『料理綱目調味抄』(15) 雜の部(いり酒・甘湯・万年酢・煮染・柚味噌・田楽など)
酒 并 名酒
製法は不載之。砂こし、尤よし。三返こし などいふは、柄杓に絹三重に掛るもよし。間の仕様、鉄の右間、なべ蓋せずにゆるき炭火よし。錫、銅、又、湯煎あしゝ。杉の曲物もらぬ様にして、手●を青竹にして、其器に酒を入、ゆせんにするは極上也。●酒よし。美酒は木香過てあしゝ。又、常の美酒半●て、水一盞加るもよし。
※ 「砂こし」は、砂漉し。参考:『大日本地誌大系 第19巻(水漉石)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「尤よし」は、最も良し。
※ 「間の仕様、鉄の右間」は、誤読しているかもしれません。
※ 「あしゝ」は、悪しし。
醴酪
糀一升を水八合にて洗、其水にて造る。河州道明寺、仙臺干飯よし。薬補には漆の木を煎て造。
※ 「河州」は、河内国。
※ 「道明寺」「仙臺干飯」参考:『広文庫 第18冊(道明寺糒/仙臺糒)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
熬酒
古諸日の酒ばかりを煎て、にへ立を其まゝ鍋を上、冷し、又にへ立て、如 此 四五度煎ば、一升の酒、四合斗になる時、大梅ぼし三斗入、又、煎上、焼塩にて加減す。如此のいり酒は、経 曰不 損。又、此仕方にて、鰹節真斗五程入たるは尤よし。甚甘を好めば、氷砂糖を加。
※ 「古諸日」は、古諸白。諸白は、よく精白した米で作った上等の酒のこと。
参考:『広文庫 第3冊(いりざけ)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「四合斗」は、四合ばかり。
※ 「三斗」は、三つばかり。
※「甚」は、甚だ。
早熬酒
古酒五盃、漿一盃、塩少、酢少、砂糖十目、合て煎る。酒の香去る時、即よし。
※ 「漿」は、醤油のこと。
料理 ニ 加酒
料理に酒くさきは悪し。古酒を煎じ、酒の気を去、冷し置て用れば、臭き事なし。
甘湯
煮出し也。一書に、下地と云へり。だしは、料理の元也。心を付べし。物により合不合あり。常のだしは、先、かつほ以味すべし。しを可用。だし多用時は、上皮をけづり、真はかなつちにて打くだくべし。だしを大分拵置て、茹物もだしにて茹てよし。
皷だしは、うすたれ也。ねばりだしは、山のいも薄く切て、一夜水に浸し置く。ねばり出し也。昆布だし、干瓢だし、昆布の甘塩、めうがたけ、柿の皮、其外●●のだし、品々あり。魚の骨をせんじたるをともだしと云。
万年酢
酒一盃、水一盃、白餅一、壺に入、始はあやかしとて、能酢一ぱい入れ、口をよくして、風を不 通、日にあて置べし。冬は一ヶ月、夏は五七日に熟す。備前つぼのよく焼たるよし。用る時、大かた分量にて、其つかいたるほど、水酒等分にして入置は、いつ迄も酢のきるゝ事なし。菖蒲の根か葉を加入れ置けば、いよ/\よし。もちは、二ケ月三ケ月づゝに、白もち取かへてよし。
※ 「能」は、よき。
※ 参考:『広文庫 第10冊(萬年酢)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
煮染
漿に酒を加へ、からめに、久しく煮染て後、砂糖をふり置ば、漿もどらず、かび損ぜず。山のいも、くわへ、何首烏、ぬかご、牛蒡、ぜんまい、わらび、笋、松茸、椎茸、ひらたけ、かう茸、木くらげ、ふき、昆布、ふ、やきだうふ、こんにやく、こゝりこんにやく。
※「くわへ」は、慈姑。
※ 「何首烏」は、タデ科の植物ツルドクダミのこと。
※ 「ぬかご」は、むかごのことと思われます。
※ 「こゝりこんにやく」は、凍蒟蒻。
座禅豆
