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「朝読書ルーム」ふたたび【Moebius Open Library Report Vol.5】

東京学芸大学のMöbius Open Library(メビウス・オープン・ライブラリー:略称MOL)では、4月の学校休校時にオンライン会議システムを利用して「朝読書ルーム」というオンラインの読書空間を提供しました。その様子は前回リポートしました。事後アンケートでは85%の人から、また参加したいという声があったこと、そして、緊急事態宣言はゴールデンウィークが明けても解除されなかったことから、5月20~29日にふたたび「朝読書ルーム」を開設しました。今回も東京学芸大学附属図書館Explayground推進機構による協働実施です。

朝読書ルームおさらい

「朝読書ルーム」はオンライン会議システム(Zoom)を利用して「朝読書」を行うものです。方法はいたって単純で、オンライン会議室に接続してカメラの前で本を読むだけです。 場所としての図書館機能をオンライン上に実現すること、学校休校中の生活リズムを整えること、チャットで読んだ本を推薦しあう交流によって読書意欲を高めることが、企画の狙いでした。
今回は「静かに読書をする時間」の朝8~9時を中心に開設することとし、10時までの会話可能な時間を設けるのは2日だけに限りました。
ExplaygroundのフジムーにZoomのルームを開設をしてもらい、広報をして初日を迎えました。前回の見知った子供たちが入ってきてくれて、元気そうだな、散髪してさっぱりしているな、などと、ほんの少し間だったのにふたたび顔が見えることの喜びを感じます。

小学生・中学生のお薦めの本

前回の事後アンケートでは、「静かに読書をする時間」に比較して、「会話可能な時間」の評価が低く、会話可能な時間に何かテーマを設けてはどうかといったコメントや、小さい子供ばかりでどうやって会話していいかわからなかったという声もありました。そこで、今回は小学生と中学生にわけて、お勧めの本を紹介しあう時間にすることとしました。
まず、5月22日は「小学生の日」です。いつものように9時までは静かに本を読んだ後、9時から10時の時間帯に十数人の子供たちが残って、順番にお気に入りの本を紹介しあいます。最初は遠慮していた子供たちも、次第に「次に発表したい人?」と聞くと、どんどん手をあげはじめました。説明を準備してきた子供も、その場で考えながら話している子供も、「どんなところがよかったですか?」「なぜお薦めしたいと思いましたか?」と尋ねていくと、みんな自分の言葉で本を選んだ理由を話してくれます。MOLのメンバーも、ケンケン、レンさん、フジムー、ななたんが、小学生のために選んだ本を紹介しました。それぞれの個性が光る特別な1冊でした。
一巡した後、気になった本、読んでみたくなった本があったかも話し合いました。自分が推薦した本を他人に「読んでみたい」と言ってもらえるのは子供でも大人でも嬉しい気分になれます。この日のために用意した、お気に入りの本に対して共感が得られるからなのでしょう。子供も大人も隔てなく「好き」を大事にしていきたいというExplaygroundらしい時間となりました。

・ぼくらと怪盗レッド VRパークで危機一髪!?の巻
怪盗レッドの中でも、この本にしか無いシーンがよかった
・366のお話、天女の羽衣
最後、天女と子どもたちがお空に行くところが好き。ふんわり空に飛んでいく。
・ぴよぴよおばあちゃん
おばあちゃんとお菓子づくりする。絵が好き。
・マンガでわかる10歳までに習いたい言葉
漫画がついて、すごくわかりやすい。好きな言葉は「のれんに腕押し」
・はたらく細胞
クラスの子がおすすめの本。「くしゃみ1号」「ばいばい菌だ」のシーンがおもしろい
・となりの火星人
学校での自分や友達。わかっていても悪いことをやってしまうことがある。それをやめるために自分の中の「化け物」をやっつけようと思う。
・ゆかいな生き物図鑑
おもしろかった動物はゴリラ。デリケートで、おなかをこわしてしまうのがびっくりした。暴力的なイメージなのに意外。
・先生、しゅくだいわすれました
わざと忘れて、嘘で忘れた理由を話すお話。嘘の理由がとてもおもしろい。
・仮面病棟
病院でおこる事件。最後の展開が予想外でおもしろい。
・さかさ町
なんでも逆さまになってしまう。
・時代を開いた世界の10人、豊田佐吉と喜一郎
佐吉が当時最先端の織機を作ったのがすごい。自信と、次に何をすべきかを意識していた。
・コンビニエンスドロンパ
おばけが買い物に来る話。かっぱがお菓子を選ぶのがかわいい。
・ハリーポッターシリーズ
ハリーは最初は親戚にいじめられていたけど、魔法使いだと気付いてどんどん魔法で活躍していく。普段の学校生活、3人で危険を乗り越えていくところ。
・温泉アイドルは小学生
青い鳥文庫の小学生シリーズ。わらいの神様にアイドルになりたいというところ。
・ファイアークロニクル 最古の魔術書
ドラゴンが守っているの魔法をマイケルが紐解いていくところが面白い
・夜カフェシリーズ6
主人公の花火が大好きなやまとくんが一時帰国するが、運悪くインフルエンザに。やまとと花火の関係がどうなるかがお楽しみ。
・昭和少年SF大図鑑
昭和の頃に描かれた未来予想図。空飛ぶ車とか、今から見るとおもしろい。みんなも未来予想図を書いてみたらいいね。
・みぢかな樹木の絵本
樹木の図鑑だけど、植物だけではなく、樹に集まってくる生き物や食べ方などもわかる。イラストもかわいい。
・数の悪魔
16と17はどちらが美しいか?とか、数字の不思議が満載。この本が好きな子は数学者になれるかも。
・バスラの図書館員
イラクの小さな町で戦争の火から図書館の本を守った話。なぜ、本を守ろうと思ったのか考えながら読んでほしい。

