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写真にはドラマがある ~松本路子の撮影ノオト~

世界各地のアーティストの肖像を撮影する中で、忘れられないエピソード、写真のこと、自宅マンションのバルコニーから、60鉢のバラ・果樹の季節の便りなどを綴ってみたいと思います。本・映…
人やものとの出会いの物語りを、一緒に楽しんでもらえたら、嬉しいです。
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2020年11月の記事一覧

植田正治  ~撮影ノオト~

植田正治  ~撮影ノオト~

写真する歓び「植田調」と讃えられる独特の作風で、フランスをはじめとして国際的に評価の高い写真家、植田正治。2005年に東京都写真美術館で開かれた回顧展の記憶が今も鮮明に残っている。1930年代から亡くなる前年の1999年まで、約70年にわたる作品が展示されていた。洒脱でさりげないが、存在感のある作品群。何よりも、見ているとどの写真からも「写真する歓び」が波のように押し寄せてくる。

植田本人には何

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フランソワーズ・サガン ~撮影ノオト~

フランソワーズ・サガン ~撮影ノオト~

最初で最後の来日「朝、1時間ほどホテルのプールで泳いできました」
フランソワーズ・サガンに会って最初に聞いた言葉だ。一瞬彼女の小説の中のシーンを思い浮かべ、悠然と微笑むその人を見つめてしまった。

サガンが来日したのは1978年。デビュー作の小説「悲しみよこんにちは」を発表したのは彼女が18歳の時で、それから24年の歳月が経っていた。その後来日していないので、最初で最後のお目見えだった。

悲しみ

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フェイス・リンゴールド ~撮影ノオト~

フェイス・リンゴールド ~撮影ノオト~

ニューヨークにて。行先を告げると、何台ものタクシーから乗車を断わられた。フェイス・リンゴールドの住むニューヨーク、東145丁目を訪れた日のことだ。1989年当時、ハーレムの治安はあまり良くなく、私は一抹の不安を抱きながら彼女の家に向かった。だがそこには10年来の知己を迎えるような笑顔が私を待っていた。

画家、造形作家、パフォーミング・アーティストとして知られるリンゴールドだが、なんといっても代表

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平沢淑子 ~撮影ノオト~

平沢淑子 ~撮影ノオト~

パリのアトリエにて。居間の窓下には、隣接する建物の庭園が広がり、バラが一面に咲くのを見渡せた。「見事な眺めでしょう。このジャルダン(庭)が気に入ってここに移ってきたの」

パリ、サンミッシェル大通りに面するアパルトマンの自宅兼アトリエに初めて平沢淑子を訪ねたのは、1985年の5月だった。彼女は私を近くの瀟洒なレストランでの昼食に招いてくれた。木漏れ陽の中で、たっぷりと時間をかけた食事の後、再び自宅

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