職人尽歌合 19~26番
十九番 紙漉 対 簺摺
紙漉
さゝやかしか たらぬけな
簺摺
さしちかへの 簺もめし候へ
いぬを物の いきめも候そ
※ 「簺摺」は、サイコロ作りの職人。(簺は、古代中国の遊戯の名前で、双六のようなもの)
※ 「いぬを物」は、犬追物。走る犬を馬上から弓矢で射て優劣を競う武技。
※ 「いきめ」は、「犬射蟇目」でしょうか。犬追物では犬を殺傷しないよう犬射蟇目という矢が用いられたそうです。
二十番 鎧細工 対 轆炉し
鎧 細工
しかへしの物は さねかしらか そろはて
轆炉し
木がたらて いそきの物 おそくなる
いかゝせむ
※ 「さねかしら」は、札頭。甲冑を構成する 小札 と呼ばれるパーツのいちばん上の部分。
二十一番 草履作 対 硫黄箒売
草履 作
じやうり じやうり
いたこんかう めせ
硫黄 箒 売
ゆわうはゝき ゆわうはゝき
よきはゝきか候
※ 「いたこんかう」は、板金剛。草履の裏に板をつけたもの。
※ 「はゝき」は、箒。ほうきのこと。
二十二番 傘張 対 屐つくり
傘張
ゑのあふらか たらぬけな
屐つくり
目のゆかみたるから ● 地あしや
※ 「ゑのあふら」は、荏の油。荏胡麻から採る乾性油で、油紙や雨傘に塗布して用いられます。
※ 「屐」は、足駄。下駄のこと。
二十三番 翠簾屋 対 唐紙し
翠簾屋
この衛殿より 御いそきの 美須にて
唐紙し
糊か ちと こはけれは きらゝを入よ
※ 「翠簾」は、緑色の簾のこと。御簾。
※ 「この衛殿」は、近衛殿。近衛 尚通の娘で、北条 氏綱の後妻。
※ 「こはければ」は、強ければ。
※ 「きらゝ」は、雲母のこと。粉末状にした雲母は、唐紙の装飾などに用いられます。
二十四番 一服一銭 対 煎し物売
一服一銭
古葉の 御茶めし候へ
※ 「一服一銭」は、路傍で煎茶一服を銭一文で飲ませる商売のこと。
煎し物売
おせんし物 おせんし物
※ 「煎し物」は、 煎物 。枇杷の葉などの薬草を煎じた飲み物のこと。
二十五番 琵琶法師 対 女盲
琵琶法師
あ士のたくもの夕煙
尾上の鹿の 暁の声
女盲
宇多天皇に 十一代の後胤
伊藤か嫡子に かはつの 三良とて
※ 「尾上」は、山の高いところ、山の頂。
※ 「後胤」は、数代の後の子、子孫。
※ 「かはつの三良」は、河津の三郎 かもしれません。伊東祐親の嫡男 河津三郎 祐泰 で、日本三大仇討ちのひとつ「曽我兄弟の仇討」の曽我兄弟の父にあたる人物です。
二十六番 佛師 対 経師
佛師
阿弥陀のさう まつ 蓮華座を造り候
折ふし 法師原たかひて 手つから仕候
経師
此巻きり いかにしたるにか
きり目の そろわぬよ
※ 「佛師」は、仏像を制作する人のこと。仏師。
※ 「阿弥陀のさう」は、阿弥陀の像。
※ 「蓮華座」は、仏像の台座の一種。
※ 「経師」は、経巻(経文を記した巻物)の表装をする人のこと。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