5月27日は「中学生の日」です。そもそも中学生の参加者がそれほど多くないので開催を危ぶみましたが、中学生2名と大学生1名が残ってくれました。人数が少ないので、本を紹介しあった後、それぞれのテーマから出発して、あの本と関係あるかもとか、こんな話を聞いたことあるとか、連想したことを語り合いました。

・透明な夜の香り
調香師のもとに様々な事情を抱えた人が訪れるミステリー。それぞれの人の嘘を暴いていくところが面白い。
→フレーバーとフレグランスの違いは何か
 ・おかあさんになったアイ
 
京都大学で育てられているチンパンジー。母に育てられてないアイが母になっていく話。チンパンジーの育て方が興味深い。アイに愛着が湧いていく。チンパンジーはピーナツをあげないと何もしないが、人はなぜそうでなくても学校に行くのだろう。
 →京大の霊長類研究所は見学できる
・高校サッカーボーイズ 
主人公が強いチームに入って、どんどん上手くなっていくお話。サッカー用語がたくさん出てくる。読むともっとサッカーをうまくなりたくなる。
「弱くても勝てます」という高校野球の本もおもしろい。
「VRは脳をどう変えるか」という本ではVRでアメフト練習していた。
・イヴの7人の娘たち
ミトコンドリアの系譜をたどる。壮大な時間の流れ。
「パラサイト・イブ」を思い出した。
・星を継ぐもの
1970年代に書かれた、21世紀のミステリー。月で発見された5万年前に死んだ遺体の謎を解く。あっと驚く結末。
「ドローンランド」現代のSFミステリーとしては、こちらもおすすめ。
・有限の生態学
色々な生態系を見ていく中から、なぜ地球は安定しているのかを考えていく。この本を読んで中学の理科を攻略しよう。
→理科は苦手だけど、読んでみたい。
・希望の図書館
南部から北部に引っ越してきた少年が、当時黒人でも入れたシカゴの公共図書館で初めて本を借りる話。郷愁をもって南部が描かれている。
「風とともに去りぬ」南北戦争時代のアメリカ南部での女性の生き様。
・はなちゃんのみそ汁 闘病のブログが本になったもの。ノンフィクションもおもしろい。
→仕事関係の本はほぼノンフィクション。学校の先生も本を読んで勉強している。


本を通じて会話を深めていくことができたこと、お薦めした本を、早速、次の朝読書ルームで読んでいる子がいたこと、それは、まさしく、MOLが目指してきた「知の循環」に一歩近づいた出来事だったように思います。

5月の実施結果

さて、今回の参加申込者は76名でした。前回に比べると、人数は1/3に減っています。属性としては小学生が多いことに変わりはありませんが、今回は大学生の割合が減ったことが大きな特徴です。東京学芸大学では5月7日から遠隔授業が開始されました。オンラインで大学教育を維持しようと大学教員は日々奮闘しており、また、大学生たちもそれに応じて、新しいスタイルでの学習が始まったことが、前回との変化を生んだ大きな要因ではなかったかと思います。(余談ですが、東京学芸大学は教員養成大学です。大学でオンライン教育を受けた大学生たちが、将来、どのような学校教員になっていくのか楽しみです。)
申込者の71%が前回も参加したリピーターでした。参加回数が多い参加者の割合が増えていることから、固定的なファンがいたということが特徴です。それから、兄弟姉妹で参加している子供たちも何組かありました。ご家庭での生活にしっかりと朝読書が定着していたのでしょう。

