【語源】日本釈名 (2) 天象(南風・梅雨・虹・牽牛・織女など)
日方
東風の久しくふくを云。東の方より吹也。
南風
南風はあたゝかにして蒸気也。故に、よろづのさかな、飯など、はやくすゑると云意。
※ 「すゑる」は、食べ物が腐って酸っぱくなること。饐える。
西北風
雨なし也。「め」を略す。「あなし」ふけば、雨ふらざる物也。
暴風
あらき風を云。野を吹わたる也。
暴雨
ゆふだち所々にむら/\ふりて、ふらぬ所もあるゆへなり。「さめ」はあめ也。「さ」と「あ」とよこに通ず。春雨の「さめ」も同。
氷箸
つらなる也。こほりのきにつらなる也。氷箸はからの書、詠物詩に出たり。又、。氷条、氷筋とも云。
※ 「からの書」は、唐の書。
※ 「詠物詩」は、鳥獣草木や自然そのものを主題として詠ずる詩のこと。
梅雨
つゆは露也。正月より四月まで陽気のぼる。五月に一陰生ずる故、春よりのぼりし陽気くだる時、なが雨ふる。たとへば、こしきの下に火をたきて、気のぼる時は釜の上の水気下へおちず。火をたかざればのぼる気なくして、こしきの上より水気くだりてつゆとなるが如くなれば、五月雨をつゆといへるなるべし。
※ 「正月」「四月」「五月」は、旧暦の正月、四月、五月。現在の二月、五月、六月にあたります。
※ 「こしき」は、強飯などを蒸すのに使った素焼きの蒸し器(底に湯気を通すための小さい穴が開いています)。甑。
虹
「に」は丹也。あかき也。「し」は白也。「にじ」は紅白まじはれり。
※ 「まじはれり」は、交われり。
長庚
ゆふべに、日につゞきて見ゆる星也。暁の明星を啓明と云。あかつきほし也。
※ 「啓明」は、明けの明星のこと。
牽牛
男子をほめて「彦」と云。牽牛を夫とし、織女を妻とする故、男星と云意なり。
織女
女星の名也。由阿が『詞林釆葉抄』に曰「たなとはそらと云詞也」。たなぐもと云も天のくもる也。棚と云もそらにつる故也。然れば、たなばたとはそらのはたと云事也。そらのはたおりひめ也。
※ 「由阿」は、鎌倉時代後期の歌学者。由阿。『詞林釆葉抄』の著者。参考:『詞林采葉抄』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
※ 「たなぐも」は、横に長く引いている雲のこと。棚雲。
昴
星の名也。「す」はつらぬく也。「つ」と「す」と通ず。「まる」はまるき也。此星の形、いとを以玉をつらぬけるがごとくつらなりてまるし。『日本紀 神代巻』に「いをつのみすまる」といへるも、五百顆のつらぬける玉のつらなりてまるきを云。
※ 「いをつのみすまる」は、五百津之美須麻流之珠。また、五百箇統(多くの玉を緒に貫いたもの)。
雲井
仙覚が云、雲集る也。天上の高く遠きは雲のあつまる所也。
※ 「仙覚」は、鎌倉時代の万葉学者。
曇
こもる也。月日の雲中にこもる也。「こ」と「く」と通ず。一説、くもるは●云より出たることば。「る」はことばのたすけ字也。
春日
「かす」は霞む也。下の「か」は日也。「か」はかゝやく也。『仙覚抄』に「『か』はあかき也、『す』はすはう也。春の日はあかくかすむ故にいへり」とあり。鑿説なるべし。蘓方と云も、本よりの和語にあらず音なり。
※ 「仙覚抄」は、仙覚が記した『万葉集註釈(仙覚抄)』のこと。参考:『萬葉集註釋 20巻【全号まとめ】』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「鑿説」は、内容がとぼしく真実性のうすい説のこと。鑿説。
※ 「蘓方」は、 マメ科の落葉小低木で、紫がかった赤色の染料。蘇芳。
靉
雲、かすみのたちなびく也。「ち」を略す。一説「たな」は空也。そらに引也。
雲の■ [■は従+耳]
そびえ引也。一説、そらに引也。
沫雨
水上のあは也。「うた」は「うつほ」也。「つ」と「た」と通ず。「ほ」を略す。「かた」は形なり。うつほかたと云意。あはゝ其内うつろ也。
※ 「あは」は、泡。
※「うつほ」は、空。中がからになっていること。
五月雨
さつき、あめくだる也。「さ」はさ月、「み」は雨なり。「め」と「み」と通ず。「たれ」はくだる也。上を略す。「る」と「れ」と通す。一説、雨足なり。「さめ」はあめ也。「あ」と「さ」と横の相通なり。「足」は多きを云。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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