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卯月と一緒に生きている #書もつ

僕の本の読み方といえば、新刊を誰よりも早く手に入れて読了してやる!というよりも、すでにある作品をBックオフやT書館(伏せ字の意味…)で見つけては、粛々と読むスタイルだ。

好きな作家もいるし、お気に入りの書店もあるにはあるが、早さを追いかけることはしない。書店に行くたびに、当たり前のように「読んでいない本」に囲まれるし、ある意味ではダラダラと待ちの姿勢でいる方が、気楽なのだ。

しかし昨年、noteをきっかけに作家さんと作品を知る、という新しい体験を得て、出版が待ち遠しいという思いを抱くことになった。

毎週木曜日は、読んだ本のことを書いている。

昨年デビューされた作家さんの作品がめでたくシリーズ化され、先日その2作目が発売された。発売日当日、会社の帰り道にある本屋に寄って、何度もスマホの画面で見ていた表紙を発見し手に取った。

ナースの卯月に視えるもの2 絆をつなぐ
秋谷りんこ

実は、1作目を読んでいるときに、「これはいつの頃を書いているんだろう」と思うことがあった。べつに”たった今”でも”◯年前”でもいいのだけれど、何か気になる。書き手の経験が下敷きになっているから“当時”のことかな?などと思っていた。

おそらく技術や周辺知識は、時代を経るごとに変化するはずである。主題でもある看護の方法が古いとか新しいとか、それは専門の方が云々すればいいのだけれど、言葉を選ばずに言うと、いつか分からないために、僕には主人公がリアルに感じられなかった。

しかし、この2作目は読み始めた途端に、卯月主人公が目の前にいるように感じられた。前作同様に僕が好きな”食べるシーン”で描かれている景色に「いま」が見えたからだった。

「あっ、タッチパネルで注文ができるようになってますよ」
「ほんとだ」

p22

作中に登場するお店「よっちゃん寿司」は、読み手も何だかほっと息をつけるような場所だ。仕事終わりの疲れた体と心に、少し酢の効いたご飯は、季節を選ばず美味しく感じられる。…もちろん、食べることがメインの物語では決してない。

いまを書いているんだ、と思えた途端に、また物語の世界が身近に迫ってきた。いま生きている人たちが描かれていると思うと、僕自身が親であり子であり、仕事をしている人として、一緒に生きているような感覚になって、ちょっと嬉しくなった。


1作目では、患者の傍らに視えてしまう「思い残し」は、かなり強い存在感を持って卯月を動かしていた。思い残しが視えてしまうきっかけもまた、切なくて胸を締め付けられるような話だった。

2作目になると、その思い残しはやや影を潜めたように感じた。読み手も「あ、思い残しね」くらいに、身近な存在になっているのが不思議だ。看護師の仕事の真摯な描写は1作目から踏襲されていて、久しぶりに”卯月の現場”に戻ってきたような気持ちになる。

1作目では、卯月がんばれ!なんて励ましているつもりだったのに、2作目では、卯月ありがとう…(涙)、と励まされっぱなしである。

作中で卯月は、色々と気が付くことになる。自らが患者の家族になってしまった時の振る舞いや、答えのない問いをぶつけられた時の迷いなど、読み手も身につまされるような場面がいくつも用意されていた。

卯月とともに家族の危機を追体験し、読み手も変化していく。小説で良かった…と安堵すると同時に、自分や身近な人を思い浮かべては心がちくりとする。何という物語なのだろう。

仕事のことが書かれている作品を読むと、自分が受けているサービスの裏側を知るような気分になって、とても興味深い。さらには、当たり前だと思っていたことが覆されるような発見もある。奇しくも数ヶ月前に、子が手術のために入院し、また看護師さんのありがたさと大変さを感じることもあって、感動は一層強く深いものだった。

今作で嬉しかったのは、前述した身近な存在である発見もそうだけれど、病院だけで完結せず、家族や地域への視点が広がっていたことだ。僕の仕事が直接関係しているわけではないが、自治体で働く者として、地域がチームの一員になっていることは喜ばしいことだ。

若くして障がいを負った患者たちの葛藤は胸熱だし、死が迫る中で懸命に我が子への思いを形にしていく患者に涙が止まらなかった。

読了後、改めて表紙を眺めていたら、この聴診器の先にいるのは、作中に登場した”あの子”では?と思えてきて、また涙腺が緩んでしまった。

看護師も患者も、そして家族も応援してくれる作品だった。

力を抜いてもいいんだ、そう思えた。
読めて良かった。


1作目の感想はこちら。ネタバレありません。



シンプルでかわいいサムネイル、infocusさんありがとうございます!2作目もたくさんの方に届くといいですね。


#推薦図書 #看護師 #仕事 #応援 #読書 #読書感想文 #ナースの卯月に視えるもの

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もつにこみ
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