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参加回数

事後アンケートでは、前回と同様に、「静かに読書をする時間」と「会話可能な時間」の満足度を問いました。改善を試みた「会話可能な時間」の評価が上がっている一方で、「静かに読書をする時間」に限って開催したことで「1時間はあっという間に過ぎて、結局は終わっても読んでいました」「もう少し朝読書の時間が長かったらよかったなと思いました」という声もありました。適切な開設時間の設定はなかなか難しいものです。

満足度

今回のアンケートでは、子供たちが自分の読んだ本や感想を書いたチャットのまとめについても聞いてみたところ、75%が「参考になった」と答えており、概ね好評でした。ただ、実のところ、前回よりも今回のほうがチャットの記述量が減っています。Zoomの操作そのものは「簡単だった」という回答が90%を超えているので、今回はルームの開設が短く、チャットに書き込む時間が10分しかなかったことが、原因かもしれません。子供たちが最後の10分間に真剣な表情で書き込んでくれている様子が見て取れました。自分の意見をチャットに書き、それを読んだ人が知的刺激を受けるような「知の循環」を、もう少しうまく設計したかったところです。会話可能な時間に、本をお薦めしあう企画については、次ような好意的なコメントをいただいています。

・前回に加えおすすめの本を紹介しあえる時間がとても楽しかったです。
・おすすめの本を紹介した時、「読んでみたい!」と言われた事がとても嬉しく、紹介する楽しさに気づいたようです。
・様々な本がたくさん紹介されて、親子共々新発見がとても楽しかったです。
・大人の方々の、子ども達へのオススメの本紹介が面白かったです。子ども達の本紹介も、皆さん上手でした。

朝読書ルームについての考察

学校での朝読書には、皆が毎朝の同じ時間に読書をし、学習への導入となる習慣をつくるという、「読書」「協同」「生活」という3つの要素が含まれています。オンラインで行った「朝読書ルーム」はどのように位置づけることができるでしょうか。
「朝読書ルーム」では、静かに読書をする時間を確保し、お薦めの本を紹介しあうことで「読書」促進ということは明確です。他者がいることによって集中力を維持する空間、本から得る知的な探求心をくすぐられる空間といった図書館のような学習空間が発想の根底にはありました。一方で、最近の図書館は、ラーニングコモンズを整備し、協同で学習する場を提供しています。「朝読書ルーム」でも同じ時間にZoomにアクセスするという時間の共有とともに、会話可能な時間やチャットによる人的な交流を試みることで、「協同」の要素を取り入れました。そして、オンラインで友達の顔を見ることもでき、朝の決まった時間に読書をするという「生活」のリズムを休校中でも維持できるところが、この企画の肝となった部分でした。この3つの要素が絡み合ったところにこそ、「朝読書ルーム」の良さがあったのではないかと振り返っています。
前回もレポートしたとおり、アンケートのコメントを読んでいると、周囲に他人がいることによる集中力のアップ、他人の読んでいる本への興味関心の醸成、休校中の生徒同士の交流、生活リズムを整えるといった効果があったようです。今回も、保護者の方からは「長い休校中、ついつい乱れがちな生活の中でも、朝読書のある日はきちんと起きて、顔を洗って身なりを整えて、けじめのある1日の始まりになっていました」「朝読書ルームが終わった後の学習移行もスムーズになりましたし、そして休校の中でも学校の学習イメージを保つ事ができました」といったコメントをいただきました。オンラインでの図書館機能の提供という私たちMOLの小さな取組みが、学校休校中の人々のサポートに少しでもなれたのであれば幸いです。

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さて、「朝読書」ルームは5月末で終了しました。4月と5月をあわせると16回の企画を通じて、運営者のななたんも普段の生活で手にするのとは違った本をたくさん読むことになりました。いつものように図書館で借りてくることができないので、読みかけの本を引っ張り出してきたり、昔読んだ本を読み返したり、新しい本をオンラインの書店で注文したり、ネット上でオープンになっている本を探したり、そして、もちろんお薦めされた本を手にとったり、新鮮な毎日でした。
今回の「場所」としての図書館の機能をオンラインに乗せるという試みを私たちMOLが目指している「知の循環」にどのように接合し、展開していったらいいのか、MOLの活動はこれからも続きます。その前に次回のレポートでは「お薦めの本」という発想がでてきた背景として、PechaKucha from 3 Booksの活動に、もう一度、立ち返ってみたいと思います。(文責:ななたん)

【これまでのMOL Report】
No.1 Explaygroundと図書館の出会い
No.2 PechaKucha from 3 Booksに至る道のり
No.3 PechaKucha from 3 Booksという「遊び」
No.4 「朝読書ルーム」オンラインに図書館的な読書空間を作る試み 

【Explayground URL】 https://explayground.com/

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