第ⅩⅦ章 (最終章)世界の初まりとヘスぺロス・アギーアイランド−2
Vol.2 悪戯のアリストテレス
「ルドラになりたい。」そう決意してから、私は具体的にどうしたらいいのか分からなかった。彼にこの想いを伝えるべきであるか。否か。彼が私にそんなことを言ってしまっても、裁判中の彼は何も言ってくれないかもしれない。ここで、ルドラのなり方なんて言ってしまえば、いやでも証拠になってしまう。そんなことはしないだろう。でも、そんな用意周到な彼がどうして警察に捕まってしまったのかは謎だ。私はウロチョロウロチョロと狭い部屋を歩いた。
「痛いっ。」
私は何か固いものに足の小指をぶつけた。その衝撃は、不意だったこともあり、とても痛かった。少し涙目になりながら何に小指をぶつけたのかと見てみると、彼に差し入れをした本だった。
「あなたも読んでみるといい。」
そう、彼から言われたのを思い出した。私は、その本を読んでみることにした。軽くパラパラと読む。しかし、ただのSF小説にしか思えなかった。普段からSF小説を読むわけではないし、そもそも小説なんて読まない。私はもっぱら漫画派だ。最初の硬い意気込みはすぐに軟化してブヨブヨのゴムボールのようになってしまった。その後もパラパラとページを進めていくと、なんだか、本文中に印がついていることに気づいた。最初の印が付いたページから読んでいく。
「『これはあなたと私の秘密です。あなたの言うとおり、私がるどらです・・・。』って。これってサスペンスで見るやつだ。」
思わず声が出た。そう、これは彼が私に送る言葉なのだと察した時、嬉しくなった。私だけが一人盛り上がっていない。彼もこうやって、看守の目を盗んでまで、危険なリスクをとってまで私に言葉を残そうとしてくれている。私は夢中になって本にある印を全てスマートフォンのメモアプリに打ち出していった。全部打ち出し終わったのは、午後9時を回っていた。エアコンもつけずにやっていたせいで、体から汗が吹き出してきた。最近の気候はもう亜熱帯のような気がする。夜はクーラーがないと生きていけない。本当は四六時中つけていたいのだが、そんなお金なんてないから我慢をして、できる限り外出をして過ごしていた。打ち出した文章を読む前に、ご飯を食べてお風呂に入ることにした。エアコンの電源をいれ、いつも通り、25度の温度設定にして、冷蔵庫からあらかじめ買っておいた割引セールのお弁当の中から唐揚げ弁当を出して食べた。唐揚げ弁当は、割引セールの中でもかなり争奪戦になる。タイミングがうまく合わないと、買えないから昨日はラッキーだった。いつもは、おにぎり弁当とかのり弁とか、あまり人気のないおかずのものばかりだった。冷蔵庫から追加でマヨネーズを唐揚げにつけて食べる。少ししなしなになった唐揚げも、マヨネーズの力で美味しくなる。身体に悪いとは思うが、別にそんなこと言って細々生きるより、今を生きる快楽を感じたい。それに、幸い代謝も良い方なので、体型も痩せている。そもそも一日1食しか食べないから問題ない。そう言って食べ終わった唐揚げ弁当のゴミをゴミ箱に投げ入れた。1発で入ると気持ちがいい。このままの勢いでシャワーを浴びた。いつも通り鼻歌を歌いながらシャワーを浴びた。気分がいいのでいつもより、ワンコーラス分長めに歌った。でも、あんまり歌いすぎると近所迷惑で、怒られそうだったのでこれくらいにして出ることにした。髪を乾かしながら、いつものオールインワンの化粧品をつけた。安い化粧品でもとりあえずつけておけばいいだろうというメンタリティであるので男まさりにに豪快につけている。いつもの、ルーティーンを終わらせ、ルドラからのメッセージを早速読むことにした。
『僕に興味を持ってくれてありがとうございます。あなたとしばらくお話をして僕は核心しました。僕が何を成そうとしていたのか。あなたには話してもいいと。そう思えました。だから、この言葉をあなただけに伝えたくてこう言った手法を取らせていただきました。
僕が成そうとしていたことは、至極単純です。それは、ある人から見れば不可思議であるかもしれないし、またある人から見れば至極当然のことなのかもしれません。それは、この国への革命です。腐敗した政治を真っ白なものにし、一度浄化する。そのために、国民一人一人に問いかけることをしました。
