ツシマ バルチック艦隊の潰滅(著:ニコライ・プリボフ)【提督がブチ切れて4時間も読書紹介をしたため、その日は艦隊が動けなかった】
なんというか、司馬遼太郎の「坂の上の雲」は原作もドラマも観てないくせに、相手側の記録文学は読んでしまった。
(別に観たくなくて観てないわけじゃない)
いやしかし、やはり興味がある。
負け戦の方が面白いし。(重症のオタクの徴候)
そんなわけで帝政ロシアという超格差社会で、
艦隊まるごと地球を半周するという超冒険をしながら、
その過程でアホ&ブラックな上官たちをこき下ろしつつ、
どうにかこうにかツシマ海峡まで行ったら、
そこで戦記文学になって、
戦後は日本の捕虜収容所で現代社会批判もするという、
まあ要素てんこもりなお話。
もっとも、ソ連革命小説家の常として、
革命後は沈黙し続けたらしい。
まあ、大物じゃないしね。
ノンフィクション作家なのでネタがあるわけでもなし。
そんな著者事情は置いといて、
とにかく読んで楽しい本だったのである。
*****
私のエキゾチズムは、ファンタジー転生世界じゃなくて、
良く知られてない国に向けられたのである。
当時はロシアというのは、よくわからんナーロッパの国だった。
(ヨーロッパぽい何かという意味)
よくわからんとなれば、知りたい。
そこでこんな人名事典の本みたいなのが出てきた。
銀河英雄伝説のドイツ語人名をすべてロシア語に替えても、
お釣りが来るくらいの大量の人名。
実在した人名なので恥ずかしい思いをすることもない。
(アメリカ人SF作家が作った日本人名は漢字をあてるのに独創性を必要とすることがある)
とにかく、艦隊の中であっちこっちのエピソードが出てくる。
そしてこの時代の軍艦なんて、そもそも資料も極小だし。
知らないものは知りたくなるのが人の業。
***
ロシア海軍、日本海軍、ともにあの時代は制服もダンディだったので、
(いや別にそれ以降がダサくなったわけでもないが)
19世紀の衣装はやはり違う。見られることを前提に作ってある。
無駄が多い。
優秀で尊敬される艦長もいれば、
上に媚びるばかりの無能な艦長もいる。
そもロジェストヴェンスキー提督も、役所仕事は抜群だが、
実際に艦隊指揮を執った経験は乏しいらしく、
威張り散らすばかりで、ピンと来ない人物である。
ロシア最高の提督であるマカロフ提督は開戦直後に戦死してしまっている。
ロジェストヴェンスキーはロシア皇帝のお気に入りであり、
要はこんなんしかいないというか、誰もやりたがらないというか、
本人がやりたがるんだから、あのバカにやらせてやれ、という、
そういう役回りなんである。
これはアイヒマンと同じパターンだ。
アイヒマンは「凡庸な悪」と評価されてるが、
しかしアイヒマンは役所仕事こそうまいものの、
後先のことが考えられない人間で、
まあ同僚が逃げ出すような仕事を押し付けられた、
という面がある。
(同僚たちはドイツ敗戦を見越してユダヤ人をこっそり助けたりしていた。あくまで保身である。これも先見の明があると言えるだろうか)
まあ株価が最高になった時点で大量に買いを入れるタイプだ。
そういう人を悪の代名詞に使われてもね、というのがある。
話がそれたけど、完全なる上意下達社会でボスがこれだと厳しい。
お気に入りの艦長は真っ先に日本軍に降伏してしまうし、
最後まで戦った艦長はもっとも提督に嫌われていた人物である。
ダメ会社あるある要素である。
それと将校たちは貴族なので、
アホみたいな特権意識丸出しである。
最近は日本でも変な金持ちが増えたが、
何も知らないくせに知っているふりをしている士官候補生とか。
もちろん水兵たちは誰も教えたりしない。
もはや戦争なので悲惨な結果しか招かない。
ある意味、スカッと展開なんだが。
一方で日本の捕虜収容所では、
日本海軍においては、
平民でも士官になれるのだという話を「聞く」
まあ社会批判を兼ねているわけだ。
ありのままを書いたら社会批判になってしまったという、幸福な時代である。
筆を曲げる必要もないのだ。
私はロシア語てんこ盛りで、当時の海軍の話が出てきて、
世界の半分を航海していくという旅行記としても読めて、
いや、無駄に捨てるところない本だと思ったけど、
皆さんはどうであろうか?
上下巻でやたらと分厚いけれど。
当時はむしろ喜んだ。
まあしかし、作者の主観が入っているので、
どこまで本当だったのかという意見もある。
ドラマ版「坂の上の雲」テーマ音楽で締めよう。
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