きものを初めて仕立てたときの話
2018年のことだ。
私は自由に着物を着ている人の写真に勇気づけられ、着たい思いが湧いたその勢いのまま 近くの呉服屋に足を踏み入れた。
まずは実際見て、話を聞いて知ろう。
きものとはどんなものなのだろう。
普段から気軽に着れるきものは存在するのだろうか。
そういったことを聞こうと向かった先で伊勢木綿の反物と出会った。
伊勢木綿…
三重県に工場がある。
呉服屋の店主が言うには、人手や機械が減ってしまいこの一軒だけで製造されているようだ。どんなに素敵か、素晴らしい技術と品であるかを丁寧に教えてくれた。
店主はいう。
初めて仕立てるのであれば、着物を初めて着たい人にはぜひ伊勢木綿をお勧めするよ。
まさに私が求めていた きもの だった。
着物には大きく分けて四つの素材で作られている。
絹、麻、綿、ポリエステル。
各会社によって、力を入れている部分が違う。自宅で洗える絹を開発しているところもあれば、でこぼこした質感の絹着物のように加工したポリエステル素材もある。
その中でも、一番初めに出合うことができたのが、綿。伊勢木綿だった。
あとから思うにこれはとても幸運だったと思う。
良い素材で作られた きもの に包まれる楽しさを、一番最初に学んだのだ。
この中だと一番どれが好みですか?
好きなものを選んでくださいね。
どう選べばいいのだろうと思いながら店員さんに問われるまま、ひとつひとつ答える。
反物は一目見て、かわいい!と思った、緑と黄色と紫のチェック柄にした。
お芋色だ。丁度季節はもうすぐ秋。9月中旬に入ったころ。
着物というと、落ち着いている色柄か、とても派手なものの二つに分かれる印象があった。しかし伊勢木綿はストライプやチェック柄などなじみやすいもので、色合いも優しくしっくりくるものがあった。
この長い布で、着物を着たようにできるんですよ。
そう楽しそうに話す店員さんに身を任せた。
鏡に映った自分をみて、これだ!と思ってしまった。
もちろん買う予定はなかった。
ただ見るだけ、まずはお勉強。
そのつもりで来たのだけどこんなにも自分が好みのものと出会え、合わせてみたら自分が思っていた以上に良い顔をした自分がそこにいた。
それをみて、ああ、買ってあげたいと自分に思っていた。
けれど着物は高いイメージがある。
実際、反物だけで2万5千円。仕立て代で2万円。合計4万5千円はかかる。
また帯や襦袢を持っていなかったので合計7万弱になった。
さすがにいきなり7万の買い物はできない。
どんなにお気に入りのものと出会えても、今はテンションが上がっているだけかもしれない。
そんな不安https://stand.fm/episodes/5f756f1e18e9093de33e67c6から、一度見送ることにした。
同じものはない、1種類ずつしか仕入れていない、伊勢木綿はそもそも反物の数が少ない。
そう聞いていた。
ビジネストークに乗せられていることを加味しつつも、やはり良いものだった。あの子を着た自分がどんな世界に足を踏み入れるのかとてもわくわくした。
そして数日後、どうにも忘れられず、購入しに行った。
25歳の誕生日プレゼントだ。残っていたアルバイトの資金を使った。
不思議と、7万円以上の価値を感じた。いい買い物ができたと思えた。
購入して数か月後、仕立て上がったと連絡が入った。
私は前回写真を撮ってもらったような感じで仕立てられるのだろうと思っていた。
いい意味で裏切られた。
写真をみた和裁の職人さんが配慮してくれたみたいで、
太い緑の部分が襟の位置にきて、また印象が変わった。同じ反物でも仕立て方でこんなにも印象が変わるのかと思った。
お気に入りの反物を、自分に合わせて仕立てたもらえる充実感と幸福感を味わい、自分を大切にするってこういうことなのかもしれないと漠然と分かった。
これが私の、きものとの出合いだった。
この子を着こなせられるよう、着付けも覚え自分で着れるようになった。
この子を始まりに、私はきものを着る心地よさを知った。
洋服では得られない心地よさだ。
いまではきものは、私のお守りのひとつになっている。
***
伊勢木綿 白井織布
著者 朝虹 小夜
イラストレーター、エッセイスト、他
普段着物探求家。冬の時期は男物女物関係なくウール着物を着て過ごしています。
今後、着物に関するエッセイを書いていく予定です。
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