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【この本を読んで考えた】妊娠カレンダー

三編の短編からなる本。

ネットを通じて新品を購入したのだが、届いてまず気になったのはカバーの絵の背景のインクが擦れたような跡。
上部の左右に擦れたような汚れ、そして下部の右側には染みのような汚れ。
汚れるのが嫌なので本を購入すると毎回透明のブックカバーを付けている私は、アルコールを含ませたティッシュで拭いてみるが、汚れは落ちない。

もしかしてと、ネットに上がっている写真を見ると同じく黒く掠れた線と押しつけたような滲み。

あー!

装丁の人ごめんなさい、アートが理解出来てなかった自分を恥いります!

『妊娠カレンダー』

姉が妊娠した。

━わたしはもっと設備の整った大きな病院がいいと勧めたが、彼女は
「わたし、子供の頃から、赤ん坊を生むならM病院にしようって、決めてたの」と言って譲らなかった。━

主人公は実家で姉夫婦と三人暮らしで、そんな中姉の妊娠を知るが、姉と義兄は妹の前で「赤ん坊」のことを話題にせず、妊娠していることとお腹に「赤ん坊」がいることは、無関係のように振る舞っている。なので妹にも、「赤ん坊」が手触りのあるものとは思えないとのこと。

「妊娠」という大きな出来事が家の中にもたらされ、それにより各々が振り回されているにもかかわらず、お腹の中の赤ちゃんに対しての愛情が表面に表れていないところが不気味である。
もしかしたら、妹の居ない所ではそういう会話がなされているのかもしれないが、少なくとも妹の目には赤ちゃんを待ち望む幸せな姿は映っていないようだ。

よく、妹か弟が出来る予定の家庭で、両親と一緒に子どももお兄ちゃん、あるいはお姉ちゃんになる日を待ち望んでいたりする場面があるが、この妹も、姉夫婦が赤ちゃんのことをもっと話したり楽しみにしている様子を見せていたら新しい命に対する思いも違ったものになるのだろうか。

妹は義兄に対して快く思ってないふうに見えるのだけれど、読んでいる私からみたら、まあ少々頼りない気もするが、夫としてそこまで酷いだろうかと、むしろ色々頑張ってる気もする。

それでも気に入らないように見えるのは、もしかしたらそこに姉を取られたという嫉妬が隠れているのではないのだろうか。
そして姉のお腹の子は、姉を苦しめるものとして認識しているのではないのかと。

私の思い過ごしかもしれないけれど、色々考えると先々のことなど、どんどん不安になる。

『ドミトリイ』

ドミトリイ=学生寮
高い天井の玄関ホール、廊下の壁伝いにのびるスチーム用のパイプ、れんがを並べて作った中庭の小さな花壇。そんなドミトリイで学生時代を過ごした主人公のところに、突然いとこから電話があり、寮を紹介することになる。

『夕暮れの給食室と雨のプール』

主人公がジュジュと一緒に引っ越して来た先での話。
匂いを嗅ぎ、温度や湿度を感じ、景色を楽しみながら読み進める。

以上の3編の作品だった。
状況がすっと入ってくるので、ドキドキしたり、痛かったり、苦しかったりも伝わってきているはずなのに、それらが後を引いたり、ささくれが残ったりということがなく、どれも読み終えたらすべすべした瓢箪に入っているというイメージ。
そこが小川洋子氏のすごいところだなと今回も思った。


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