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「終末のフール」伊坂幸太郎 (著) /伊坂幸太郎小説レビューのまとめ /「もしも」のことが頭に浮かぶ

前から気になっていたが「いつでも読めるから、いずれ…」と、手を伸ばしていなかった本をようやくKindleで購入したら、思っていたとおりすぐに読み終えた。

八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。

自分の言動が原因で息子が自殺したと思い込む父親(「終末のフール」)
長らく子宝に恵まれなかった夫婦に子供ができ、3年の命と知りながら産むべきか悩む夫(「太陽のシール」)
妹を死に追いやった男を殺しに行く兄弟(「籠城のビール」)
世紀末となっても黙々と練習を続けるボクサー(「鋼鉄のウール」)
落ちてくる小惑星を望遠鏡で間近に見られると興奮する天体オタク(「天体のヨール」)
来るべき大洪水に備えて櫓を作る老大工(「深海のポール」)
などで構成される短編連作集。
はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?
今日を生きることの意味を知る物語。

https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-746443-6
集英社文庫(日本)終末のフール


伊坂幸太郎 (著) 小説のレビューは、多くの方にお読み頂いている。
それらのレビューは散らばっており、とりあえず纏めておきたい。
(note自分検索をしたので漏れはないと思う。たぶん…)


「終末のフール」と人の死

この短編小説集を読み始めたとき、伊坂幸太郎氏らしからぬ物語だと思った。

書かれている文章、登場人物の会話は間違いなく伊坂幸太郎氏の作品なのだが、物語の中で「事件」が起きず。フツーの人々が出てくる。

彼の小説に出てくる人物は一癖も二癖もあり、彼らが物語の中でワチャワチャするところに惹かれるのだが、この短編集の登場人物は仙台市内のマンションに住む8組の家族。「地球が滅びる」という予告でノーマルではない世界に置かれた状況と、それによる普通ではない日常が事件なのかもしれない。

終末のフール」で語られる場面は、3年後に地球人全てが亡くなるという前提が秀逸。小惑星の衝突が予告されてから5年を経たのち、世の中の混乱はとりあえず収まり、落ち着いた人たちだけが残っている世界。
食料には事欠くが(でもお米などは普通にある)電気ガス水道のインフラは健全で(下水にも困っていないようだ。どうやっているのだろう?)、登場人物たちは気ままに働いたり、生産的なことは何もしていなかったり。
 
既視感を感じて「何かな?」と記憶を探って思い出したのが、設定が全く異なるが「地球の放課後」。
「そして登場人物以外、誰もいなくなった」設定のSFは多い。

終末のフール」の生存者はそこまで少なくないが、家族が欠けた登場人物も多く、物語の中で擬似家族を演じている人もいる。

来る「3年後」は長くもなく短くもない。特定の誰かではなく「一瞬にして地球人全員が亡くなる」となれば悲しむ人も残らないので、それを理解すれば日々淡々と過ごして行く姿が分からないではない。
 
災害が起こった時の日本人の行動パターンを振り返れば、この物語の中で語られる数年前の暴動や暴挙はほとんど起こらないのではないかと考える。
騒ぎが起きるとすぐに電気店から家電製品を略奪するような国は、ずっと暴動が続くのだろう。
 
解説によればこの小説は短篇連作集。章ごとに主人公が変わる中編小説(Kindle換算319頁)。ただし章ごとに物語は独立しており「あと3年で人類がいなくなる」設定の中で、著者が編み出したキャラクターの思惑や行動を楽しむ小説だと思う。
 
以下、登場人物で印象に残ったところ。

終末のフール

二言目には「馬鹿」しか言えない気の小さな父親がいる家族。
その父親せいで、小惑星衝突予告より前に長男は自死し、長女は家を出て行った。母が長女を呼び寄せるが「自分が正しい」と思い込む父親は何も変わらない。

太陽のシール

富士夫と美咲。
こんな夫婦なら、小惑星が衝突するまで穏やかに楽しく生きていけそう。

籠城のビール

前半で語られる「マスコミがダメ」な様子が、よく書かれている。
筆者もマスコミからの(被害)経験があるのかも知れない。
後半は伊坂幸太郎らしい展開で、ちょっと楽しい。

冬眠のガール

「田口美智、五教科四七二点、お前は正しい」そう言って小松崎さんは口を大きく開けて、爆笑した。

終末のフール「冬眠のガール」

両親が亡くなっても「自分の今」を生きるガール。
小惑星が衝突しても気にしないのかもしれない。
 

鋼鉄のウール

明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」文字だから想像するほかないけれど、苗場さんの口調は丁寧だったに違いない。「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」

終末のフール「鋼鉄のウール」

この短編もそうだが、小惑星衝突予告でダメになる男性(父親)が多い。

天体のヨール

天文学オタクが無敵の件😊

演劇のオール

今までの登場人物が、会話の中での登場を含め総登場。
残り少なくなった人類に擬似家族はよく似合う。

深海のポール

櫓を組むことに毎日精を出しているおじいちゃんは立派。
どんな時でも、何かに集中することは大事。


読み終わって思うこと

読み始めて「一気に読んだ方が良いのか? 少しずつ読んだ方が良いのか?」を迷った小説。
登場人物を含め人類が滅びる物語。小説の雰囲気は夕暮れ時。
そんな話はさっさと読み終えた方が良いはず、と思いながら章ごとに登場人物を変えて「人類滅亡」をリフレインする雰囲気には惹かれる。
 
普段は小説の世界に思い入れをすることはないのだが、この小説を読んでいて「こんな未来が来たら自分や家族はどうする?」と思わずにはいられない。

この小説は小惑星衝突が滅亡の原因だが、昨今の情勢を見ていると愚かな人たちが、無人ドローン機で市民殺戮を繰り返すのと同じように「核打ち放題」が起こっても不思議ではない世の中。

複数の戦闘地域でミサイル打ち放題、排ガス制限のない戦闘機や戦車を動かしたい放題を見ていると、『温暖化ガス削減未達企業に課徴金』の施策は「単に税収を増やしたいだけ」としか思えない。

CO2削減よりも兵器削減が先だと思うが、日本も兵器を増やしていくらしい。

いくら兵器を増やしてもエネルギー自給率11%の国は、争いが始まったら兵器を動かすことすら出来ないはず。



MOH

  


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