブルーのフラワーモチーフブラウスにアクアブルーとシルバーの二連ネックレスを合わせ、ボトムスもホワイトパンツという出で立ちの彼女。そして、その隣に座るわたし。

隣の彼女がそのブルーのフラワーモチーフブラウスを着ているのは、はじめて見たか、二回目か。でも、新しいように見える。「これ、綺麗で爽やか」と褒めると、「暑いから、涼しいものをね」と、少し弾んだ調子で返答が来る。
そして、わたしには「あなたはいつも日本人らしい装いをしてるわね!」と言う。その言葉に「ああ、肌を覆っているところが多いから?」と笑い飛ばしながら確認。おそらくそのために、他の人からも「あなたがいると、ここはまるで日本よ!」と言われたばかりだった。
そのことで気を悪くするということはなかったが、「ひとつひとつのディテールに気を配っているという意味で、その装いはあなたらしくていいということよ。似合っているから、あなたはそれで良いのよ!」と念を押しながら、その言葉の意味を説明してくれる。

彼女たちから見ると、わたしの装いは「日本人らしい」ようだが、思うに、日本にいる人からすると少しずれているのではないだろうか……と想像する。
まず、メイクアップで使う色が、日本のスタンダードからすると多いように思う。その日のアイメイクはコバルトブルーをベースに、ホワイトを目蓋にぼかし、サッとブラシでシャイニーな黄金色をひとはたき。あ、その最後のきらきらは、日本からいらしていた年上の女性のメイクから学んだのだけど。
そして、アクセサリーも多め。日本で姪っ子に「◯◯ちゃん、じゃらじゃらしてるね」と言われたことがある。 でも、それはこちらでは普通範囲よ。あくまでも、アクセサリーを着ける人の間でだけど。全く着けない人と比べないでね。
ピアスの穴は開けてはおらず、イヤリングはいつの間にか片方落としていたことが多いので、とっくのとうに着けるのをほぼ諦めた。
コーディネートもレイヤードしていることが多いので、どちらかというとシンプルではない。
もちろん、TPOによってはかなり差し引いて(猫をかぶって)オーソドックスにする時もあるのだが、そうでなければ重ねづけをしているので、日本のスタンダードからすると多いのは自覚している。
それでも、そういうデコラティブさもOKな環境だから自由にしていられるのだけれど。

こういった機会には、イタリアではコーヒーを飲むのが一般的かと思って、以前はそのようにしていた時もあった。
とは言え、わたしは朝食にエスプレッソ3杯分+ホットミルクのカフェラテを飲むので(なぜなら、家ににあるエスプレッソを入れるモカ、あるいは、マキネッタと呼ばれるそれ用の器具が3杯用だから)、できれば、別の飲み物を選択する方が健康のためには賢明。一瞬の立ち飲みならば、やはりエスプレッソをオーダーすることがほとんどではあるけれど。
ダブルエスプレッソやカプチーノの人もいたものの、隣の彼女はコーヒーを受け付けないため生絞りオレンジジュースをオーダーしていた。
わたしも、フルーツジュースにしようと、どんな種類のものがあるかスタッフの女性に尋ねる。瓶入りのものも含めて、選択肢がとても豊富。パイナップルジュースは前々回別のお店でオーダーしたので、一瞬迷ったものの、目への効果も考慮しブルーベリージュースにする。
その瓶入りのものがグラスと共にテーブルに置かれると、「これは何?あなた、また凝った(風変わりな)ものを頼んだの?」と聞かれる。前回オーダーしたポルトフィーノというドリンク(ノンアルコール)に続けて……という意味なのだが。瓶がまたさりげなくお洒落な上、その中身はけっこうシックな色合いなのだ。
ブルーベリージュース、たしかに、ブルーベリーのみというものは意外にめずらしいのかもしれない。わたしもはじめて聞いた。ベリーミックスの中にブルーベリーも含まれているということはよくあるけれど。ブルーベリーオンリーなので、その皮の色が反映された濃いダークカラー。そして、口にしたらネクターのように濃度が高く、ブルーベリーが凝縮されているようなジュースだった。ブルーベリー何粒分だろう?おもしろい。こういうのはじめて。


彼女たちの話を耳にしながら、その横顔を眺めているうちに、ああ、鼻の形にはじめて気が付く。
そう、正面からよりも、横顔の方がその形を判別しやすい。ギリシャ鼻の人はいなかったけれど、ローマ鼻の人は数人。ヨーロッパの人はやっぱり鼻が高い確率高し。(全ての人には当てはまらないけれど)


ひとりは、全国区のジェノヴァ出身コメディアンのルカと目が似ていると思った。ルカは男性で、彼女は女性だが、兄妹のようにパーツが似ているという意味。そのルカは、わたしが日本で新卒で勤めた職場の最初の上司とイメージが似ていると思っている。そういうこともあり彼には何かと親近感がわいているのだが、そんな共通点があると、彼女に対しても俄然と興味が湧いてきた。ついつい、斜め前から彼女の目の形を観察してしまう。会ったのは二回目だったけれど、おそらく、それ以外にも道ですれ違っているような気がする。

真っ白なコットンワンピースの彼女の目の色は、グリーンになるのだろうか?それとも、栗色になるのだろうか?グリーンと言ってもカーキ色に似たような色合い。

すでに学校の休みは6月前半から始まっているので、夏休みモードの人も多い。
「ぜんぜん焼けていないから、これから日焼けしなくちゃ」と、自分の腕と他の人の腕の色を見比べながら笑う彼女。そういう発想は、やっぱりヨーロッパの女性ねと、白地の薄手のロングスリーブを羽織っているわたしは微かに口角を上げた。

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Jacqueline
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