なぜ、僕がこんな事をしでかそうなんて思ったのか。それは、そもそもとてつもない虚無感を抱えながら生きていたことにあります。何をするるにもどこか遠くからそれを除いている気になり、思い描いていた大人になった自分と最悪だと思う人生の間を泳ぐ感覚。何か学生時代のように熱中して何かをやったりする感覚もなく。仕事で疲れた心と体を癒すためにダラダラと過ごす休日。平日は会社と家の往復。そんな人生の中で、本当に自分がやりたいものは何なんだろうと。僕は悩みました。深くて苦しい悩みです。何かを変えようと動いても対して何も変わらない。社会の歯車は所詮使い捨ての歯車。我々がいくらもがこうが大した事件にはならない。そういう、焦燥感を感じ、体が渇いて乾いてどうしようも無くなった時、自分が言うんです。このままでいいのかと。社会も自分自身も。そうやってウジウジしたままで。そんな中で、今の社会に疑問を持ち始めました。上がり続ける税金。止まらない政治家の汚職。居眠り議員。少子高齢化。地方の衰退。より良い社会のためにあるはずの政治がこんなにも腐敗していいのだろうか。と思うようになりました。そして、その政治を変えるための選挙はどうでしょう。機能不全のイベントへと凝華してしまった。そもそも選挙制度とは、権力者だけが握る政治を国民が勝ち取るために数多の人々が血を流しながら行動したことで獲得した物です。しかし、どうでしょう。今日の選挙は。何度行っても同じような顔ぶれが揃い、国民の意思は情報操作によって流され、国民たちの興味はどんどん薄れていった。むしろ、薄めさせられていったのかもしれません。不祥事が続く与党の揚げ足を取る野党。偏った思想の少数の党。多様性はあるもののパワーバランスが完全に与党に傾いており、これらが切磋琢磨するような環境ではありません。政治と金はいつも瞬間接着剤のように強く結びついており、蓋を開けると数えきれないほどの汚職が頑固な油汚れのように蔓延っている。不祥事を犯せば、辞任という手段で逃げてゆく。その不祥事を招いたのなら、その3倍は国のために働いて返せと僕は思います。そんな日本を変えなければと思わずにはいられなかった。
そんな中で、今日本はSNSの普及に伴い、たくさんの人の人生を覗くことができるようになりました。そして、自分と比較しては、嘆いて。偽って。誰か幸せが妬ましくて。自分たちの生き方が本当に正しいのか。より良い未来のために争わなくてもいいのか。人は自らの意思を持って行動するとき、幸福を感じます。誰かに与えられた人生。政治のせい。親のせい。と誰かのせいにして他力本願な人生を生きていても何も変わらないんです。自分の人生は自分で歩んでいくことが大切だと僕は感じました。あなたもそう思うことはないでしょうか。僕は、ルドラとしてたくさんの人々の声をきいいてきました。人々はみんな不満を持っていました。彼らは、何処かに吐き出したいと思っていたのです。だから僕は、ルドラとしてこの使命を遂行せねばと思いました。そこから、さまざまなイタズラを仕掛けていきました。過激な宗教団体のようなものではなく、かつてSF小説という名で描いた風刺のように。人々に社会のあり方について形而上学的な観点から問いを与えたのです。何気ない日常に添えたイタズラは確かに人々の胸に刺さりました。そして、そのイタズラに共感した人々がどんどんと増え、模倣犯が増えていきました。自らも自身の行動によって社会にその存在を問う側へとなったのです。今まで損在に扱ってきた社会のあり方を真剣にとらえるきっかけになっていきました。確かに、面白半分に行っている人たちもいるでしょうが、それは仕方のないことです。社会に完璧を求めてはいけない。完璧な社会をつくろうとすると必ずどここか、例えば大きすぎる理想を追うがために、巨大になりすぎた風船が破裂してしまうようなものです。そもそも、より良い社会を求めて探求していくその行動する社会こそが正しい社会のあり方だと僕は思います。回りくどいかもしれませんが。歴史的にもそのような自由を求めた運動が盛んに行われていました。自由とは?社会とは?法とは?そんな事を問いながら、人々は日々を生きて、時には争い、慈しみ、愛でる。そんな行動と過ちの積み重なりがこの社会を気づいてきたのだと思います。
