
【食品図鑑】宝船桂帆柱(6)十遍舎一九×歌川広重
食品醸製之仕法大略

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻』
蒲鉾の法
魚肉を刮取、■こと千杵、塩酒少し斗を和て、再びつき、餅のごとくし、杉の板に粘て、裏よりよく焼炙。また、蒸たるもよし。魚肉、脆き故、鶏卵の汁を加へ粘らしめて、味ひ尤よし。
※ 「少し斗」は、少しばかり。

魚醢の法
魚肉を膊乾し、麹、塩を雜、美酒に漬て、瓶中に盛、よく封じ、百日にして即よし。
同 南蠻漬
醋、酒 等分にして、一沸し、焼塩少し入、瓶に盛、鮮魚肉を䐑て、其中に入、一昼夜置てよし。極美味なり。又、次に加へ入れてもよし。極暑にも五七日は魚決て鮾らず。
※ 「魚醢」は、醢。魚や鳥などの肉を麹と塩をまぜて熟成させたもの。
※ 「䐑」という漢字は、薄切りの肉、肉を薄く切るという意味。音読みチョウ。
※ 「鮾らず」は、腐らないという意味と思われます。「鮾」という漢字は、魚が腐るという意味。音読みダイ、訓読みあざ(る)。

塩引の法
冬月、鮭、鯔 等の鮮きを、鰓■をよく抜去、塩を腹中に満しめ、藁苞に■、檐に掛て、塩汁の垂尽るを待、是を解て、また固く包おきて、春夏に食すべし。
※ 「■」は、膓・腸のことと思われます。


鰹節製方
鰹の頭尾を去、膓を出し、両片 となし、中骨をぬき、又、両片の肉を両三條と作、煮熟し取出し、曝乾ば堅硬なり、色松の節のごとし。

同く煮取
鰹節を造るとき、其液滞るものを取て収む。黒く紫色を帯て、甚甘美也。
漬松茸法
新き松茸、いまだ傘を張ざるもの、傘と柄とを切て 別になし、水一斗に塩三升を八升に煎詰、冷し●て、それに漬、板を蓋して壓石をおく。用ゆる時、一日夜水に漬て、塩出ししてよし。
※ 「●て」の●は、「定」という字に見えます。

乾松茸
新松茸の茎を去、傘を用ひて、二三日曝乾し後に、陰干にして、取収む。翌春夏にいたりても敗ず、香味なり。茎は硬あしし。
※ 「あしし」は、悪しし。

徑山寺味噌
大豆一斗炒て、粗くひき、碎割、皮をさり、大麦一斗 水に浸す事 一昼夜、是を取出し、豆麦 混合 て蒸、握りて試るに、強飯のごとくなるを準とし
※ 「徑山寺味噌」は、金山寺味噌のこと。

麹に■し、別に越瓜三十四つに破、粗あらく割み、塩少し斗和合せ、石を以おして、汁を取、瓜豆麦 三品を|混《こんじ
》合せ、再び 塩二升八合を加へて、瓜の汁を用ひて和合せ、桶に盛、石を以ておし、五日め/\に拌ぜ、四五度よく和合たるを俟て、生薑、木耳など少し瀹て入、拌ぜ、桶に収め、密封し、夏月これを造り、冬春食す。また、茄子を入るもよし。
※ 「少し斗」は、少しばかり。

醬味噌
大豆一斗炒て、粗ひき、皮を去、精麦 を一斗、一夜水に浸し、豆麦混合せ、麹にねさせ、別に塩二升六合、水一斗を 一沸 して、渣を去、冷し●め、豆麦をまぜ、桶に盛、生薑、紫蘓●を入、毎日 陽に向ひて拌廻し、十●目を過て、密封し、廿目経てよし。
※ 「●め」の●は、「定」という字に見えます。

梅干製法
生梅 黄熟 なるを以、一斗を水二浸す事、一日苦汁出る時、取出し、塩三升を梅に■ [予+参] し、壓石をおくこと一昼夜、梅汁出。梅を取て、日に晒、又、件の梅の汁に漬、毎日出し、かくのごとく日に乾こと再三にして、梅干成なり。


万年醋の法
夏月、酒味かはりたるを用ひて、米の醋と水と、右三品各等分よく和合ぜ、甕に入、堅炭の熾をその内へ投入て、炭を取出し、口を封じ、月を経て、醋となる。己後味の変る酒あれば、則その瓶に加入。その醋至て●し。
※ 「万年醋」は、万年酢。かめに蒸米・麹・水をよく混ぜて入れ、土中などに埋めておいてつくるお酢のこと。使っただけ足して用いる。

醴造る方
大抵、分量は、米一斗飯に蒸し、冷定てよし。もし急なる時は、温なるをも用ゆ。麹一斗、水一斗二升、和合せて成。一宿し、醡ずして飲也。或は 麹 を洗ひ、飯粒去、麹衣を取用て、啜るは歯に●らずして、上品とするもの也。
※ 「●て」の●は、「定」という字に見えます。

醝製法
糯の精米七升を強飯とし、冷して、酒一斗のうちへ漬、固く封じて、春夏は三日、秋冬は五日にして、口を開き、箸を以て其飯粒を解わけ、嘗て、試るに、甘味を 生 を度とし、醨を連て、是を磨。甘美にして成。
※ 「醨」という漢字は、うすざけ、味が薄い酒という意味。音読みリ。

豆腐製方
大豆二升、一夜水に漬、磨て糊のごとくし、水六升を入、煮沸て、沫を起す時、油の●一二滴を杖の梢に粘て、釜の中を撹。沫消え、再び煮沸を待て、火をひく。

否されば、焦着なり。酌て、布袋 に入れ、次に水一升五合を以て、釜の中を洒ぎ、共に搾て、汁を桶に受、其汁いまだ凝ず。熱に乗じて塩の鹵汁四方の一を和て、そろ/\撹合せ、凝たる時、箱に入、壓石をおき、頃刻して、取出し、冷水に入れ成。

六条 豆腐
夏土用中、生豆腐ひとつを切て六つとし、塩を糝し、晴天に晒、乾硬め木片の如くす。白き色に黄を帯るもの也。是を 六条 といふ。

削て羹汁の上に入、其味花鰹に劣らず。もし雨に逢ば、敗損ず。最僧家の佳肴あり。鹵汁多く入過仕損じたる豆腐を六条に偽るものあり。それに至て渋くして、しかも毒あり。鹵汁過たるもの喰ふべからず
筆者注 ●は解読できなかった文字、■は該当漢字が見つからなかったものを意味しています。
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