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春の始まりを感じた朝
朝早く、まだ暗いうちに目が覚めた。時計を見るとまだ4時半。
毎年、春が巡ってくると眠りが浅くなる。自律神経が乱れ始めている証。寒暖差や気圧の変化が大きい時期に、わたしの体はすぐに外からの影響を受けてしまう。この症状に気づき始めた頃は、朝早くに覚醒して寝られなくなることが何となく怖かった。
でも今は「これが自分の体なのだ」と受け入れている。
妻も同じような体の状態のよう。少し遅れて起きてきた。
「このまま横になっていてもいいけど、目が覚めたのだから起きてしまうのも悪くないね」ということになり、5時半になる頃にベッドから抜け出した。
ダイニングのソファーで少しぼーっとし、身支度を始める。
ポットで沸かした白湯を飲み、シャワーを浴びる。身支度を整えてから習慣にしている朝読書を始める。
読書がちょうど切りの良いところまで来た時、ふと窓の外が明るくなっていることに気づいた。
「そろそろ行こう〜」と妻に声をかける。
6時45分、朝散歩の時間がやってきた。今日はカメラ(コンデジ)を連れていく。
「見て、あれ!」
マンションの二階から階段を降りる途中、妻が指差したのは、斜め向かいのマンション。その三階の部屋の窓に大きな赤いものが映り込んでいる。
朝日。真っ赤な太陽だった。神々しいまでの美しさ。
上ってきた力強い太陽に背中を押されるように、二人で歩き始める。
車の通行量が多い道を駆け抜け、山側の裏道に入り視界が開けた。
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きれいな朝焼けと共に太陽が上っていく。思わず息を呑む。
深呼吸。少し冷たい新鮮な空気が体を満たしていく。
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3月に入り、荒涼としていた大地が少しずつ色づき始めている。その大地を太陽がさらに色づけていく。
しばらく平坦な道が続いたあと、山側に入っていき坂道を登っていく。
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登りきったところから見えたのは、朝露が太陽に照らされ水蒸気となり町を覆う幻想的な風景。
よく見ると空全体が霞んでいる。
春霞だ。
隣に妻がいるのも忘れて夢中で写真を撮り続ける。
「先に行ってるね」と妻は歩き始めた。上の空で返事をしたわたしはその後も数枚写真を撮っていた。
誰もいない歩道を走り、妻と合流。その後は、二人で頭上から聞こえる鳥の声に耳を澄まし、足元で咲き始めた野花を見つけながら歩いた。
「春になってきたね」、「なんか気分が違うね」
家につく頃には、高ぶっていた神経も落ち着いてきた。
朝散歩から帰宅して数時間後、スマホのカレンダーアプリを開いた時、目に入ってきた表示。
「きょうは啓蟄(けいちつ)です。
冬眠していた生き物たちが目覚め始める頃です」
春の始まりだ。
自分の体からも、目に入る風景からも、暦からもそれを感じた朝だった。