話がそれましたので戻します。その後、ルドラのフォローワーが増えていった時、あなたもご存知かと思いますが、先日の都知事選へのインターネット投票を行いました。あれは、民意を如実に表したものとなりました。現実の選挙で投票率は上昇しましたが、当選者の票数はそれから比べるとほんのわずかだったのにも関わらず、当選した。一方、インターネットの投票ではルドラが圧倒的な票数を獲得していた。当選者の票数とネットの票数もほとんど類似していたことを考えると、国民いや、少なくとも都民はルドラという存在を過半数が支持していることがわかりました。これはまさに、今の日本の選挙を表しているかのようでした。どういうことかというと、今の人たちは選挙に興味がないわけでは無い。ただ、投票したいと思える人がいないということ。特に若者に至っては、投票したとしても絶対数がお年寄りよりも少ないから自分たちの意見が反映されないということでした。つまりは、今の日本には魅力的な立候補者がいない時にどのようにすればいいのかという手段がないということ。より魅力的な立候補者が必要であること。これが証明された瞬間でした。今回の都知事選に関して言えば、今の都知事は嫌だけど、それに変わる人がいない。むしろ悪くなるとしか思えない人々しかいない。ポット出てきたようなよくわからない人々に都政を任せるよりも、現状維持に回る方が無難である。そんな雰囲気が伺えました。こういう時に、社会学という学問が真価を問われると思います。元来社会学は、常により良い社会を考える学問でありますが、社会を実験対象にするがため、なかなか革新的な発展は難しい。でも、ルドラならそれができる。いや、できたのだと感じました。
時は満ちたー。そう核心しました。ルドラの力を認識した時点で僕は、先日の事件を起こしました。自分の集めたフォローワーを仮面を被ってもらい、国会に対して運動を行うことととしました。中世の仮面舞踏会のように。’’Shall We dance?’’と掲げた運動を国会で行うという投稿をSNSで募集しました。居眠り議員も目覚めるような素敵な仮面舞踏会を開こうと。あなたも、ご存知でしょうが、現代の仮面舞踏会は思った通りに、いやそれ以上に盛り上がりました。まさに渋谷のハロウィンのような賑わいを国会前で起こすこととなりました。踊り方もみなさん個性的なものでした。風刺的なものを掲げるものもいれば、物理的に生卵を投げ込む者もいる。普通にお酒を片手に馬鹿騒ぎするだけの人もいる。また、プラカードを掲げて訴える人々。こんなどんちゃん騒ぎに何の意味が流のか?馬鹿げているじゃないか?と思っていいるかもしれませんが、一つのSNSの投稿でここまでの運動が行えたことに意味があると僕は思います。普通の人間が国会に殴り込みに行っても、警備員に止められて終わるのだ席の山です。なっても朝のニュースで少し取り上げられるくらい。もしかすると、そんなことは無かったことにされるかもしれません。しかし、ルドラは社会に対して大きな影響を与えるものとなった。もしかすると、教科書にだって今後乗るかもしれない。それほどまでに大きなことなのです。一匹の小魚が魚群となって国会へ押し寄せ、大きな魚をも退かせてしまう。そんな絵本のような出来事が実現できた。それは、現場に行って事を見ていた僕は、ひしひしと感じました。この方法で社会がより良くなるのなら完遂せねば。と。次の行動を移さねばとそう思っていました。
しかし、その運動がきっかけとなり、僕は今のように逮捕されてしまうことに至りました。一人の政治犯として。僕は自分のことを政治犯だとは思いません。アジテーターと僕のことを批判する人もいましたが、これは国民が諦めている心に問いを与え、行動するきっかけを与えたにすぎません。みんなどこかで、より良い社会を望んでいるからこそ、行動できたのです。だからこそ、夢半ばで倒れてしまうことをとても悔いています。最後まで革命を行いたかったー。成し遂げたかったー。僕は、第二のルドラが現れてくれることを今は願っているばかりです。ここまで、話を聞いていただきありがとうございました。これが、ぼくの成し遂げたかった夢の話です。僕も最初はただのしがない社会人でした。きっかけはどこにでも転がっています。あなたが何かを行動したいならきっと手助けをしてくれる人は大勢います。ルドラという存在を通してですが、たくさんの人たちと関わることができました。それによって、多くの人々の考え方に触れて、そう感じました。
