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夢も定かに  澤田瞳子著

奈良の京、聖武天皇の後宮を舞台に、仕えた女官たちを主人公とした歴史小説。登場するのは地方出身で平城宮に勤めた采女、采女とは地方の豪族の娘たち下級女官、一族の期待を背負い中央と地方を結ぶ存在として、又服属の証でもあった。登場する三人の采女にはモデルがいます。主な登場人物。
若子、阿波国出身容姿は十人並み長女だが妹に代わって出仕することに。天皇の食事を準備する膳司勤務。笠女、伊勢国出身男勝りの性格頼りになる姐御肌、書籍や文具等を管理する書司勤務。春世、因幡国出身藤原麻呂の愛人となり、浜足を産む。その愛らしい容貌から言い寄る男は後を絶たない、衣服の裁縫を司る縫司勤務。氏女、同じく後宮に勤務する畿内豪族の娘達。親族が出仕している名族の娘のこと。事あるごとに采女を見下す。藤原房前、切れ者と言われる受刀頭若子の愛人。藤原麻呂春世の愛人、浜足の父親京職大夫。安宿媛房前たちの妹[光明子]首天皇の妃安部皇女を産む。同じく妃の広刀自、井上皇女不破皇女の母、安宿媛と対立。海上王女、首天皇の妃の一人子を持たないため立場が低いが、天智の皇子志貴皇子の娘。安貴王海上王女の甥、春世に好意を抱いている。首天皇[聖武天皇]大人しい気性の割に多情妃の数は多い、生母は房前たちの姉で藤原不比等の娘宮子。三人の采女達は同室となる。共に暮らす宮中は色と権謀が渦巻き、与えられた仕事や立場逃れられない境遇の中で仕事に意地をかけ、騒動に巻き込まれたりする。帝の姻戚と言うことを最大限に利用して勢力を拡大しつつある藤原一族。平城京の宮廷で恋や野望、まだ聖武天皇が若く長屋王も藤原一族と均等を保っていた、井上皇女が伊勢の斎宮に任じられ。その何やら不穏な空気がただよう中で、宮廷に仕えた若き女官達の青春物語、あまり馴染みのない古代史を舞台にしている歴史小説ですが。面白い是非読んで頂きたくお勧めします。登場する実在の人物のこと、若子、阿波造若子出身の郡名を冠して板野采女、板野命婦とも呼ばれた。正倉院文書、正史続日本紀に登場する、外従五位下。又尊卑分脈で確かめると奈良時代後期に閣僚となった藤原楓麻呂の出自について、調べると藤原房前と若子の恋の行方が見出せるそうです。笠目、飯高君笠目続日本紀に四代の天皇に仕え、典侍従三位。春世、因幡八上采女だろうか尊卑分脈に藤原麻呂に一男あり、母は因幡八上采女と注記名は浜足後浜成と改名。春世はまた安貴王から深く愛され、[万葉集、巻第四、五三五番歌]に見える、安貴王の歌,遠妻のここにあらねば、玉埃の道を遠み思うそら、安けなくに嘆くそら安からぬものを、み空行く雲にもがも高飛ぶ鳥にもがも、明日行きて妹に言問ひわがために妹事無く、妹がためわれも事無く、今も見ること副ひてもがも。反歌、敷たへの手枕巻かず間置きて年そへにける逢はなく思えば。藤原麻呂との間に浜足をもうけるが、息子は正妻に渡して女官として宮仕えをしていた、のち安貴王に深く愛されるが春世は因幡国へ追放されしまう。相離れていての歌。以上万葉集の諸注にあり。春世は何故追放されてしまうのか、[夢も定かに]の中に描かれています。聖武天皇と海上女王との相聞歌も[万葉集、巻第四、五三十、五三十一番]天皇、海上王女に贈る、赤駒野越ゆる馬柵の結びてし妹が情は疑ひも無し。海上王女の和へ奉る歌。梓弓爪引く夜音の遠音にも君が御幸を聞かくし好しも。藤原四兄弟たちの内麻呂京家、房前北家の祖。古代史を基に創造。さもありなんと思わせる内容、女性達が生き生きと描かれている。古代史へ誘われる物語をどうぞ。              


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