『なめらかな世界と、その敵』 伴名 練 (はまなれん)著 / このSFは外せない
2023年、早川書房 夏のKindle大セールで購入した一冊。
「読書メーター」の感想は「ベタ褒め」か「分からない(難しい)」の両極端。感想の差が激しい最初の短編『なめらかな世界と、その敵』の冒頭を引用する。
これとそれに続く文章を読んで「ニンマリする人」と「はてなマークが頭に浮かぶ人」とで、この短編集の感想が変わるはず。
『なめらかな世界と、その敵』は、並行世界(パラレルワールド)を一つの文章に並行に織り込みながら主人公の日常を描いている。
以前書いた長編SF小説は時間移動が物語の主軸だが、主人公たちが気が付かずに並行世界へ入るエピソードもあり、この小説の冒頭一行を読んで「そんな表現の仕方もあったのか」と感心する。
以下、短編それぞれの印象を残しておきたい。
なめらかな世界と、その敵
並行世界に慣れ親しんだ主人公は、一つの明日に生きて行く。
爽やかな青春物語。
ゼロ年代の臨界点
20世紀初頭、架空女流SF作家の架空SF物語。
「元ネタはあれかな?」と思ってみたり。
美亜羽へ贈る拳銃
ナノマシンを使う脳内インプラント(意識等の改造)が合法な世界。
京都大学SF研究会同人誌『伊藤計劃トリビュート』掲載作品。
ホーリーアイアンメイデン
超能力者の姉を持った妹の、長い長い計画された遺書。
シンギュラリティ・ソヴィエト
人間同士の東西対決に代わり、AIの戦いが主戦。
ひかりより速く、ゆるやかに
しっかりとしたSFの設定に爽やかさが漂う。
市販オートバイで300km/hもSFの話だと思ったら、自主規制前の20世紀末には普通に300km/h超が出せるオートバイが販売されていた。
この短編集の中で唯一書き下ろし。
あとがきによれば、他の短編は同人誌が初出とのこと。
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Kindle版
表紙絵は『かぐや様は告らせたい』『【推しの子】』の原作者:赤坂アカ氏。
5年前のnoteの記事に、濃い解説がある。
この解説以上の感想が書けないことを自信を持って言えるので、伴名練氏の世界を知らない方は一読頂ければと思う。
どの短編もSFとしての形をしっかり作った上で、言葉の選択やストーリーの展開に「上手い小説だな」と思ってしまう。
物語を書くという行為で、彼我の差を明らかに感じる読後感だった。
MOH