もし、あなたが第二のルドラになりたいのなら、その時はココに連絡をしてみて下さい。きっとあなたを助けてくれるはずです。
TEL:199ー6666ー1212
恐れることはありません。あなたがやりたいように、考えるように、思うように。行動すればできるはずです。僕は応援しています。親愛なる友人に贈る。
ルドラより』
私は、本を黙って冷たく冷えた机の上に置いた。私は、彼という存在に少し近づけた気がする。ルドラという人物が最初は私と同じような思いを募らせながら日々を生きていた。それをしれたことで、私はますます、彼の思いを完遂させたいと感じた。そして、彼は私に力を与えてくれたのだ。この電話をかけることで、社会が変わるのなら。焦る気持ちを抑えられず、私はすぐにスマートフォンをとり、電話をかけた。3回ほどコール音がなった後、電話はすぐに出た。
「もしもし、ルドラさんからこの電話にかけるように言われたのですがー。」
私は恐る恐る電話の相手につぶやいた。
「お待ちしておりました。では、今からいう場所に来ていただけませんか。電話では、あれですし。」
電話口の相手は女性のようだ。澄んだ声で電話口からでも聞き取りやすい。私は女性で安心した。これが野太い声の男性だったら少し身構えてしまう。もしかしたら、ルドラさんはそこまで考慮してくれているのかもしれない。彼は、そういう人な気がする。
「わかりました。では、どちらに行けばいいですか。」
「タイのバンコクです。」
「た、タイ?」
私は驚いた。突然タイのバンコクだなんて。国内のどこかかと思っていたが、それが何でまたタイにわざわざなんだろうか。私は困惑していた。「突然ですが、明日の羽田ーバンコクの便で来ていただきたいです。よろしければ、20時に羽田空港国際ターミナルのすき焼きの専門店ギュウギュウに斎宮で予約しておりますのでお越しください。チケットはこちらで用意しているものを当日お渡しします。安心してください。私も同行させていただきます。1泊2日程度の旅行の荷造りで問題ありません。では、当日お待ちしています。パスポートはお忘れなく。」
そう言って彼女は電話を切った。電話が切れて、私はすぐさまタイに行く準備を始めた。海外旅行は、友達と韓国に行っていらい久しぶりだった。あの頃はドラマにハマっていて韓国語も何となく喋れていたような。うんうん。いや、そんなことを悠長に思い出している場合ではない。早く、支度をしなくては。海外旅行なんて何をしていけばいいのかと思い出せない私は、すぐさまスマートフォンで調べながら小汚いクローゼットから洋服を取り出した。そして、久しぶりに取り出したキャリーケースに詰め込んだ。化粧品も最低限のものを詰めて慌てて荷造りを終わらせた。
翌日。私は羽田空港交際ターミナルのギュウギュに来ていた。
「いらっしゃいませ。ご予約の方ですか。」
「あ、はい。斎宮で予約しているものなんですが。」
「斎宮様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
短い会話のやり取りが行われ、私は個室へと案内された。すると、そこにはもうすでに女性が座っていた。20代であろう女性はたたづまいからもっと大人な雰囲気を感じられる。背筋をピンとしている彼女を見ると、私の背筋まで伸びた。
「昨日はどうも。早速本題に入らせていただきます。」
彼女は淡々としていた。
「まず、今回タイに行くのは嘘です。」
「え?そうなんですか。」私は困惑した。もう気分はバンコクになりかけていたこともあり、でもどこかほっとしたところもある。
「ええ。あなたの本気度を確認させていただきました。試すようなことをして申し訳ないです。でも、ルドラの意思を継がれるということは生半可な気持ちでは行えないことです。どれだけ意思がお強いのか確認させていただきたいと思い、今回このような形を取らせていただきました。」
