自分で選んだ家族で生きていくこと ― 『西園寺さんは家事をしない』最終話を前に

TBS 火曜よる10時に放送されているドラマ『西園寺さんは家事をしない』がずーっとおもしろい。夏のはじまりの初回から、秋になりそうだけどまだまだ暑い今日この頃まで、ずーっとおもしろい。

家事をしない独身女性と、年下イケメンシングルファザーとのハチャメチャラブコメ。そうなんだけど、そうでもない。ここ数話でようやくふたりの恋愛関係が進展しつつあるけれど、ただのラブコメではなかった。それぞれの過去を振り返りつつも、手を取り合って、なんとか前に進んでいく人たちが生きていく物語だった。

とうとう今夜が最終話。夏ドラマとのお別れの季節がきてしまって本当に寂しい。最終話を前に、感想を記します。

当て馬だからって退場させなくていい

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松本若菜さん演じる西園寺さん、松村北斗さん演じる楠見くんとその娘のルカちゃん。3人（+1わんこ）で暮らしていた「偽家族」。そこに「仮彼氏」として加わった津田健次郎さん演じるカズト横井さん。

ビジュアルも声もイケすぎている大人気ユーチューバーとして現れた。かつて西園寺さんに救われたことで憧れを持ち続け、一途に、まっすぐに気持ちを伝えてくれる、とんでもなく良すぎる当て馬だった。（当て馬とは：主人公と結ばれる本命以外の相手役のこと。切なければ切ないほど印象に残っていい当て馬だと思う）

西園寺さんは自分の気持ちに向き合い、本彼氏となった横井さんへ別れを告げる。横井さんは別れを拒否するも、西園寺さんの心には楠見くんがいて、ふたりは別れることとなった。

切ない。あんなにいい人なのに、横井さん……と悲しんでいたところ、横井さんは偽家族の家にまた現れた。気まずそうにはしつつも、偽家族に背を向けることはなく、また現れた。そして、引越しが嫌で険悪なムードになっているルカちゃんの心の拠り所となる。

身を引いたからって、どんなに切ない別れのシーンがあったからって、そこで物語から退場させなくたっていい。家族だけで閉じきることなく、ほかのだれかにも甘えられる関係が素敵だと思う。偽家族の柔軟さと、簡単に排除されることのない大切な関係になっていることが伝わってきた。横井さん、ただの良い当て馬じゃなかった。

自分で選んだ家族で生きていくこと

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西園寺さんには、あまり振り返りたがらない家族があった。自分の生まれ育った家族。大好きだったのに、欠けてしまって、壊れてしまった家族。

楠見くんには、戻りたくても戻れない家族があった。大好きな人と作った家族。大好きだったのに、いなくなってしまって、もう戻ることのない家族。

そんなふたりが出会って、偽家族を作った。ふたりがそれぞれ自分で選んで作った家族。助け合いつつも、自分で選んで、続けていこうとしている家族。

「家族」というグループは、子どもとして参加するときには自分で選ぶことができない。多くの場合、与えられたその場所で生きていくことになる。その家族で生き続けることを選んでもいいし、成長した先で、他人と向き合って、「家族」になることを選ぶこともできる。

西園寺さんと楠見くんは、家族に対していろんな想いを抱えたうえで、「偽家族」という家族を作ってみることを選んだ。けれど、ルカちゃんは本当の意味では選ぶことはできていない。だからこそ、ふたりがいつでもルカちゃんの方を向いていて、ルカちゃんの言葉をしっかり聞いて受け止めていることが印象的だった。ルカちゃんが自分で選んで作ったわけではないけれど、ここにいることを自分で選んだのだと思えるような、素敵な家族になっていくのだと思う。

その涙はあなただけのものだから

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第10話で、ふたりは気持ちを確かめ合った。というか、気持ちをぶつけ合って、お互いに想い合っていることを知った。ラブコメならではのドキドキ展開での告白ではなく、ふたりで歩く帰り道での、口論の延長戦で気持ちをぶつけ合うという驚きの告白シーンだった。

お互いを大切に想っているからこそ、伝えてこなかった気持ち。けれど、熱くなってしまって、溢れだしてしまって、お互いの気持ちを探り合うのではなく、自分の気持ちを叫ぶようにぶつけ合った。いい大人だけど、それがすごくふたりらしかった。

だれかを大切に想うって、自分の気持ちを全部わかってもらおうとか、相手のことを全部知りたいとか、ふたりでひとつのぴったりのかたちになろうとか、そういうことではないのかもしれない。

ただそばで寄り添うこと、話をすること。そうやって大切な存在となっていった西園寺さんと楠見くん。その気持ちも、あの涙も、ふたりが寄り添うことで溢れだした、ふたりそれぞれの、自分だけのものだ。

さて、今夜最終話！

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先週最後に家出したルカちゃんはどうなるの？　あのクッキーの行方は？　黒子って何？　そして偽家族の行く先は……

この夏、ずーっとおもしろく毎週楽しませてもらったドラマ。最後の最後までずーっとおもしろいんだろうなあ。今夜もたのしみです。