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章魚(たこ)

章魚(たこ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [4]

章魚たこ 一名は梢魚せうぎよ 又 海和尚かいおしやう
俗にたこに作るはせうおんをもつて二合にがうせるに似たり

諸州にあり。中にも播州明石に多し。  磁壺やきものつぼ  二つ三つを縄にまとひ水中に投じて、おのづから  きたり入るを常とす。磁器じき、是を蛸壺たこつぼと称して、市中に花瓶くわへいともなして用ゆ。たこ壺中こちうつき引出ひきいだすにやすからず。時に壺の底の裏を物をもつて、搔●かきなづればおのずから出て壺をはなるゝこと  すみやか  なり。

伊予長浜には、此魚このうを はなは だ多き故に、強蛸はりたことして市にいだすなり。是は、スイチヤウと云物を以て取るに、壹人に五六百、壹艘いつそうには千二千に及ぶ。スイチヤウとは、四寸に六寸 ばかり小片板こいたの表のはしに  つりばり  を二つ付け、表にズかにの甲をはなし、足許あしばかり をのこし、石を添へて、二所ふたとこにてくくりたるを三つ ばかり長さ 四五十ひろ苧糸おいとつけて、水中に投ずれば、たこは蟹の肉をくらはんとて板の上に乗るを手ごたへとしてひきあぐるに、岸近く或は水際などにいたりて驚きにげんと欲して、かの  つりばり  にかゝるなり。泉州、亦、此法を もつて 小鮹こだこを採るには、烏賊いかの甲、蕎麦の花などをとす。長州赤間関あかまのせきへんには、ふね艫先へさきかがりけば、其下多く集りて、かしらを立て踊りあがるを、手をもつて、つかみ、手の およば ざる ところ打鎰うちかぎちゆ。手取てとりの丹錬  もつとも  妙あり。

予州長浜 章魚

たこは、普通の物、大きさ一二尺 ばかり にして、又、小鮹あり。京師けいしにて十月のころ多く市にるを十夜鮹じうやたこと云。漢名、小八せうはつ梢魚せうぎよ、又、絡蹄らくていと云。大なる物はセキたこと云。又、北国辺ほつこくへんの物、いたつて大なり。大抵八九尺●り□[□は欠字]一丈にしてやゝもすれば人を巻きとりくらふ。其足のいぼ、ひとの肌膚にあたれば、血を吸ふをはなはだ急にして、たちまたをる。いぬ ねつみ さるむまを捕るも亦然り。夜、水岸にいでて、腹を●●かしらあをむけ、目をいからし、八そくを踏んで走ること、とぶがごとく、田圃たばたいりて芋を堀りくらふ。日中にも人なき時は、又然り。田夫でんぶ是を見れば、長竿を以てうちることもありといへり。大和本草やまとほんざうに但馬の大鮹松おほたこまつの枝をまとひしうはばみと争ふて、ついに枝ともに海中へ引入れしことをのせたり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [4]

越中富山、なめり川の大蛸は、是亦牛馬を取喰とりくらひ、漁舟覆ぎよせんをくつがえ  して人を取れり。魚人ぎよにん、是をとらふに じゆつ なし。かくがゆへ  に、舩中せんちう空寝そらねして待てば、鮹 うかがよりて、手をのべ、舩のうへにうちかくるをはやなたをもつて、其足を切落きりおとし、すみやか  に漕ぎかへる。其危そのあやう きこと、生死せうし一瞬の間に あづか る。誠に、壯子さうしの戦場に赴き命を塵埃ぢんあいよりもかろんずるは、忠、又、義によりて人倫じんりんを明かにし、或は、天下の暴悪を除かんがためなり。されども、鮹の足一本にくらべては、紀信きしん義光よしみつか義死といへども、あわれ物の数にはならずかし。

越中滑川之大鮹

右大鮹の足を市店いちみせ簷下のきしたかくれば、長く垂れて地にあまれり。又、此疣一つを服して一日の食につとも足れりとすなり。この余の種類、人のよく知るところなればこゝに略す。

鮹の子は、岩に産附うみつけるをやりといひて、糸すぢのごとき物に千万の数を連綿れんめんす。是を塩辛として海藤花かいどうくわと云。

タコとは、手多きをもつてなづけたり。タは手なり、コは子にて、かしら禿かむろ によりて、猶小児せうにの儀なり。

磁壺二つ三つを縄にまとひ
水中に投じて自来り入るを常とす
小片板の表の端釣を二つ付け
表にズ蟹の甲をはなし足許をのこし石を添へて
二所苧にて括たるを三つ許
長四五十尋の苧糸を付て水中に投ずれば
鮹窺ひ寄て手を延舩のうへに打かくるを
目早く鉈をもつて其足を切落し速に漕ぎかへる
大鮹の足を市店の簷下に懸れば
長く垂れて地にあまれり

たこ飯
Photo by mominaina



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