「つまり、私は合格だということでしょうか。」恐る恐る聞く。
「ええ。合格です。きっとあなたなら、ルドラになることができます。」
「よかった。」私は思わず笑みが出た。
「一つ質問をしても良いでしょうか。」
「あ、はい。」
「あなたはルドラとはどんな存在だと思いますか。」
「私は、きっとルドラは私のようなしがない青年がキッカケを持って社会にイタズラを仕掛けていると思っています。」
「なるほど、そういう解釈をされているんですね。」
「ええ。」私は自信を持ってそう答えた。そういうと彼女は少し笑みをこぼしながら答えた。
「セレンさんのイメージが強いですね。さすが、彼に興味を持って通い詰めていただけありますね。」
「いや、そんな。」私は慌てた。自分がルドラではなく露祺セレンについて語っていたということに。だが、それは間違いではないはず。彼はルドラなんだから。でも、ルドラという人をイメージする時に彼を思い浮かべていたことに気づいたから妙に恥ずかしかった。
「あなたを第二のルドラだということでお話ししますが、実はルドラとはセレンさん含め四人の人間が一つとなって行動していたんですよ。」
「ええええ。そうなんですか。」私は驚いた。ルドラとはずっと一人の人物だと、露祺セレンだと思っていたからだ。
「ええ。知られてはいないでしょうがー。でも実際、警察がわれわれルドラの犯人像が掴みにくいとプロファイリングでは思われると思います。それは、そもそも一人の人間で運営されていないからなんです。4つの人格が統合することによって、行動や着目点がぼやけて正体を掴みづらい。そう考えています。それの甲斐もあり、警察はなかなか私たちの尻尾を掴むことができなかったのでしょう。」
「じゃあ、セレンさんはどうして捕まったんですか。」私が不思議そうに彼女いとう。
「それは、仕方のなかったことです。ルドラとしての次のプランに必要なことのために行動した結果です。そして、私たちは彼を失ってしまった。彼は、私たちが捕まる事を憂いて、小さな炎を紡ぐことに専念して欲しいと伝えてくれました。」
「小さなほむら?」私がくりかす。
「燈となるような存在。そう、あなたのような第二のルドラになりうる存在を見つけて欲しいというものです。」
「そうだったんですね。そんな大事な役目を私なんかでいいんですか。」私は、急に不安になった。これだけのことを成してきた人物を自分が非t機継ぐことについて。
「その意見はむしろ逆です。あなたしかいないんです。あなたが第二のルドラとして行動してください。」
彼女のまっすぐな目に私は勇気づけられた。
「わかりました。やってやります。」
「ありがとうございます。」彼女はとても嬉しそうに言った。
「それで何ですが、私はまず彼を勾留施設から救い出したいと思っています。」
「ルドラさんをですか。」
「ええ。英雄の帰還です。これはきっと大事になってくると思います。」
「英雄の帰還。そうですねー。」彼女は少し空を見てから続けた。
「しかし、彼を解放せよと叫んだところでそんなことは難しいと思います。まずは、あなたが来たということを世の中に示してほしい。」
「私が来たという証明?」私は何をすればいいのかよくわからなかった。自分の証明なんて。やったことがない。
「ええ。そのために、あなたへのプランを考えています。」
「そこまで準備されていたんですか?」
「ええ。いきなり第二のルドラになって何をすればいいなんて普通の人には思いつきません。そいこはセレンさんも同じ考えを持っていました。」
「何だか、自分が捕まる事を予言していたようですね。」
「最悪の事態を想定して考える。それは、彼の得意分野でしたよ。それに、彼はそういう預言者的な資質がありました。自分は次のイタズラで警察に捕まってしまうかもしれない。そんな気がすると。そういうところに惹かれて私たち他の三人も彼に惹かれたのかもしれません。」
「それなんだかわかります。」
そう言って、彼女と私は彼の話で盛り上がった。どこか興味を惹かれてしまう点やルドラの今までの行動の話を楽しくおしゃべりをした。きっと、良い社会ができる。そう思い、私はこの夢のような現実に少し興奮していた。