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雪女 バス停で会ったあの人はきっと間違いなく

 
「寒いな」
 
地方のバス停のベンチで
さっきからちらちらとこちらを見ていた年配の女性が言った。
目を合わすと、待っていたかのように声をかけてきた。
 
「寒いですね」
「なあ」
 
夏木マリに更にプラス10歳くらい歳を重ねて
前傾姿勢にしたようなそのひとは、まだ話したそうな様子、話してくる。
バスはまだまだ来ない。
 
「あと6分くらいあるで」
「ほんまに。寒いですね」
 
かくして話す。
 
「雨、降らへんからまだましやな」
「あ、降らへんねや。ちょっと空あやしいですもんねえ」
「降らへんて天気予報で言うてたわ」
「それは助かるなあー」
「用事済んで、帰る頃に雨やったら一番ええなあ」
「ほんまやなー。それがええですね」
「明日はあったかい言うてたで」
「そうなん? 寒い日ぃやあったかい日ぃいろいろでなんかよぉわからん季節やねえ」
 
ゆっくりゆっくりな自分のペースとワールドがある。やっぱりマリだ。
 
「寒いな」
「寒いですね」
「……」(遠くをみている)
 
寒いのリフレインも飽きてきたので話題をかえることにした。
 
「こんなに寒いと、桜も遅いんかな」
「大阪の方ではもう咲く言うてたで」
「おー。そうなんや。せやけどこんなに寒いとおそなったりするんかな」
「かもしれへんな」
 
マリはそこでちょっと言葉をためて、言った。
 
「三寒四温いうやろ。桜もな、そうやないと咲かへんらしいで」
 
「ん?」
 
「あったかい日ぃばっかりやなくて寒い日ぃもないと咲かへんらしいわ。そういうもんらしい」
 
「へぇー!!」
 
わたしはなんだか胸がいっぱいになってしまった。
 
「知らんけどな。そうらしいで」
 
マリはそこから「どこまで乗るん?」とか、
自分は84歳だとか先月誕生日だったとか言い、
「おめでとうございます」と返すと「なんもめでたないわ」と言い、
更に友達が臥せっているからご飯を作りに行ってあげるねんせやけどこの歳になると足がなあ、あんたは若いからええわとか話した。
わたしはあほみたいな合いの手を入れたり「いや、若くないですよ」とか言いながら聞いた。
 
「傘もってるん?」
「いや、持ってきてへんのですそれが」
「天気予報信用してか」
「いや。傘嫌いで」
「あんまりなんでも信用したらあかんで」
 
バスがロータリーに入ってきた。
 
「あ、雨」
「雪や」
 
みぞれのような、あられのようなものが、ざっと。
 
「こないして話してたらすぐやったな」
 
マリがバスに乗り込む。
 
「乗らへんの?」
「乗ります」
 
いくつかの停留所を経てマリが先に降りた。
頭を下げる。大きく手を振ってくれた。隣に座っていたご婦人がびっくりしたようにわたしを見た。降りたら雪がやんだ。晴れた。



昨日の話。ほんま。ほんまに。
こないだは龍に会うた(違う)し、昨日は雪婆に会ったし、なんかヤバない? なんやねん。


🌸の話。1年前と13年前と15年前。


バス停で絡まれる記事。2年前。
この人ほんまに「!?」「……」(それ以上は口悪くなるから書かない)だったんだが元気かな笑

◆◆
【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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読書にまつわるエッセイ集(ZINE)、
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旅と思索社様のWebマガジン「tabistory」では2種類の連載をしています。
酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在19話)と
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