【日本語学習者との思い出いろいろ⑤ 】双子ちゃんとの日々
失敗談です。
長めのnoteですが、読んでいただけるとうれしいです。
こんな日本語学習者もいるんだということを知ってもらいたいと思って書きました。
前回、前々回のnoteでは厳しく指導(もちろん、褒めるのも適度に混ぜながら)していたら、それが伝わったという話を書きました。
今回は厳しい指導で失敗したことについて書きます。
その学生はベトナム人の16歳の双子の女の子でした。
母親が日本人と再婚。
「お母さんと一緒にいたい」
その一心で、追いかけて来日。
高校受験のため、日本語学校に入学。
義務教育が修了しているため、日本の中学には入れないからです。
前にも書いたことがありますが、日本語学校は留学ビザの学生がほとんど。
留学ビザは18歳以上の高卒でなければ申請できないため、学校は自然と大人の集まりになります。
そんな中にかわいらしい双子ちゃんが!(´ε` )
入学するまでの半年はボランティア講座で学んでいたそうですが、同年代の子達と触れ合える機会はなく、双子2人きりの世界だったそうです。
それが、日本語学校へ来てみると、少し年上だけど、同じベトナム人のお兄ちゃんお姉ちゃんがいっぱい。
急に世界が広がりました。
それがとにかくうれしかったみたいで、毎日楽しく登校していました。
しかし、転機が訪れます。
それは、中級レベルの教科書に変わった頃。
日本語学校の学生は20代の大人中心。
そのため、教科書で扱われるトピックも自然と大人向けのものになります。
取り出し授業をやれればいちばんよかったのだけど、そこに人を割ける余裕があの時の学校にはありませんでした。
初級までは、日常生活に沿った語彙や表現中心なので、何とかついてこられました。
しかし、中級に上がると、専門学校や大学への進学や就職を見据えた内容になってきます。
日常生活では使用頻度が高くない表現も増えてきます。文章の中に出てくるような表現ですね。
読解文もどんどん長くなり、the勉強!という授業が増えてくるのです。
妹のほうは「勉強好きじゃない!」と言う割に新しく学ぶことに対してよくアンテナを張って勉強していた印象。
だから、成績もよかった。
問題はお姉ちゃんのほうでした。
彼女は本当に勉強が嫌いなようでした。
絵を描くのが大好き。完全な右脳タイプ。
初級まではそこそこの勉強量と日本人の父親とのコミュニケーションのおかげで、ギリギリクリア。
しかし、中級に入ってつまずきました。
やはり中級の学習は彼女には合わなかった。
欠席も増え、授業中はずっと絵を描いているか寝ているかスマホでゲームをしているか。
グループワークも参加しない。テストは白紙。
教師の呼びかけも無視。
こんな行為、日本の高校で許されるわけがない。
ていうか、どこの国の高校でもアカンのでは…。
彼女はこの先やっていけるのだろうか。
不安になった私。
まずは無理矢理やらせてみようとしました。
高校はもっと厳しいんだよと。
スマホも絵を描いているノートも取り上げました。
すると、彼女が取った行動は…
不貞寝!
お手上げです。困り果てました。
そうこうするうちに、何日も欠席が続くようになりました。
やばい。やり方間違えた。
焦りました。そして、大後悔。
「お姉さんは家で何してるの?」と妹に聞いてみたところ、ずっとゲームしてるとのこと。
気が向かなければ欠席もありだとは思う。
彼女は日本語学校の出席率や成績がビザ更新に響く訳でもない。
ゲームも悪くない。
好きなことは思い切りやればいい。
でも、せっかく広がった彼女の世界を狭めたくない。
まずは家から出したい。
妹にとにかく学校に連れて来て欲しいとお願いしました。
そして、来てくれるようになってからは接し方を変えました。
厳しく言わないことにしたのです。
ゲームをしていても、絵を描いていても、放っておきました。
ゲーム以外の世界の空気も感じて欲しいと。
教室にいることで自然と目と耳に入ってくるものが何かきっかけとなって、そのうち何か変化があればと願って。
しかし、願いも虚しく、何の変化もないまま彼女たちが日本語学校を去る日が近づいてきてしまいました。
そんなある日、グループワークに参加しているのが目に入りました。
その日は漢字カードでかるた取りのようなことをしていました。
思い切り楽しんでいるようではなかったのですが、私が読み上げた漢字を懸命に探していました。
すごくほっとしました。
後日、こんなこともありました。
母国について中級表現を使って壁新聞にまとめる授業をしたときのこと。
書いてくれるわけがないのはわかっていたので、「何でもいいから好きな絵を書いて」と壁新聞用の画用紙を渡しました。
彼女が絵を描くのが好きなことを知っていたので、絵ぐらいなら何か描いてくれるかなと思って。
はじめは何もせず突っ伏していましたが、いつの間にか絵を描いていました。
何の絵なのか尋ねてみると、好きなアニメの絵で、どんなキャラクターなのかを日本語で教えてくれました。
少しはにかみながら。
ほんの少し心を開いてくれてほっとしました。
大人のクラスの中に多感な年齢の学生がいる。
すごく難しかった。
厳しくしちゃって、ごめん。
あなたたちに合う授業ができなくて、ごめん。
今でも申し訳ない気持ちでいっぱいです。
彼女たちは今、定時制高校に通っています。
2人いっしょに何とか通えているようです。
よかった。
彼女たちの未来がどうか明るいものになりますように…。
そして、私は出直しです。
彼女たちに教えてもらったこと、一生忘れません!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?