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【語源】日本釈名 (1) 天象(天地・日・月・星・風など)

『日本 釈名しゃくみょう』は、江戸時代中期に貝原かいばら益軒えきけんが著した語源辞書で、和語を二十三種に分類しその語源を説いています。全三巻をコツコツ読んでいきたいと思います。

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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本釈名 3巻 [1]

天地アメツチ

「あめ」のカヘシ 字は「ゑ」也。「ゑ」はひらくかなヤウ也。「つち」の反字は「ち」也。「ち」はとづるかなイン也。「あめ」「つち」皆上古の時の語也。此類を自語と云。『神代直指抄』に日  サイ  の言語  聲の初に「あめ」と云て、たかき義たふとき義を取り陽道をあらはし、「つち」といふはひきゝ義いやしき義を取て  道をあらはす。

※ 「神代直指抄」は、書物の名。成立年未詳、著者未詳。『類聚名物考』に「神代直指抄 神代の古字十六字の極秘を書りといひ傳ふ。是は偽書なり」と記されています。

「ぎ」とクンず。コハき意也。又、「お」とクンず。也。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本釈名 3巻 [1]

「み」と訓ず。ヤハラかなる意也。又、「め」と訓ず。女也。「ぎみ」は陰陽の  クン也。是、又、自然の語也。

「かみ」はカミ也。かみに在てたふとむべし、『直指抄』に見えたり。又、陰陽の和訓を「ぎみ」といふ。「か」と「き」と相通サウツウなれば、  道と云意も有べし。神は、陰陽のレイなれば也。鏡の中の「が」の字を略せりといへる説あしき由、『直指抄』に見え侍る。カゞミのいまだ出来ざる時すでにかみのカウは有べし。かみの字の正クンをとらずして、鏡を取て、附會フクハイする。すべてかやうの類、皆ひが事也。

※ 「相通サウツウ」は、五十音図の縦の行の五音内、もしくは、横の段の十音の内で音が通用すること。「スメラギ」と「スメロギ」、「イヲ」と「ウヲ」など。
※ 「附會フクハイ」は、無理にこじつけること。付会ふかい
※ 「ひが事」は、僻事ひがごと。道理や事実に合わないこと。まちがっていること。

天地はじめてひらけし時よりすでに日あり。是、自然の語なるべし。或説、日は火の精なるゆへに名づく。又「ひる」と云説あり。日にあたりて物ひるなり。此等の説用ひがたし。日は上古の自語なれば、日の訓をかりて、「火」を「ひ」といふなるべし。「ひる」といふことばは日より出たり。日は母語也。ひるは子語也。子語を以母語をとくべからず。

是亦自語なるべし。或説ツキ也。皆つくる也。刘熙リウキが『釋名』に、月はケツ(カクル)也といへるに似たり。凡、神代のコトバは今よりはかりがたし。且又、自語おほかるべし。今みだりに其義をとくともあたらぬ事なるべし。

※ 「刘熙リウキ」は、後漢末期の劉熙りゅうき
※ 「釋名」は、劉熙りゅうきが書いた辞書。事物の名を二十七種に分類し、語源を説明したもの。釈名しゃくみょう
※ 「はかりがたし」は、はかりがたし。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本釈名 3巻 [1]

「ほ」は「ひ」と通ず。「し」は白き也。星は日の光をうけて白し。下を略す。

「ふかせ」なり。虚空コクウよりふかする也。但、上古のことばは其名つけし意はかりがたし。

天よりふる。故に、アメのことばをかり用ゆ。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本釈名 3巻 [1]

仙覚が萬葉の註に「『く』は内へまくりいる詞もはむかふ義」。篤信が云、此説うがてり。「くも」は上古の自語なるべし。或「くもゐ」と云意なるか。但、「くも」は母語にして「くもゐ」は子語なるか。凡、仙覚が説よきもあり、又、ひがめるも多し。こと/\くは用がたし。よきを取ひがめるをすつべし。

※ 「仙覚」は、鎌倉時代の万葉学者。『万葉集註釈(仙覚抄)』の著者。参考:『萬葉集註釋 20巻【全号まとめ】』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「萬葉の註」は、仙覚が書いた『万葉集註釈』のこと。
※ 「篤信」は、貝原かいばら益軒えきけんの名。
※ 「うがてり」は、人や物の欠陥などを指摘して明らかにしたという意。穿うがつ。
※ 「ひがめる」は、事実と違えていること。ひがむ。

やすくきゆる也。「やす」のかへしは「ゆ」也。「きゆる」の下を略す。

シモにあるの義也。霜満 天などいへども、かたちのみゆるは下にあり。又、高山に霜なし。一説「し」は白也。「も」はさむき也。「む」と「も」と通ず。白してさむきなり。

イカヅチ

いかりてつちにおつる也。

カスミ

春かすみたてば、野も山もあらはに見えず。かすかに見ゆる也。

キリ

「き」は「け」也。「き」と「け」と通ず。気降きふる也。「ふ」を略す。

ひゆる義なり。又、「こほり」は「こる」也。

ミゾレ

水あられ也。縦横タテヨコ二重相通のカヘシなり。此類も亦多し。「ら」を略す。雨とあられとまじるを云。

アラシ

山風はあらき物也。又、草木をふきあらす也。文屋康秀の哥に「吹からす秋の草木のしほるればむべ山風をあらしといふらん」といへるがごとし。

※ 「文屋康秀」は、平安時代前期の歌人。六歌仙のひとり。文屋康秀ぶんやのやすひで

時雨シグレ

しばしくらき也。「ら」と「れ」と通ず。時雨ふる間はしばしくらし。

凍雨ユウダチ

ゆふべに雲たちて雨ふる也。

東風コチ

「こ」はコホリ也。「ち」はちらすなり。春のはじめにこほりを吹ちらす風也。「とくる」を「ちる」と云。又、とくのカヘシ字は「つ」也。「つ」と「ち」と通ず。こほりとくなり。



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