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なんにもできなかった日々にひらけた本 ―『北欧こじらせ日記』週末北欧部chika 著
一日中ベッドから起き上がることができずに、なんにもできなかった日々がある。思い出したくもないけれど、そもそもあまりあの日々のことを覚えていない。
なんにもする気が起きない。眠ることもできない。そんな自分と向き合いたくない。本当になんにもできず、どうしようもない日々だった。
なにかを考えることもしんどくて、スマホで流れる情報を見ることもできなかった。読書もできなかった。小説を開いても、物語に心が動くこともなかったし、そんな自分に嫌気がさしていた。
そんな日々に、唯一手に取って、開くことができた本がある。
『北欧こじらせ日記』週末北欧部chika 著
寄り道だらけの人生で見つけた夢は、フィンランドで寿司職人
オールカラー・全編書下ろしコミックエッセイ!
「あの日フィンランドに出会っていなかったら、
きっと私の人生は、全然別のものになっていたと思う」
北欧の魅力にとりつかれ、通うこと12年。移住のために、会社員生活のかたわら寿司職人の修業を開始。モットーは「とりあえずやってみる」。
人生を、夢を、自分らしく全力で楽しむ姿に「読むと元気になる!」「ほっこりした」と大反響。
なんともまあ、ほのぼのとしたタイトル。幼いころにあこがれたフィンランドという国の魅力にとりつかれ、いつか移住することを夢見る、週末北欧部chikaさんのコミックエッセイだ。
chikaさんはひとり暮らし会社員として暮らしながら、週末だけでもフィンランドを感じたいと、北欧風のカフェで修行をしたり、北欧雑貨のバイヤーにチャレンジしたり、北欧好きを集めて北欧風のピクニックを開催したりして、あの手この手で楽しんでいた。
そしていつしか、日本人であることを活かした手に職をつけてフィンランドへ移住するために、寿司職人になることを思いつく。会社員として働きながら寿司学校に通い、週末は寿司店で修行をするというパワフルな生き方を選んで前に進んでいく、という物語だ。
文章にして書くと、なんかすごいな……ものすごい熱意の、パワーのみなぎる自己啓発ストーリーのような感じがするけれど、この本はみなぎる熱意を押し付けてきたりはしない。
chikaさんのなんともいえない可愛さの絵とやさしい言葉が、読んでいるうちに心にすっと入ってきて、わたしのガチガチにこわばった心をほぐしてくれた。
行ったこともないフィンランドという国、会社員をしながら寿司修行をして、海外移住という夢に向かって進むchikaさんの姿は、なんにもできずに動けない自分とはかけ離れた存在だった。本当の話が描かれたエッセイなのに、ファンタジーのような気持ちで読んでいた。
けれど、すこしだけ希望も感じていたようにも思う。もしかしたら自分も、いつかやりたいことを見つけるのかもしれない、そうしたら前に進む気力が湧いてきて、普通に過ごせる日が来るのかもしれない、と、すこしの希望のようなものも感じていた。ほんとうにすこしだけ。
続きを読みたくて扉を開いたときのこと
そしてこのエッセイは、『北欧こじらせ日記 移住決定編』、『北欧こじらせ日記 フィンランド1年生編』として、続編が発売されている。タイトルのとおり、chikaさんは修行の末に寿司職人としてフィンランドに移住したのだ。すごすぎる。
続編には、chikaさんが何年もかけて努力して夢を叶える姿、そして夢のその先を生きる姿が描かれている。
なんにもできなかった当時のわたしは、続編が出ていることを知り、扉を開いて外に出て、書店に向かった。ひさしぶりに外に出て、書店まで向かう道で感じた気持ちは、いまでも覚えている。
曇ってても太陽ってこんなにまぶしいんだなあ、とか、鳥ってこんな風の強い日でも鳴きながら飛ぶんだなあ、とか。歩きながらいろんなことを考えた。仕事に忙殺されていた日々では、外を歩いてもなにも感じなかったようなことが、心のなかであふれていた。
ひさしぶりに嗅いだ書店の香りで、なにかをひとつ取り戻したような気がした。まだ読んだことのない本がわたしに押し寄せるように壁一面に並んでいる光景は、なんだか途方もなくて、うれしかった。生きるって、無理して大きな壁を乗り超えることとかじゃないのかもなあ、と思った。自分で選んだものを楽しみながら生きていきたいなあ、と思った。そんなことをぼんやりと覚えている。
わたしをひらいてくれた本
フィンランドという幸せそうな国、そしてその国で暮らすことを夢に全力で生きるというなんともパワフルでファンタジーな主人公、chikaさんの姿。
もちろん、フィンランドで暮らす全員が世界一の幸せを感じている、なんてことはない。夢に向かって進み続けるchikaさんが、いつだってポジティブで希望に満ちている、なんてことはない。
フィンランドで暮らす人でも、苦しんでいる人、ささいな悩みをずっしり抱えて動けなくなっている人はたくさんいるかもしれない。chikaさんだって、上手くいかないこと、落ち込んでしまうことがあるのだと思う。(実際、エッセイにも苦悩が書かれている)
それでも、いまの暮らしを楽しむ姿に、夢に近付いた明日に向かって進もうとする姿に、そしてそんな暮らしが描かれているこの本に、わたしは救われた。
わたしはこの本を開くたび、なんにもできなかった日々のことを思い出す。
二度と戻りたくはないけれど、あの立ち止まった日々があったからこそ、いま普通に暮らせているのだろうなあ、と思う。立ち止まらずに進み続けていたら、壊れてなくなっていたと思う。
なんにもできなかった日々に、本を読むために開けたカーテン、本の続きを読むために開けた扉。あのとき、固く閉ざしたわたしをひらいてくれたのはこの本だったと、ずっと覚えてるんだと思う。
きれいに完結する作品も美しくて好きだけれど、続きを見せ続けてくれるこの日記も、わたしにとっては大切で、大好きな作品だ。
なんだか難しいことを考えたくない、なんにもしたくない、と思う人がいたらこの本を開いてみてほしい。すこし心が弱っていたり、いつも楽しめていたにぎやかなものが楽しいと思えないなあ、と思っているあなたに、この本をおすすめしたい。
本の綴じ方が「糸綴じ製本」となっているので、手を離しても本が閉じないのがさらなるおすすめポイント。本を持たなくても、ベッドにぽんと置いて、ごろんと寝転んで読んでみてください。
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