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呼び名が変わるとき


今の家に引っ越してきたのは息子が5歳、幼稚園の年長の年だった。
引っ越しとともに幼稚園も転園することになった。

次に行く幼稚園は1番近所という理由で希望したのだけど、幼稚園事情に詳しいママ友によると、入園時にきっちりした面接を行う園だという。

「だからさぁ、一応色んなこと聞かれても答えられるよう準備しといた方がいいよー。好きな遊びとか食べ物とか、あと親の呼び方とかもさ。」

ふむふむ、なるほど。ママ友の話しを聞いてから、だいぶ早めの面接練習を始めた。

「好きな本は何ですか?好きな遊びは何ですか?
こんな質問をされるんだよ。あと、ママのことをこれからお母さんって呼ぶんだよ。パパはお父さん。できる?」

「うん!わかった!!」

いつになく元気な返事だった。

この会話の直後、息子が部屋から私を呼んだ。

「お母さん?明日〇〇くんと遊んでいい?」

返事をしそびれた私。

「お母さん??」また息子が呼びかける。

へ?お母さん?私?私か!!

「あっ、は、はいはい、いいよー。」

答えながら動揺する私。

ん?そんなに急に呼び名って変えられるの?え?


その瞬間から、息子は私を「お母さん」と呼び、「ママ」とは一切言わなくなった。言い間違えもためらいも全くなくだ。


そのことについて聞いても

「だって、そうしてねって言ったじゃん?」

と答えるだけ。

確かにそうなんだけど‥。

結局、面接では「お母さん」の登場場面はなく、私の「ママ」時代はあっけなく幕を閉じたのだった。

もしも面接練習がなかったら、いつまで「ママ」と呼ばれていたのだろうか。
そしてこの先いつか「おふくろ」と呼ばれる日が来るのだろうか。きゃー!

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