【エッセイ】褒めて伸ばすって本当!? 空気を読む脳(中野信子)
褒めて伸ばすって本当!?
「褒めて伸ばす」「褒めて育てる」いう言葉をよく耳にする。果たして本当にそうなのだろうか。自分自身を振り返ってみると納得できる部分もあるが腑に落ちない自分もいる。でも、今の子供は自分とは違うのかと納得させようとしても数十年で脳が進化するとも思えない。
1990年代にこの疑問のヒントになるような実験がコロンビア大学で行われている。
テストを実施した子供に声をかけ、別の難易度の異なるテストを選んでもらうという実験だ。声のかけ方3種類である。結果は、以下のとおりである。
声のかけ方 l 難しい課題を選ばなかった割合
①頭がいいね l 65%
②努力したね l 10%
③何も言わないl 45%
この結果から、研究チームは、①の「頭がいいね」と声をかけた子供たちについて、以下の見解を示した。
⑴「頭がいい」と褒められた子供は、必要な努力をしようとしなくなる。
⑵「頭がいいと思われなければならない」と思い込む。
⑶「頭がいい」と思わせるためのウソに抵抗がなくなる
さらに、以下のような見方も示している。
Ⅰ悪い成績をとると無気力感にとらわれやすくなる。
Ⅱ難しい問題ができないと、評価と実力が矛盾し、やる気をなくしやすい。
Ⅲ評価下げることのないようなタスクばかりを選択する。
(失敗を恐れる気持ちが強くなる。)
②「努力したね」と声をかけた子供たちについては、その後も難しい問題を面白がる傾向があったようである。
では、どのように接することが適切なのだろうか。
研究チームは次のように結論づけた。
褒め方には、注意が必要である。もともとの性質を褒めるのではなく、努力や時間の使い方、工夫を褒めることが、挑戦することを厭わない姿勢を育み、望ましい結果を引き出す。
しかし、結果や手順が分かっているタスク(作業的なもの)に関しては、報酬がある方が能率が良いことも分かっている。そのため、課題を提示する側が子供に対し、作業的なものなのか、新規探索、もしくは、創造的なものなのかを判断し、後者の場合には、努力や工夫を楽しませるようなアプローチをすることが大切なのではないかと考えられる。