シティCL初優勝ならず…「初ファイナル初優勝」はどれくらい難しい?
先週、ヨーロッパサッカーの1シーズンを締め括る、チャンピオンズリーグ(以下CL)の決勝戦が行われました。
2012年以来2度目の欧州王者を狙うチェルシーと、
悲願の初優勝を狙うマンチェスター・シティ(以下シティ)の
イングランド・プレミアリーグ勢同士の決勝となりました。
2008年のUAE資本によるクラブ買収以降、悲願であった欧州制覇にあと一歩のところまで辿り着いたシティ。
今季限りでの退団が決まっていたクラブのレジェンド、
アグエロの花道を飾るためにも、是が非でも勝利を収めたいファイナルでした。
そう言った意味でも、ギュンドアンのまさかのアンカー起用という奇策も含め、
シティズン(シティファンの総称)の皆さんに取っては悔いの残る、いや絶望の1日だったでしょう。
(僕もサラーがラモスに投げ飛ばされたあの日は忘れられませんw)
そんなシティズンの皆さんに、少しでも慰めになるようなデータを、と思いこの記事を書いている次第です。
さてここからが本題なのですが、今回初のファイナルの舞台までたどり着き、悲願達成を前に敗れたシティ。
では、その「初ファイナル初優勝」は、どれほどの難易度なのか?
について考えていきます。
まず、CLの基本情報をさらっておきます。
記念すべき第1回大会は1955/56シーズンでした。
この時はまだ現行のチャンピオンズリーグではなくチャンピオンズカップという名称でした。
そこから数えること今季で66回目の大会となります。
この66回で生まれたチャンピオンは合計23チーム。
その中で「初ファイナル初優勝」を成し遂げたのは15チームです。
「なんだ、多いじゃないか、それじゃ何の慰めにもならないじゃないか」
とため息を漏らしたそこのシティズンさん。
結論づけるのはまだ早いですよ。
確かに「初ファイナル初優勝」を成し遂げたチームは歴代王者23分の15と割合で言えば多く感じられますが、
「大会初期は初優勝が多くて当たり前」ですよね?
第1回から一気に5連覇したレアル・マドリーというイレギュラーは置いといて、
大会ができたばかりの10年ほどは、初優勝チームが多くて当然ですよね。
ここで初めてシティズンの皆さんにとっての吉報です。
この「初ファイナル初優勝」は、1996/97シーズンのドルトムント以降、
1チームも成し遂げていないのです。
そのドルトムントの戴冠以降、CLはさらに23回(今季を除いて)の歴史を重ねることとなりますが、
その23回の内7つのチームがこの「初ファイナル初優勝」に挑み、散っていきました。
バレンシア(1999/00)、レヴァークーゼン(2001/02)、モナコ(2003/04)、アーセナル(2005/06)、チェルシー(2007/08)、トッテナム(2018/19)、PSG(2019/20)となります。
この中でチェルシー以外はまだ悲願を達成できていません。
今回2度目の王者となったチェルシーも、過去にシティと同じ悔しさを味わっています。有名なあの「テリーのスリップ」の時ですね。
(スリップと聞くと僕はジェラードの方がよぎってしまいますw)
しかし、チェルシーもそこからあのドログバのPKまで繋がっていくわけですから、シティもまだまだチャンスはあるでしょう。
上の7つのチームで言うと、バレンシアはなんと、初ファイナルで敗れた翌シーズンもファイナルまでたどり着き、2季連続で涙を飲んでいます。
そんなチームもあるくらいだからシティの方がマシだ、なんて言うつもりはありませんが、初ファイナルで敗れ、その悔しさを原動力に2季連続でまたファイナルまでやってきたのに敗れてしまったチームがいるという事実は、
少し元気が出ませんか?
更にシティズンたちを元気にする情報を1つ。
初優勝に限らず、
ファイナルで敗れたその後3年以内に雪辱を果たしたチームがどれだけいるのか?というデータです。
準優勝の後、3年以内に優勝したチームの数ですね。
その数は9。
アヤックス1969準優勝→71優勝
ハンブルク1980準優勝→1983優勝
ユベントス1983準優勝→1985優勝
マルセイユ1991準優勝→1993優勝
ミラン1993準優勝→1994優勝
バイエルン1999準優勝→2001優勝
ミラン2005準優勝→2007優勝
バイエルン2012準優勝→2013優勝
リヴァプール2018準優勝→2019優勝
これだけの例があります。
更に、準優勝の翌年に優勝したパターンは3つあります。
シティも充分にチャンスはあるでしょう。
あとはペップがいつまでいてくれるかですね…。
そしてこれは余談になるのですが、
とても面白い気づきがあったので紹介します。
1996/97シーズン、ドルトムントが最後に「初ファイナル初優勝」を成し遂げたのが、
「ボスマン判決」の時期と見事に被っている、ということです。
ボスマン判決を知らない人は調べてください。
簡単に言うと、この判決により、
所属クラブとの契約が満了した選手は移籍金なしで0円移籍が可能となり、
育成型の弱小、中堅クラブは有望な選手を自チームに留めておくのが難しくなり、
資金力に長けたクラブによる、金に物を言わせたチーム強化が可能になりました。
このボスマン判決以降、世界のサッカー選手の流動性は大きく増しました。
ボスマン判決が1995年12月で、ドルトムントがCLを制したのがその2季後になります。
それ以降「初ファイナル初優勝」が出ていないわけですから、ボスマン判決との因果関係は強いように思います。
ボスマン判決以降、ビッククラブと中堅クラブ以下の力の差が大きくなり、更にそのパワーバランスが固定化したことで、
新興勢力がそのバランスを崩す=初優勝は難しくなっていった、ということではないでしょうか。
チェルシーもアブラモビッチの買収が2003年、
CL初制覇が2012年ですから、9年の歳月を費やしています。
PSGなんかもチェルシー、シティと同じ分類が可能かと思いますが、昨季はシティ同様にファイナルで敗れてしまい、
「初ファイナル初優勝」は達成できませんでした。
チェルシーやシティ、PSGなどの金満クラブでも、初優勝は難しいのならば、
今後育成型の中堅クラブがCLを制するのは、相当難しいミッションになるのではないでしょうか。
2003/04のポルトもそれ以前に優勝経験がありますし、
2018/19のアヤックスも育成出身者中心のチームでしたがベスト4で破れました。
「自前で育成した選手たちで優勝」という夢を叶えた最後のチームと言われているのが、
1994/95シーズンのそのアヤックスですから、
これもボスマン判決と見事に時期が被っています。
このシーズンのアヤックスは、ボスマン判決による被害をギリギリ免れたと言えるでしょう。
このチームには、ファン・デル・サール、デブール兄弟、ライカールト、ダービッツ、セードルフ、リトマネン、クライファートらがおり、まさにドリームチームでした。
監督は若き日のファン・ハールです。
しかしこのドリームチームの栄光は長続きしませんでした。
先述のボスマン判決により、アヤックスはビッククラブの草刈場となり、
次々と主力たちが引き抜かれていったからです。
自前の選手たちで優勝と言えば、
2010/11のバルセロナもそれにあたりますが、
バルセロナは決して資金力に恵まれないチームではないですよね。
少し話が逸れましたが、果たしてシティは、今季の悔しさを糧に、来季以降再びファイナルの舞台に返り咲き、悲願のCL制覇を成し遂げることはできるのでしょうか。
今季はまだEUROがありますが、
クラブシーンにおいてはひとまずCL決勝で終わり。
来季もヨーロッパ・サッカーは楽しみが尽きません。
小野トロ
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