命綱の先にあるもの
先日閉幕したパリ・パラリンピック。
視覚障害T12種目(重度弱視の選手によるブラインドマラソン)でスペイン代表エレナ・コンゴスト選手が、転倒しそうになった男性ガイドランナーに手を添えようとして、テザー(ランナーとガイドを繋ぐロープ)を一瞬手放した。
3位入賞目前、ゴール手前2メートルでの出来事だった。
パラリンピックのルール上、一瞬でもテザーを手放すことは規約違反とされ、コンゴスト選手は失格となってしまった。
視覚障害3クラスのうち、T12クラスは視力の程度が手の形を認識できるものから視力0.03まで、または視野が5度以内とされている。
ガイドランナーは、走路の状況や給水所の位置など、逐一ランナーの目となってあらゆる情報を選手に伝えながら並走する。選手にとっては自分の分身のような存在だ。
テザーはそんな選手とガイドを結ぶ″絆″であり、命綱である。
ゴールを目前にし、コンゴスト選手はメダルを確信していただろう。
ガイドランナーがよろめいた一瞬の間に、彼女が何を思ったかはわからない。しかし、ほんのわずか一瞬の出来事に、選択の余地はなかったと思う。手を差し伸べたのは、とっさの無意識の純粋な行動だったに違いない。
それは、もうすぐ掴むことができるメダルよりもずっと大切なものだった。
命綱のその先には見えない″絆″が間違いなくあった。彼女はそれを意図せず証明した。
記事の見出しの通り、彼女はメダルに代えられない、人としての大切なものを教えてくれたのだ。