かたく煮るは、豆を布巾にてふきて、生漿にて、炭火にて煮る。くろ豆は、丹州笹山名物なり。
※ 「丹州」は、丹波国。
都春錦
でんぶなり。江府御大家の伝、田つくり、三つにおろし、骨を去り、身を炙、昆布四半に切、辛皮、牛蒡(たんざく)、焼ふ(ほそく切)、黒豆、古酒一升、漿五合、液たぶ/\として、炭火にて久しく煮、焼塩にて加減し、砂糖少加へ、上る時、けしをいりて掛る。世にいふ田夫、此略也。くしがい、梅干を加ふもよし。
※ 「江府」は、江戸のこと。こうふ。
※ 「たぶ/\と」は、なみなみとの意。
※ 「くしがい」は、串貝。串に刺して干したあわび。
辛皮
山椒皮、一夜水にひたし、苦み去。木口に刻、こんぶ刻、當分にして、酒、漿にて久しく煮つめ、胡麻をふる。
※ 「辛皮」の読み(かしかは)は、誤読しているかもしれません。「辛皮」は、山椒の若木の皮を刻んで塩漬けにしたもの。参考:『漬物塩加減(辛皮)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
福田々夫
大坂に製するものよし。するめにてする。
※ 参考:『日本料理法大成(福田田夫)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
梅が香
かつほぶしをうすくかき、●にらて、酒にて煮詰、後に漿にて味付、ほろ/\とするがよし。ちんぴ、●●、にん、山椒の粉、加ふべし。
烹梅 梅膏
常の梅ぼし、肉ばかりを一煮して、すみを去り、其後酒斗にて久しく煮詰、砂糖 大分入てよし。土鍋にて煮るべし。
法論味噌
南都京ばて舛屋の製よし。手製未 勤。
※ 「未 勤」は、誤読しているかもしれません。
柚味噌
熟柚大なるを、小刀の先にて丸くふたをくり明け、姥口の釜のごとくして、あつ湯にて洗い、中の白みをよく去、白みそにいりごまを能すり合、酒、水當分にてねり合、砂糖を加、柚の皮、くりせうが、線にして入、むしても、焼てもよし。
※ 「能」は、よく。
※ 参考:『広文庫 第18冊(柚味噌)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
柚膏
柚の皮、短冊に切、白味を去る。生漿にて煮詰、砂糖を加。
柚干
熟柚、如常中をさらへ、河州の道明寺、常の干飯にても、生漿にてふやし、砂糖を加、柚半分に入て蒸、日に久しく干て、かたまりて後、●とにしてをく。かや、くるみを入てよし。
※ 「かや」は、榧。
黄■豆腐 [■は辟+白]
たうふ上下より板にて押、水を去り、かたくなるを、うら表、漿付焼にして、木口に切、刺身、肴に用。
※ 「黄■豆腐」は、黄檗豆腐。参考:『広文庫 第13冊(黄檗豆腐)』
田楽
■ [■は食+及]、小串仝し。ゑい、うなぎ、はぜ、小鮒、蚫、蚶、はまぐり、たいらぎ、かき、ゑび、各 皷付焼、漿付焼。
豆腐田楽
近世目川といふは、豆腐に先、漿一遍付焼て後、皷付焼也。うにを酒にてとき、卵をぬり、又、塩付焼。
※ 参考:『実用料理法(目川でんがく)』
茄子 仝
江武にて鴫焼と云。茄子(初に洗切て、後洗は悪し)油多塗、一焼して、水に漬、暫してとうがらし皷付焼、●● 蓋をして暫置。
※ 「仝」は、同。「茄子仝」は、茄子田楽。
菜類 仝
蘿菔、かぶ、牛蒡、山のいも、芋、栗、何首烏、蓮根、くはへ、瓜、唐茄子、冬瓜、松茸、開茸、各、皷田楽。
※ 「蘆菔」は、アブラナ科の野菜の名。大根。ろふく。
焼慈姑
くはへ、能茹て、漿付焼にして後、布巾に包、板の上にて摺木にて扣き、平め、又、金あみにて焼。押くはへと云。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